小池ノクト「マガマガヤマ@」(2019年6月24日第1刷発行)

 収録作品

・「怪壱 なめらすじ」 「借金するために、田舎の親もとに向かう青年。
 夜中の山道で車を走らせていた時、無灯火の自転車を撥ねてしまう。
 慌てて外に出ると、自転車に乗っていた男性は、倒れたまま、彼に罵詈雑言を浴びせ、狂ったように笑い続ける。
 あまりの事態にテンパった彼は、自転車の男性を扼殺し、事故の証拠隠滅を図る。
 そこに、どこからか坊主が現れる。
 彼は坊主に、道路に人が倒れていたと嘘をつくが、自転車の男性は致命的な傷を負って、即死に近い状態であった。
 坊主は、この山には「なめらすじ」という「この世ならざるものの通り道」があり、この道路と交差していると話す。
 どうやら、自転車の男性の遺体は、物の怪に憑りつかれていたらしいのだが…」

・「怪弐 小梅沢」
「田舎の小学校の教師、塩見。
 あることをきっかけに、彼は地元に、小梅沢という底なし沼があることを知る。
 地元では絶対に立ち入ってはならないとされ、それがどうやら、予想以上に深いらしい。
 ある日、彼は、沼の深さを測ろうとするのだが、「小梅沢」の名前の意味を知ることとなる…」

・「怪参 こだま」
「佐藤は、大学のために上京して以来、五年ぶりに帰郷する。
 彼は、高校の登山部の同級生、三人とちょっと集まるつもりが、山登りになる。
 かなり登ったあたりで、「ヤッホー」という声が聞こえ、山田という青年がそれに応えて、叫び返す。
 すると、向こうから返って来たのは、「キャホー」という異様な声であった。
 とりあえず、先に進もうとすると、山田の様子がおかしい。
 温厚なはずの彼が、仲間に因縁をつけ始め、「土下座しろ」と怒鳴りながら、うち一人を石で撲殺。
 残った二人は、山田から逃げるが、使われていない、危険な旧道に迷い込んでしまう。
 そこで、彼らは、奇妙なものを見つけるのだが…」

・「怪肆 猿様」
「神山結衣の家は、三つの山を持ち、山の神様を、離れにある祭壇で祀ってきた。
 神様は「猿様」と呼ばれ、長女の結衣が一人でその世話をすることとなっていた。
 七歳の時から、午後五時に猿様に食事をお供えしていたが、十五歳になる頃には、このしきたりに疑問を抱くようになる。
 更に、十六歳になってからは、月に一度、一時間程度、猿様の前で裸体をさらさねばならなくなり、結衣はすっかり嫌気がさす。
 彼女は勉強に励んで、この家から出ようとするが、ある日、うっかり五時のお供えをすっぽかしてしまい…」

・「怪伍 無人駅」
「ド田舎の支社から、一年ぶりに東京の本社に帰れることとなった、若いサラリーマン。
 送別会の後、彼は、無人駅の待合室にふと立ち入ってみる。
 しかし、出ようとすると、何故か、戸や窓が開かない。
 更におかしなことには、この待合室は、彼の望みを叶えようとしているみたいであった。
 彼は、あることに思い当たるのだが…」

・「怪陸 すそ」
「二年前の母親の失踪を皮切りに、姉、父親、友人、親戚を次々と亡くし、天涯孤独の身となった男。
 彼は、父親の家と山を継ぐために、故郷へと戻るが、村人達に襲われ、気が付くと、深い井戸の底にいた。
 井戸の底には頭蓋骨が一つあり、それを「鎮めて下さい」と頼まれる。
 その夜、彼の前に、女性らしき影が現れ、どうやら、これとどうにかしなければならないらしい。
 彼は、井戸から出るため、その鎮魂をひたすらに祈るが、ある時、その女性の正体に気付く…」

 なかなか粒よりの「山ホラー」短編集です。
 この単行本の中では、かなりこわい「小梅沢」と、奇想炸裂な「無人駅」が個人的に好みです。
 ただ、「こだま」「猿様」「すそ」は、練り込み不足な感じで、勿体ないと思います。
 アイデアはいいのに、説明不足のまま、うやむやに終わらせているのが、残念です。(まあ、ホラーだから、そういうのもありなんでしょうが…。)

2020年6月25日 ページ作成・執筆

その他の出版社・リストに戻る

メインページに戻る