高港基資「恐之本」(2012年8月20日初版発行)

・「先住者」
「夏子の一家は中古の一軒家に引っ越す。
 一月過ぎて、落ち着いてきた頃、夏子は玄関横の和室に人影のようなものを見る。
 数日後、彼女はその部屋で再び、うずくまった男性の姿を目にする。  その男性は何かを必死に頼んでいた。
 夏子は嫌な予感がして、友人の知り合いの霊能者に和室を撮ったビデオを送る。
 ビデオを郵便局で送って、家に帰ると、彼女の両親が救急車で病院に運ばるところであった。
 何故か外れたサッシ窓が庭にいた二人を直撃したという。
 両親は入院することとなり、夏子は家に必要なものを取りに帰る。
 保険証が和室の物入れにあるため、彼女は和室に入らねばならなくなるのだが…」

・「閉ざされた窓」
「大学生のゲンは高台に建つアパートに引っ越す。
 二階の端の部屋だが、そこは何故か、窓を板で覆い、壁紙を貼っていた。
 その板を撤去したため、日当たりもよくなり、窓からの景色も悪くなく、ゲンは満足する。
 だが、引っ越してすぐ、彼は、窓の外から子供の声を聞く。
 カーテンを開けると、窓の外、眼下の小学校の校舎の窓にたくさんの眼が見える。
 翌日、彼は、アパートの部屋から見える小学校を見に行く。
 しかし、小学校はコンクリート造りで、昨日、見た木造校舎でない。
 あまりに怖く、その夜、彼は友人を部屋に呼ぶのだが…」

・「墜落」
「高校生達が初日の出のツーリングで、X県Y岬に立ち寄る。
 そこは自殺の名所で、毎年、何十人も亡くなっていた。
 田宮は「投身自殺者の視点」での映像を撮ると、ビデオカメラを三角コーンに括りつけて、落とす。
 ツーリングから帰った後、田宮は皆にこの映像を観ようと言うが、結局、彼しか観なかった。
 以来、田宮の身辺で奇妙なことが起こり始める。
 それは、高い建物の近くにいると、投身自殺者の幻を視るのであった。
 彼は徐々に消耗していき…」

・「顔を見るな」
「土屋靖敏は写真を撮られるのをひどく嫌う。
 特に、一人の時は絶対に写真を撮らせない。
 その理由は、彼が高校の時にさかのぼる。
 ある夜、彼は大学の願書の写真がないことに気付く。
 締め切りは明日の朝で、彼は近くの証明写真機に行く。
 だが、女性らしい先客がおり、なかなか出てこない。
 しびれを切らし、声をかけ、中を覗くと、誰もいなかった。
 気のせいと思い、写真を撮るが、最初のものは失敗。
 次に撮ったものには、彼の背後から女性が徐々に姿を現そうとしていた。
 もう一度撮れば、女性の顔をまともに見ることになり、それは絶対に避けねばならないと本能的に感じる。
 彼が写った写真に現れる女とは…?」

・「泣く女」
「ある夜、江島が車を月極駐車場に停めると、道路を泣きながらフラフラ歩いている娘を目にする。
 娘は、暴行にでもあったのか、衣類は乱れ、片足は裸足であった。
 声をかけようと思うものの、とても声をかけられる雰囲気ではない。
 通り過ぎようとするも、何故か彼の前にやって来て、泣きながら睨みつける。
 彼はその場から駆け出し、下宿へと逃げ込む。
 しかし、訪ねて来た友人を送り出した時、近くにその女がいた。
 翌日、女は彼の部屋の前で、首吊り自殺をする。
 最初は疑われたが、彼女の病歴が明らかとなり、彼への疑いは晴れる。
 その後、死んだ娘の両親が彼の部屋を訪れる。
 迷惑をかけたお詫びということだったが、どうも彼が娘に何かしたと考えているらしい。
 両親にしつこく乞われ、江島はその家へ行く。
 そこで、彼は娘のアルバムを見せられるのだが…」

