花村えい子「殺人館へようこそ」(1987年10月20日初版第1刷発行)

 収録作品

・「蝉しぐれの情事」(1986年「コミックバル」9月号)
「六年前、21歳の亜沙美は、岩城慧と結婚する予定であった。
 だが、彼は、勤務先の金、二億円あまりを横領し、共犯の茂森良二に持ち逃げされた挙句、自殺。
 海へ投身自殺した、彼の死体は、浜辺で腐乱死体となって発見される。(注1)
 その後、彼女は、実業家、外島孝介の妻となり、何不自由ない生活を送るが、心の奥では慧のことが忘れられない。
 ある日、趣味で通っていた創作グループで、彼女はある木彫りの腕輪を目にする。
 それは、器用な慧が彼女のために作ってくれた木彫りの指輪と同じ意匠であった。
 彼女は、腕輪の制作者、堀和夫と会う。
 彼は非常に慧と似ているが、彼女には全く反応を示さない。
 しかし、亜沙美は彼に接すれば接するほど、彼のことを慧としか思えない。
 そんな時、彼女の前に、夫の愛人らしき女性が現れる。
 彼女は亜沙美に話しがあるらしいが、慧のことで頭がいっぱいの亜沙美は聞く耳を持たない。
 その後、その女性は轢き逃げにあい、死亡。
 実は、彼女は横領事件の共犯者、茂森良二の恋人で、事件は意外な方向に発展する…」

・「冬・迷夢」(1986年「コミックバル」1月20日号)
「冬、茉莉子は、唯一の肉親である父親を自動車事故で亡くし、失意のどん底にあった。
 彼女は、小佐川要介と結婚し、彼が父親の会社を引き継ぐこととなる。
 情緒不安定な彼女は別荘で過ごすことになるが、そこに、父親の愛人だった加村ミカがやって来る。
 彼女は、お腹に父親の子供がいると悲観して、ある夜、別荘で首吊り自殺する。
 要介は、父親の恥にならないようにと、女中のとみ代と共に、ミカの死体を裏庭に埋める。
 それ以来、彼女は、ミカの亡霊に悩まされるようになり…」

・「哀しみ色の風景」(1987年「コミックバル」2月号)
「風見真由子の兄、大助は「漆・硝子工房 貴沙」のオーナー、原田貴沙と婚約者同士。
 真由子にも篠崎和也という婚約者がいたが、彼は、原田貴沙にどこかで会ったような印象を受ける。
 その印象は、四人で食事をしたフランス料理店に飾られた写真を見たことで更に強まる。
 その写真は六年前、学生だった和也が城が島で「めぐりの洞門」を撮ったものであった。
 彼は、その島にある、芒(すすき)の群生した丘で見かけた女性を、貴沙と重ね合わせる。
 週末、彼は城が島へ行くが、その後、連絡が途絶え、箱根で死体となって発見される。
 彼の死の謎を解くため、彼女が和也の持ち物を調べると、芒の野で佇む女性の写真を発見する。
 この写真を頼りに、城が島で聞き込みをすると、意外な事実が明らかとなる…」

・「切り裂かれた闇」(1987年「コミックバル」5月号)
「資産家の母親が何者かに絞殺されて一年後、亜由子は毎晩、奇妙な夢を見るようになる。
 その夢は、彼女はドアを鍵で開けようとすると、もう一人の自分に邪魔されるというものであった。
 夢を見始めたのは二か月前、そして、彼女が弁護士の鎌本高介と婚約したのが半年前ということから、心理学者の卵、笹野四郎は「婚約に迷いがあるのでは」と分析する。
 母の一周忌をもって、亜由子は鎌本高介と結婚するが、以後、夢の内容が変化する。
 今度は、ドアを開けようと思っても、ドアは鍵穴がなく、また、ぐにゃぐにゃに歪み、それに慄いていると、自分の足だけが歩いて行き、消える…というものであった。
 夢に出てくる足の裏にはホクロがあり、彼女は、足の裏にホクロがある男が、母親を殺害した犯人だと考えるのだが…」

 裏表紙によると、花村えい子先生は「劇画界のアガサ・クリスティ」とのこと。
 クリスティはあまり読んだことがないので、その当たり外れはわかりませんが、レディコミ入ったミステリー・サスペンスであります。
 「冬・迷夢」「切り裂かれた闇」は怪奇色が強く、特に、「切り裂かれた闇」は夢分析を採り入れた意欲作です。

・注1
 ネタばれになりますが、この死体についての、はっきりした説明はありません。もやもやします。

2020年12月7日 ページ作成・執筆

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