楠本哲「佐藤さん@」(2018年4月9日初版発行)
「佐藤さん」は電話でしか依頼を受けない秘密主義者の殺し屋。
彼の姿を見た者はおらず、「会う」=「死」。
裏社会では、佐藤さんを「見てはいけない」、「怒らせてはいけない」、「狙われてはいけない」が暗黙の掟…。
・「第一話 侵入」(「ヤングキング」2017年第9号)
「清王会の滝本と武内は千葉からの帰り、寂れたレストランに立ち寄る。
二人が予約席の表示がしてある席に無視して座ると、店主はそこは「佐藤さん」のお気に入りの席で、「佐藤さん」は決して許さないと警告する。
滝本が本部に戻り、組長にその話をすると、組長の顔は真っ青になる。
「佐藤さん」は都市伝説的な殺し屋で、「佐藤さん」を怒らせるなが暗黙の掟になっていた。
武内はそれを鼻で笑い、先日のレストランに行き、「佐藤さん」を確かめようとする。
だが、翌朝、彼は心臓に穴の開いた死体となって千葉の路上で発見される。
滝本はとばっちりを怖れた組長に清王会を破門され、マンションの一室に閉じこもるのだが…」
・「第二話 怒り」(「ヤングキング」2017年第20号)
「殺し屋の潮田は西城司の死に衝撃を受ける。
西城は潮田が認めた唯一の同業者であったが、その死に際は悲惨なものであった。
潮田は西城の部下の寺西から西城が「佐藤さん」に狙われていたと教えられ、自分が「佐藤さん」の正体を暴き、仇を取ろうとする。
彼は「佐藤さん」の居場所を掴むため、奔走するも、誰もが知らぬ存ぜぬの一点張り。
ある夜、彼が「佐藤さん」への依頼を仲介したチンピラを締め上げていると、スマホに非通知の連絡がある。
電話に出ると、「私を探さないでぇ〜」と声がして、電話をかけてきたのはどうやら「佐藤さん」らしい。
二日後、潮田のスマホに寺西からG市のセメント工場跡地に来るよう留守電が入るのだが…」
・「第三話 命拾い」(「ヤングキング」2017年第22号)
「週刊文秋編集部。
二年前、編集長が変わり、文秋は下世話な芸能ゴシップが売りの低俗雑誌になり果てていた。
記者の中条は編集長の方針に反感を持っており、「命懸けのスクープ」を追うことを夢見る。
そこで彼が目を付けたのは謎の殺し屋「佐藤さん」。
これを巡っては三年前、記者が二人、不審死していたが、中条は単独でも「佐藤さん」を追うことを決意する。
ただし、「佐藤さん」に関しては裏社会でも情報が全くと言っていい程なく、手掛かりは皆無に等しい。
そこで中条が考えたのは…?」
・「第四話 見殺し」(「ヤングキング」2017年第24号)
「千絵は幼い頃に両親を亡くし、施設で育つ。
成人した彼女は上京し、キャバクラで働きながら、歌手を目指す。
だが、ある日、彼女は交通事故にあったことより反回神経を損傷し、歌手の道を絶たれる。
絶望した彼女は憧れの「佐藤さん」に殺してもらいたいと願い、「佐藤」に連絡を取るのだが…」
・「第五話 切願」(「ヤングキング」2018年第2号)
「星崎光雄(78歳)は大手不動産会社、スター商事を一代で築き上げた凄腕経営者。
息子の光彦は父親のワンマン経営がイヤで、家を出て、ライバル会社のエイチ不動産に勤める。
父親は息子を決して許さず、彼が末期ガンで余命数か月となっても、会社に戻ることを許さなかった。
ある日、彼は激痛にうなされながらも、「佐藤」に会いたいと言う。
彼の真意とは…?」
・「第六話 佐藤さんのお仕事」(「ヤングキング」2018年第4号)
「大都組の組長、尾崎は半グレを束ねている中国組織の頭、趙の殺害を「佐藤さん」に依頼する。
尾崎は暴力団対策の刑事、鬼沢から中国組織が西の勢王会に接近していると情報を受けたのであった。
しかし、これは鬼沢が二つの組織を潰そうと画策したことで、趙は尾崎にそのことを伝え、相談するため、大都組に向かう。
しかも、趙も尾崎を消すために「佐藤さん」に依頼をしていた…」
都市伝説的な殺し屋を描いた「モンスター・ホラー」です。
あとがきによると、担当さんから「ファンタジーになっちゃダメ」と散々ダメ押しをされたとのことですが、読めばわかる通り、どう考えてもリアリティのある内容でなく、作者はかなり苦労した模様です。
これに関して、中途半端と感じるか、それはそれで毛色の変わった作品と捉えるか、評価がわかれると思いますが、個人的には面白かったので、好意的に評価しております。
あと、これを読んで感じたのは、「裏社会」と「ホラー」「ファンタジー」の相性の良さ。(注1)
「裏社会」は我々一般人には想像もつかないような奇々怪々に満ち溢れているのでしょうから、荒唐無稽な内容でもどこか想像力を刺激するところがあります。
まあ、実はいろいろと思うところはありますが、こんな命でもまだまだやらなければならないことがあるので、このぐらいにとどめておきましょう。
ちなみに、これは@巻ですが、続巻は出ていない模様です。
最後に、「第四話」の千絵さんにはいつか幸せになって欲しいものです。
・注1
平山夢明先生や福澤徹三先生の実話怪談本には度々、ヤクザ、ギャンブル、水商売、風俗といった裏社会がらみの話が出て来ますが、どんな常軌を逸した内容でも、本当にありそうなオーラがあって怖い…。
2025年4月28日 ページ作成・執筆