わたなべまさこ「ねんね…しな」(1987年7月25日第1刷発行)

 収録作品

・「女の首」
「とある海辺の町。
 海洋研究所に勤める山上元彦は、海に面した洋館に住む娘に想いを寄せていた。
 彼が帰宅途中に洋館の近くに寄ると、娘は三階の窓から顔を出し、ずっと海を眺めている。
 彼女は西洋人のハーフのようだが、詳しいことはわからない。
 わかっているのは、この家は外洋航路の船長をしている秋津川という男性のもので、この付近では「化け物屋敷」と言われ、よくない噂ばかりであった。
 ある休日、彼は寮で一人になる。
 秋津川家に宅配便が来ており、午後、召使の老婆が荷物を取りに来る。
 山上はこの機会を活かして、荷物を洋館にまで運ぶ。
 中に案内されると、彼の意中の娘が現れる。
 娘の名は聖といい、老婆の後ろに隠れ、彼をちらちらと盗み見する。
 刺繍を見てほしいと頼まれ、彼女の部屋に行くと、彼は娘にキスをされ、そのまま、彼女を抱く。
 散々情交を尽くし、目が覚めると、もう明方。
 彼がその場を立ち去ろうとすると、耳元で「帰しはしませんよ」という娘の声が聞こえる。
 振り向くと、娘の首が伸びて、笑っていた…」

・「死の棲む家」
「正樹と宇野里也子は同じ学部で四年の付き合い。
 里也子は正樹を愛しているが、彼の心は一流企業の重役の娘、関山友子に移っていた。
 里也子の希望で、二人は下北半島の仏ヶ浦へ旅行することとなる。
 これは二人の最後の旅行になるはずであった。
 二人は東北新幹線に乗るが、里也子はある女性のことが気になって仕方がない。
 女性はずっと二人の近くにおり、どこか影が薄かった。
 途中、どこかの駅に新幹線が停まり、また発車した時、急ブレーキがかけられる。
 外に出ると、あの女性が線路に飛び降り、ズタズタになっていた。
 この件で里也子の精神状態は不安定になり、正樹は苛立ちを増していく。
 夜更けに青森のホテルに着き、翌朝、午前八時に下北汽船に乗って、五時間後、福浦港に到着する。
 しかし、泊まる予定の旅館が前日に火事で全焼し、また、天気が崩れ、船もいつ出るかわからない。
 山の上に「彼岸花」というペンションがあるというので、行ってみると、ちょうど一部屋だけ空いていた。
 だが、満室の割りに、やけに人気がない。
 そして、そこで出会う人々は…」

・「悪霊」
「ブラジル、ロンドリナ。
 内田研は、英集商事の開発部の研究所に勤務する男性。
 彼は三年ブラジル支社で勤務した後、もうすぐ日本に帰国予定であった。
 ある日、彼はサンパウロに向かっていて、大雨に襲われる。
 車の調子も悪いため、その夜はモーテルに泊まる。
 彼はバーで一人酒をするが、バーにはもう一人客がいた。
 それは街娼らしき女性で、病気持ちなのか、やけに顔色が悪い。
 いつしか二人は泥酔し、彼は女を部屋に誘い、抱く。
 ことの後、研は小鳥のさえずりのような音で目を覚ます。
 音は女が寝ている毛布の中から聞こえ、毛布をめくると、女の右肩には人面疽があった。
 人面疽は研にも移り、新たな惨劇を生む…」

・「穴の底」
「中岡勝也は冴えないサラリーマン青年。
 恋人の咲子とのうまくいかず、居酒屋でやけ酒を呷る。
 酔っ払った帰り道、暗い路地で彼は穴に落ちる。
 真っ暗な穴の中をどこまでもどこまでも落ちていき、気が付くと、彼は芒の原にいた。
 芒の原はどこまでも続いており、空には重く暗い雲が垂れ込めている。
 彷徨ううちに、彼は『安達ケ原』と刻まれた岩を見つける。
 それならば、鬼婆がいるはずで、彼が助けを求めて、駆け出すと、遥か遠くに明かりが見える。
 そこには藁ぶきの古びた家があった。
 声をかけても返事がなく、戸を開けると、目の前に、小さな子供がだまって立っている。
 子供は彼を睨んでいるだけで、勝也は囲炉裏の鍋の匂いに引き寄せられ、無断で上がる。
 振り向くと、子供の姿はなく、奥の方で人の気配がある。
 出てきたのは、むっちりとした体つきの田舎娘であった。
 彼女に酌をしてもらいながら、彼は鍋を御馳走になる。
 鍋の肉は不思議な味で、噛めば噛むほど、味が出て、いくらでも食べられる。
 だが、食べているうちに、鍋の中から懐中時計が出てくる。
 これは失踪した、大学の同期の北原の持ち物で、麻雀で負けたカタとして勝也から奪ったものであった。
 その時、娘が床の用意ができたと知らせに来る。
 娘の襟足を見て、勝也は欲情し、抱こうとするが、娘のお股はやけに潤いがない。
 それでも、娘にせがまれると、据え膳食わぬは何とやらで、勝也は娘を抱く。
 ことの後、勝也が眠りに落ちる直前に、娘は夜中に隣の部屋を決して覗かないよう言うのだが…」

・「ねんね…しな」
「小学三年生の日暮さやかはマンションで祖父と二人暮らし。
 両親は幼い頃からおらず、優しかった祖母は春に亡くなってから、彼女の生活は地獄であった。
 彼女はクラスで田中道子、佐野加代子、本木晴美の三人からいじめを受けており、担任は見て見ぬふり。
 頑固な祖父はいじめられるさやかに原因があると責め、学校に直談判しようとするが、それではますますいじめられるのが目に見えている。
 ある夜、絶望した彼女は、祖母の形見の日本人形と共に、飛び降り自殺をする。
 祖父は学校に怒鳴り込むも、いじめっ子達はいじめを否定し、学校側はろくな対応を取らない。
 祖父は怒りのあまり倒れ、身内の出席もなく、さやかの葬式はひっそりと執り行われる。
 その葬式の後、奇妙な噂が語られる。
 自殺現場に落ちていた血まみれの日本人形がさやかのお棺の中から消えただけでなく、その壊れた日本人形が立ち上がって、歩き去ったのを見た人がいるという。
 そして、人形のヒカルの復讐が始まる…」

 「週刊明星」に1986年31号〜40号、44号〜52号に掲載された作品が収録されております。
 表紙には「ロマンチック・ホラー作品集」と書かれてありますが、あまり「ロマンチック」な内容ではありません。
 どちらかと言うと、「エロ・グロ・情念」てんこ盛りの「レディース・コミック」に近い味わいです。
 でも、「レディース・コミック」ほど、ヒステリックではなく、際どい内容でもどことなくおおらかなところがあり、やはり「わたなべまさこ作品」以外の何物でもなかったりします。
 この単行本には五編が収録されておりますが、「女の首」「悪霊」「ねんね…しな」はホラー漫画・アンソロジーに採り上げられたことのある良作です。
 中でも、「ねんね…しな」は、復讐があまりにも情け容赦なく(「どんな人形やねん?!」と突っ込まずにはいられない…)、わたなべまさこ先生のいじめに対する憤りがダイレクトに伝わってくる名作です。
 あと、「女の首」は「濡れ場」が実に充実しており、その節は大変お世話になりました。

2023年3月18日/4月16日 ページ作成・執筆

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