わたなべまさこ「モナリザの部屋」(1975年10月20日第1刷発行)

 収録作品

・「モナリザの部屋」
「冬のスウェーデン。
 休暇を狩猟で過ごす、精神科医のビンセント・ミネリはシブッナ湖の近くで少女を誤射する。
 幸い、弾は左腕をかすっただけで、ビンセントは少女を自分の小屋に連れ帰り、手当てを施す。
 ジョアナと名乗る少女は、死への憧憬と、父親に対する愛情について話す。
 暖炉のそばで、ビンセントがうとうとしているうちに、少女の姿はいつの間にか消す。
 翌朝、湖の畔にあるスコークラスター城からビンセントに招待状が届く。
 スコークラスター城の持ち主は、アンブローズ・ドゥ・クラスター将軍であった。
 その城で、ビンセントはクラスター将軍の一人娘、モナリザと会うが、彼女はジョアナとそっくりであった。
 しかし、モナリザは昨夜のことは全く覚えていない。
 ビンセントは自分の勘違いかと思うものの、クラスター将軍はジョアナの名を聞いた途端、顔色を変える。
 そして、ビンセントはクラスター城の秘密の数々を知ることとなる。
 父親に異常な愛情を燃やすモナリザ。
 実子であるのに、召使の子供と思い込み、モナリザに憎悪を燃やす母親、カミラ。
 カミラに取り入り、クラスター将軍の後妻の後釜を狙う家庭教師、コーバン。
 14年前、モナリザが赤ん坊の時の、悲惨な心中事件。
 そんな愛憎渦巻く中、モナリザの憎悪が高まる時、双子の姉、ジョアナが顔を出し、悲劇が起こる…」
 「二重人格」ものの名作です。
 古風な少女マンガ風の絵柄ですが、中身はとてつもなくドロドロしていて、唸らされます。
 ただ、若干、整合性を欠いた部分があるのが残念。
 モナリザの胸の傷についてや、コーバンの死体がゾンビ化したことについて、はっきりとした説明はありません。
 幽霊譚の要素を除いて、「二重人格」だけでいけば、もっとすっきりしたのかもしれません。
 でも、まあ、わたなべまさこ先生は「怪談」が大好きみたいなので、どうしても幽霊を登場させたかったんでしょうね。

・「死人契約」
「1845年、ドイツ、ベルリン。
 外科医のフランツ・ローゼンブルグの診療室は、患者の悲鳴で溢れかえっていた。
 当時の外科手術は、麻酔の技術がなく、患者に非常に大きな苦痛を強いるものであった。
 また、細菌の概念がなく、不衛生な手術道具の使用により、成功率は非常に低かった。
 フランツは自身の仕事にプライドを持っていたが、妻のエリザベートは手術室から聞こえてくる悲鳴に神経を苛まされる。
 限界に達した彼女は遂に夫を悪魔や人殺し呼ばわりし、妊娠中の身でありながら、実家に帰らされてしまう。
 半年後、フランツのもとを、エリザベートの妹、マリアナが訪れる。
 彼女は彼に、エリザベートはもうすぐ出産するが、衰弱が激しく、彼の助けが必要と告げる。
 エリザベートのもとにフランツは駆け付けるが、非常に危険な状態で、帝王切開しか方法がない。
 しかし、衰弱したエリザベートの身体は帝王切開には耐えられそうにない。
 そこで、彼は当時、発見されたばかりのエーテル麻酔薬を使用して、手術を決行する…」
 内容は「妻と赤ん坊の命を助けるために、史上初の麻酔による帝王切開手術をした外科医」の話で、これだけ見たら感動的みたいですが、外科手術の描写があまりに凶悪。
 舌を切り取った上に、焼きごてを当てたり、無麻酔で鋸で手首を切断したりと、サディスティックな描写が、薄っぺらい感動なんか、木っ端微塵に粉砕してくれてます。
 読後、印象に残っているのは、手術シーンだけかも…。
 これは、もしかして、わたなべまさこ版「海と毒薬」ですか?(んなワケ、ね〜だろ!!)

 講談社のコミック・ロマン・ミステリーにて、再録されております。
 ただし、併録作品は「死人契約」から「おじさまにキスを…」に変更されてます。

2017年10月19日 ページ作成・執筆

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