山岸凉子「ひいなの埋葬」
(1976年5月20日初版・1981年6月15日6版発行)
収録作品
・「ひいなの埋葬」(1976年「花とゆめ」第6号掲載)
「川島弥生(16歳)は、四年前に両親を亡くしてから、親戚の家に身を寄せていた。
二月下旬のある日、梨本家の主治医、影尾雪(かげお・きよし)という男性が、彼女に会いに訪れる。
彼の用件は、彼女を、梨本家で開かれる、雛の節句に招待することであった。
梨本家は、孝明天皇のいとこにあたる人の娘が嫁いだ、元・華族で、代々、女性しか産まれない女系家族言う。
2月28日、弥生は、山の中の駅に降り立つ。
待ち合わせ室で、影尾の迎えを待つ間、うたた寝をした弥生は、お囃子の音を聞いたように思う。
ようやく影尾が到着し、梨本家の邸へ送られる。
そこは純日本式のお邸で、当主の老婆、お手伝いの淑(とし)、主治医の影尾、そして、孫の静音の四人が住んでいた。
食事の際、弥生は静音と会うが、弥生と同い年にも関わらず、静音は、何から何まで完璧なお嬢さまであった。
ただ、彼女は虚弱らしく、大して言葉も交わさずに、席を外す。
その夜、トイレに立って、屋敷で迷った弥生は、話し声が聞こえてきた部屋を覗く。
しかし、そこには誰もいず、豪勢な雛段が飾られていた。
そこへ、静音とそっくりな青年が現れる。
彼は自分を「シズオ」を呼び、とっても明るく率直な性格であった。
彼は静音と双生児らしいのだが、彼が負ったささいな傷が意外な事実を明らかにする。
シズオの秘密とは…?」
・「幸福の王子」(1975年「プリンセス」1月号掲載)
「15歳も年上の資産家のダヴィッド氏に嫁いだコンスタンス。
マーティン・ウォーリックは彼女を追って、ロンドンに来たものの、彼女には会えないまま、こそ泥に堕落していた。
ある日、彼は、ダヴィッド夫妻が、破産を苦に、服毒自殺したことを知る。
コンスタンスの面影を胸に秘め、ダヴィッド家の邸を訪れるが、こそ泥の浅ましさで、邸に忍び込んで、金目のものを物色する。
すると、寝台に、コンスタンスにそっくりな、10歳ぐらいの少年がいるのに気付く。
物音で人が来たため、マーティンは邸から逃げ出すが、何故か、少年も彼についてくる。
少年はどこかネジが緩んでいて、また、病気ということもあり、マーティンは彼を放ってはおけず、仕方なしに世話をする。
だが、少年は自分のことはそっちのけで、貧しい人や哀れな人にどんどん恵んでしまう。
少年の捜索願いが出されていることを知りながらも、マーティンは彼の面倒を見ようと考えるが…」
・「三色すみれ」(1973年「りぼん」5月号掲載)
「第一話 雫」
商人のジョアネス・モルトーは、フォン・ルフェビュール家に招かれ、滞在する。
その目的は、フォン・ルフェビュール家の一人娘、アナベルと彼を結婚させ、会社を設立することであった。
だが、ジョアネスは、邸に同居している、アナベルの従妹、フロレーヌと偶然に出会い、心惹かれる。
フロレーヌは、アナベルと彼の関係を壊さないよう、静かに身を引くが、ある日、彼が、彼女のいる温室を訪れる。
彼は、三色すみれの花言葉で、彼女に想いを伝えるのだが…。
「第二話 水仙」
(第一話よりも過去の話)
オルタンス・フォン・ルフェビュールは三歳の頃から自分の美しさに気付く。
それによって、相手のどんな非難も怒りも消し去ることを覚え、「常に愛されるもののみが持つ傲慢な美しさそのもの」へと成長する。
彼女は、ナポレオンの王宮の華であったが、自分が愛する者を手に入れるためには手段を選ばない。
彼女が本当に愛したものとは…?
「第三話 あげは蝶」
ボロアパートに住む、売れない画家のリュシアン・ジュラ―ル。
ある日、上の階の窓から、若い娘がぶら下がってきて、彼女を保護する。
彼女の名はロール・モルト―。(本名はヴィオラ・モルト―)
神出鬼没な娘で、彼女の部屋には様々な紳士がしょっちゅう訪れる。
彼は、彼女が売春婦(注1)だと聞き、また、そのような現場も目にしていた。
でも、彼女の天真爛漫な様子にとてもそうとは思えず…。
「幸福の王子」「三色すみれ」は怪奇マンガとは言い難いものの、「ひいなの埋葬」はなかなかの怪奇ムードです。
雛人形と言えば、美内すずえ先生の名作「妖鬼妃伝」がありますが、あそこまで派手でなく、ひそひそ話をする程度です。
でも、雛人形が生首に見えるシーンはかなり心臓に悪いなあ…。
あと、「ビクトリア女王の病気」(ネタばれになるので、詳細は控えます)について勉強になりました。
・注1
売春婦に「コールガール」のルビが付いておりますが、舞台は恐らく、20世紀初頭。
あの時代に「コールガール」はいたのでしょうか?
2021年1月23日 ページ作成・執筆
2021年9月24日 加筆訂正