手塚治虫「百物語」(1976年11月30日初版発行)

・「第一部 放浪編」(「少年ジャンプ」1971年7月26日)
「勘定方の一塁半里は、お家騒動のとばっちりを受け、何の罪もない身で切腹する破目になる。
 土壇場の彼の前に、「スダマ」と名乗る、奇怪な娘が現れる。
 彼女は彼の魂を買う代わりに、三つの願いを叶えると提案。
 半里は
「もう一度、人生を満足がいくまで過ごしたい」
「天下一の美女を手に入れたい」
「一国一城の主になりたい」
 と願い、彼女と契約書を交わす。
 スダマに連れられ、城から遁走した半里は、最初の願いを叶えるため、山奥の魔女の家にやって来る。
 そこで、奇妙な薬を飲まされ、半里の容貌は、別人のものへと変わる。
 名前も不破臼人と変えるが、彼は、残してきた娘の真砂が心残りで…」

・「第二部 恐山編」(「少年ジャンプ」1971年8月23日)
「臼人は、魔女の家で、玉藻前(たまものまえ)の絵を見て、ぞっこん。
 彼はスダマに二番目の願いを叶えるよう言い、二人は恐山を訪れる。
 その日は年に一回の魔性のお祭りの日で、恐山は多くの妖怪変化がどんちゃん騒ぎ。
 スダマの案内で、臼人はどうにか玉藻前と面会が叶う。
 だが、この玉藻前は、なかなか性悪な女狐妖怪で、臼人は大ピンチ。
 スダマに助けられ、玉藻前から逃げ出すものの…」

・「第三部 黄金編」(「少年ジャンプ」1971年9月27日)
「ある出来事をきっかけに、臼人は、弱小藩である浪岡家に仕えることとなる。
 彼は小国を大きくするため、スダマに金の出る場所を尋ねる。
 山奥の、地下二百メートルに金脈を見つけるが、安達太良(あだたら)というムカデの妖怪が出現。
 臼人の機転で、安達太良との勝負には勝つものの、この騒動で、玉藻前に臼人の行方を勘付かれてしまい…」

・「第四部 下剋上編」(「少年ジャンプ」1971年10月25日)
「黄金を得たものの、遊んでばかりのバカ殿。
 愛想を尽かした臼人は、家老に相談し、謀反を計画する。
 計画は事前に密告され、一度はピンチに陥るが、スダマの作った魔薬で、形勢逆転。
 バカ殿は城を逃げ出し、臼人は城の主となる。
 残る願いは、二番目の「天下一の美女を手に入れたい」だが…」

 「百物語」というタイトルですが、それは全く関係がなく、ベースはゲーテ「ファウスト」第一部です。(注1)
 読んだことがなく、詳しくはありませんが、1950年に手塚治虫先生は「ファウスト」をコミカライズしており(注2)、また、遺作の一つに「ネオ・ファウスト」がありますので、「ファウスト」にはこだわりがあった模様です。
 「百物語」でも、魔女の家を訪れるシーン(放浪編)、酒場で酔漢達が魔法をかけられるシーン(放浪編)、恐山に登るシーン(恐山編/「ファウスト」第一部では、ワルプルギスの夜にブロッケン山に登る)等、「ファウスト」の影響が散見されます。
 とは言え、そこはちゃんとアレンジして、舞台を下剋上時代の日本に置き換え、メフィストにあたる小悪魔のスダマとのロマンスもストーリーに組み入れております。
 ただ、理由は定かでありませんが、四話で終わっておりますので、若干、物足りなさを覚えます。

・注1
 「ファウスト」は、池内紀氏の散文訳(集英社文庫)を読みました。
 第一部はお馴染みのストーリーでそれなりに楽しめたものの、第二部、さっぱり意味がわからない…。(ドイツ語では凄まじい名文らしいけど)
 一通りは読みましたが、すっかり頭の中から抜け落ちてしまっております。

・注2
 「手塚治虫オフィシャル・サイト」内の「ファウスト」のページにて詳しい解説がなされております。
 各作品について、丁寧な解説がついており、非常に勉強になります。(ありがたいことです。)

2021年1月16日 ページ作成・執筆

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