岸本加奈子「血りぬるを」(1989年2月10日第1刷発行)

 収録作品

・「血りぬるを」
「ある女学園二年の萩智子は、親友である砂田ヤエ、いっちゃんの二人と共に、京都を訪れる。
 三人は興味を惹かれて、人形寺に入ってみると、古ぼけた人形の中、ひときわ目を引く市松人形があった。
 この市松人形は、山で遭難して亡くなった少女のもので、死体が見つかるまでの間、両親が寺に預けていたのであった。
 いっちゃんが遊び半分に市松人形にいたずらをすると、智子とヤエには人形の眼が睨んだように見える。
 旅行の後、智子はいっちゃんの雰囲気にどこゾッとするものを感じる。
 いっちゃんは転任してきた中川という男教師に想いを寄せていたが、学校で彼の姿を見ると、「タカネグンナイフーロ」という言葉を呟き、凶暴な形相でヤエの首を締めつける。
 しかし、いっちゃんはその時のことは何も覚えていない。
 京都で撮った写真から、いっちゃんに霊が憑いていることを知った智子とヤエは、霊を呼び出し、真実を知ろうとするのだが…」

・「アリステア」
「ジェイ・トンプソンとジュリア・ターナの結婚式の日。
 式場の外で落雷で命を落とした女性がいたが、その女性はジェイ・トンプソンが捨てた女であった。
 時は流れ、ジェイとジュリアの間には女児が産まれ、アリステアと名付けられる。
 ブロンドの髪にブルーの瞳、まるで天使のよう。
 しかし、アリステアが五歳になった頃から、ジュリアの前で奇怪な出来事を起こすようになる。
 ジェイはジュリアの言うことを信じず、ジュリアはただ一人追い詰められていく。
 アリステアの正体は…?」

・「魔夏の夢」
「高校三年生の北谷和恵は、夏、杉山雄一の別荘を訪れる。
 杉山勇一は和恵より十歳も年上で、結婚歴もあったものの、二人は互いに強く惹かれ合っていた。
 夜、入浴中の和恵は見知らぬ女性の幽霊に襲われる。
 彼女は杉山雄一の自殺した前妻であった。
 前妻は、罠にはめられた雄一により浮気をしたと誤解され、風呂場で手首を切って自殺していた。
 雄一は和恵とともに別荘を出ようとするが、閉じ込められてしまう…」

・「人喰い」
「逸樹、久美、上沼、孝秋の四人は幼稚園の頃からの仲良し。
 ある日、久美は公園で身体を食い荒らされた無惨な死体となって発見される。
 上沼は個別に久美を殺した犯人を調べるが、やがて恐ろしい事実に気付くことになる…」
 スプラッター描写やモンスターも頑張ってますが、それよりもヒロイン達の「インスマウス顔」(注1)の方が不気味…。

 岸本加奈子先生の二冊目の単行本です。
 一冊目「闇からのリクエスト」も素晴らしい出来でしたが、この二冊目、初めて読んだ時、ハートを鷲掴みにされました。
 何といっても、「セブンティーン」というティーンの女の子向けのマンガ雑誌にこのセンスは凄過ぎる!!
 リミッターの弾け飛んだ、いやリミッターなんて端(はな)から存在してなさそうな、容赦ないグロ描写に心打たれます。
 絵は稚拙ではありましょうが、どこか伸び伸びしたところがあり、作者が「自由」に描かせてもらったような印象を持ちます
 そういう「自由」は陰惨な事件を経て、1990年代にはなくなってしまいました。(後に、怪奇マンガの皮を被ったレディース・コミックで復活…。)
 あまり根拠はないのですが、そういうことに思いを馳せる今日この頃なのであります。

 ちなみに、個人的なベストは「アリステア」です。
 内容は「スーパー・チャイルド」と「リーンカーネーション」の混淆ですが、サディスティックなまでに陰険な描写が神経を掻き毟ります。
 そういう描写に「素朴」な絵柄が意外にもフィットしているような感じがします。

・注1
 早や二十年以上も前の高校生時代に買ったまま、本棚で表紙を飾るだけだった「ラヴクラフト全集@BD」(創元推理文庫/全巻揃っていません…)。
 いまや古典ですので、読んでおかなくてはまずいと思い、読み始めましたが、あらあら、予想以上に面白いです。(でも、体力ある時にしか読めません。)
 一巻の冒頭を飾る「インスマウスの影」…傑作でありました。後半の脱出劇はなかなかにスリリング。
 早く読んでおけば良かった…と思いつつも、生半可な気持ちで取り組んでもゲッソリする内容ですので、まあ、読む「時」が来たということなのかもしれません。

2016年4月1日 ページ作成・執筆

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