・「ヨビト」
「GWに、知世は父親の田舎を訪れる。
 そこには「ヨビト(夜人)」の伝説があった。
 祖母はヨビトとは絶対に口をきいてはいけないと言う。
 ある夜、裏山で工事中の産廃処分場で騒ぎが起こる。
 目覚めた知世が外で目にしたものとは…?」

・「指切りげんまん嘘ついたら…」
「加奈はアパートで独り暮らしをする学生。
 彼女は執拗なストーカーに悩まされていた。
 ストーカーからの手紙は週一から毎日となり、彼女の行動を逐一観察している。
 身の危険を感じ、警察に事情を話した後、彼女は実家に帰る。
 およそ二週間後、母親が家の前に、小さな円形のサラミのようなものが落ちていると言う。
 この頃、毎朝、同じ場所に落ちているらしい。
 父親はこれまでのぶんをビニール袋に入れて、警察に持って行く。
 それは一体…?」

・「安い車」
「中古店で見つけた掘り出し物の車。
 ニューモデルで、事故車でもないのに、たったの99万円。
 青年はその車を買うことを決めるが、商談の前に、ディーラーから清酒を勧められる。
 ディーラーいわく、それがここの伝統らしい。
 一週間後、無事に納車され、友人達とドライブに行く。
 その帰り道、友人達が車の中でドタバタと騒ぐので、注意すると、皆、疲れて眠りこけていた。
 その時は、誰かのいたずらか何かと思っていたが、同じようなことが何度も繰り返される。
 特に、一人で運転していると、後ろの方で、小さな子供がはしゃいでいるような音がする。
 そして、ある夜、彼はバックミラーに女の子の姿を見る。
 翌日、友人が紹介してくれた僧侶が車を視に来るのだが…」

・「二十年女」
「高山和也は三歳の頃の記憶。
 家に若い女性がいた。
 彼女は「お菓子あるよ、おもちゃもあるよ」と二階から彼に呼びかける。
 彼女は彼と絵を描いたり、昼寝の時に添い寝をしてくれる。
 また、床下や、食事する部屋の隅っこに何故かいたりする。
 一番、強烈な記憶は、彼女が服を脱いだ時のことで、彼女の裸身はひどくいびつで、人のものとは思えなかった。
 彼女のことがどうしても気になり、彼は実家の両親に手紙を出すのだが…」

・「地域共通夢」
「狭い場所に「リュージ」という男の子が閉じ込められ、お腹がすいたとしきりに訴える夢。
 流子はその夢を三日連続で見るが、実は、彼女の住む地域の人が皆、同じ夢を見ていた。
 友人の英子は、その夢について扱われたサイトを流子に教える。
 そのサイトでは「リュージ」はある夫婦の子供で、虐待され、助けを求めているのではないか?と推測が述べられていた。
 流子はその夢が気になり、夫婦が出かけた間に、その家に忍び込むのだが…」

・「駐在所」
「N県の山奥の小さな村。
 小学三年生の少年は裏山に駐在所の廃墟を見つける。
 「昨日の事故数」を書く黒板があったので、少年は「死亡」の所に「1」と書き込む。
 次の日の朝、近所の老人が死亡。
 あの黒板のことが気になり、翌日、彼はまた駐在所の廃墟へ行き、今度は「3」と書き込む。
 次の日、学校の先生が三人前夜のうちに亡くなる。
 少年は父親に駐在所の廃墟について尋ねると…」

 高港基資先生は、現在、日本の怪奇漫画を支える才人の一人です。
 非常に手堅い作風で、良作が多いのですが、ストレートな心霊現象を扱ったものよりも、奇想の冴えた作品の方が遥かに面白いと思います。
 この中では、「地域共通夢」「駐在所」はかなりの出来です。
 初心者からマニアまで幅広くお勧めできる内容ですので、興味のある方は是非ご一読を。

2022年3月1・5・8日 ページ作成・執筆

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