蕪木彩子「偲びよる殺意」(1987年8月10日初版発行)

 収録作品

・「偲びよる殺意」
「野田美都子は、高校に越境入学したために、アパートで一人暮らし。
 彼女の隣には、水絵という美しい女性が住んでいた。
 美都子の親友、かおりが彼女の部屋を訪れた時、かおりは男の幽霊を視る。
 また、帰り際、水絵の部屋の前を、変な男がうろついているのも目撃する。
 再び美都子の部屋にやって来た際、かおりは男の霊が隣の部屋のものであることを悟る。
 美都子とかおりが水絵の部屋を覗くと…」

・「誰か助けて」
「越境入学しただけあって、美都子の学力はなかなかのもの。
 それに勝気な性格もあって、クラスの不良娘、村上京子は気にくわない。
 放課後、美都子は京子の一味から墓場に呼び出される。
 かおりは仲裁に入ろうとするが、美都子と京子はもみ合ううちに、墓石を倒してしまう。
 勢いづいた京子は片っ端から墓石を蹴り倒す。
 かおりは墓から立ち上がる、怒りの霊達の姿を見てしまう。
 以来、夜になると、京子のもとに霊が現れ、彼女を苛むようになる…」

・「あわせ鏡」
「日曜日、美都子とかおりは、クラスメートの智恵子の引っ越しを手伝う。
 その最中、ある木箱を開けると、中にはレトロな合わせ鏡が入っていた。
 その鏡を見た途端、かおりは凄まじい悪寒を感じる。
 帰り際、かおりは智恵子にあの鏡を使わないよう警告するが、彼女は一目見て鏡を気に入っていた。
 しかし、智恵子が母親に鏡を使っていいか尋ねると、母親は顔色を変えて、鏡を取り上げてしまう。
 こうなると最早意地で、智恵子はこっそり鏡を持ち出し、自分の部屋で使ってみる。
 だが、鏡を合わせた瞬間、彼女は眩暈を感じ、倒れてしまう。
 鏡の中から放たれたものとは…?」

・「彷徨える亡霊の群れ」
「学校で工事が行われている時、校庭から多数の人骨が出てくる。
 以来、工事現場では事故が頻発。
 作業員達は、女学生の姿を目にしていた。
 そして、かおりも戦時中の服装をした女学生達の霊を目撃する。
 この地にまつわる、悲惨な過去の出来事とは…?」

・「北風のゆくえ」
「看護婦の明子は、個人医院を経営している山田正夫と近々結婚する身。
 彼女は彼のことを深く愛し、彼の息子、正一とも良好な関係を築いていた。
 唯一の懸念事項は、正夫の前妻、京子のこと。
 女医だった京子は、医療ミスにより患者を死なしたことからノイローゼになり、酒と薬に溺れ、ある日、突然、失踪してしまう。
 失踪から七年経ち、京子は失踪宣言を出されるが、明子と正夫の結婚の前に、京子がその姿をちらつかせるようになる…」

・「悲しみのウェディング」
「旅行会社に勤める加納淳一と本田直美は婚約していた。
 ある日、本田直美の姉、洋子が自室でめった刺しにされて殺害される。
 同居していた直美は、旅行の添乗員として、日光に行っていた。
 殺人の起こった当日は自由行動を取っていたが、千人行列をバックに撮った写真があり、アリバイは確実。
 刑事達が淳一を問い詰めると、洋子との肉体関係を白状する。
 しかし、当日はラブホテルにおり、しかも、相手が現れず、そのまま、帰っていた。
 捜査が行き詰まる中、刑事達は、直美の千人行列の写真に、姉の洋子の霊が写っているのに気付く。
 手掛かりを求め、刑事達はその写真を持って、霊媒師のもとを訪れると…」

 御茶漬海苔先生と肩を並べる、スプラッター・ホラーの大御所、蕪木彩子先生。
 長いキャリアを誇りながらも、どうしても発表の場が限られてしまう作風と、作者自身のトラブル(詳しくは知りません)のために、知名度は限定的なようです。
 ただ、今は電子書籍というものがありまして、過去の作品が手軽に読めるようになっておりますので、これから再評価が高まるかもしれません。(また、そのように祈ってます。)
 この単行本は、蕪木彩子先生にとって最初の単行本ではないでしょうか。
 最初の四話が、霊感少女かおりと美都子の二人が主人公のシリーズで、残りの二編はミステリー(ヘビーな残酷描写あり)です。
 一般的なイメージは、登場人物が突如、サイコ面に豹変し、内臓ドバドバ、眼球ブラブラな展開になる感じでしょうが、初期は比較的大人しめな印象です。(と言っても、他作家より遥かに残虐です。)
 残酷描写が控えめな分、初期の作品では、蕪木彩子先生による女性キャラが堪能できます。
 蕪木彩子先生はレディースコミックでも活躍しており、女性キャラに艶っぽさがあるように私は感じております。
 そんな女性キャラと、一歩間違えるとギャグになってしまう、極端すぎるグロ描写の落差が、魅力の一つではないでしょうか。

・備考
 背表紙色褪せ。

2018年2月2日 ページ作成・執筆

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