諸星大二郎「地獄の戦士」(1981年3月25日第1刷発行)

 収録作品

・「地獄の戦士」 「その町では、減った人口を補うために、人工細胞から作った、人間そっくりの「ダミー」が大勢暮らしていた。
 五人の若者達は、ダミー相手に狼藉の限りを尽くすが、全く面白くなく、過激化する一方。
 彼らはダミーを無差別に殺すだけでなく、遂には、人間の老婆にも手をかける。
 しかし、老婆の最後の言葉「同じ人間」という言葉が彼らの心に引っかかる。
 彼らのうちの一人、トオルは恋人のエリイが「病院」に連れて行かれたと知り、仲間と共に病院に向かう。
 ダミー達の妨害をくぐり抜け、病院に着いた彼らの前に、エリイの友達、ウーラが現れる。
 この町の秘密とは…?」

・「商社の赤い花」
「三友商事の若きエリート、松本忠は、ビジネラ星系第四惑星に駐在員としてやって来る。
 そこにはホテルのマスターと、雑貨屋の主人の二人しか住んでいない、辺鄙な星で、しかも、彼の任務は、数メーター四方の土地の管理であった。
 会社人間の忠は、その土地が有効活用できないか試行錯誤するが、資源はなく、植物さえも育たない。
 挫折を繰り返す彼の心に、過去の想い出が空しく去来する。
 雑貨屋の主人は忠に「土地と話をする」よう勧めるのだが…」

・「子供の遊び」
「ある日、父親は、子供達が、屋外の小型物置に何かの動物を飼っていることを知る。
 子供達が寝た後、彼はその動物を見に行くが、段ボールの中に入っていたのは、得体の知れない、肉の塊のような生き物であった。
 動物図鑑にも載っておらず、どのようなものか見当もつかないが、隣ではそれをペットとして飼っていた。
 彼は観察を続けるうちに、その動物に人間のような知性があることに気付く。
 意を決して、彼はそれを河原に捨てようと、川の土手を自転車で進むのだが…」

・「ユニコーン狩り」
「年末、ミエコは家の前で奇妙な老人と出会う。
 彼は、電柱についている傷を、ユニコーンが角をこすりつけた痕と説明する。
 老人は長い間、ユニコーンを熱心に捜し続けていた。
 老人に出会ってから、ミエコは、目の前の受験にただ、あくせくしている自分に疑問を抱くようになる。
 老人によると、この町には、彼女の家を中心に、ユニコーンの残した痕跡があるらしい。
 大晦日、ミエコは、老人のことを考えながら、ぶらりと公園へ出てみるが…」

・「復讐クラブ」
「平野忠男は平凡な中年サラリーマン。
 彼の唯一の楽しみは「復讐クラブ」の会合に出ることであった。
 どんなイヤな奴がいても、復讐クラブに「復讐依頼書」を出せば、それ相応の復讐を果たしてくれる。
 その代わりに、彼も、クラブから指示された復讐を行わなくてはならない。
 そうすることで、彼はストレスを解消していたが、徐々に、彼の周囲に復讐クラブの会員がいるのではないかと疑い始め…」

・「桃源記」
「東晋の頃(317年〜420年)。江南の地(揚子江流域)。
 陶淵明は、漁師の潜の船で、川を上る。
 途中、道に迷った陶元亮という男を船に乗せるが、彼は元・軍人で、故郷に帰る途中であった。
 川を遡っていくと、両岸は、満開した桃花の林でびっしり埋め尽くされる。
 上流を極めた所に洞窟があり、その先には、村があった。
 その村は、六百年前、秦の始皇帝の暴政から逃れた人々が移り住んだ秘境であり、彼らは外界のことは全く知らない。
 彼らは、養生法により、不老長生で、更に、桃林に囲まれているため、村は豊かで、病気災厄とは無縁であった。
 陶淵明はこの地に理想郷の姿を見るが、果たして、その実体は…?」

 バラエティ豊かな単行本です。
 どれも傑作ですが、個人的には、昔の中国を舞台にした「桃源記」が白眉だと思います。

2021年5月10・31日 ページ作成・執筆

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