押切蓮介
「サユリ@」(2010年9月24日第1刷発行)
「サユリA」(2011年5月24日第1刷・2014年4月24日第6刷発行)
単行本@
・「第1話」
景色の良い小高い丘の一軒家にある家族が引っ越してくる。
家族については以下の通り。
神木昭雄(父親)〜マイホームを持つことが夢で、貯金をはたいて一軒家を購入し、大張り切り。
神木正子(母親)〜家庭的で優しい。
神木径子(長女)〜高校生(?)。気が強い。
神木則雄(長男)〜中学三年生。本作の主人公。
神木俊(次男)〜小学五年生。神経過敏で、気が弱いところがある。
神木章造(祖父)〜祖母と二人暮らしであったが、昭雄がマイホームを持ったことで同居するようになる。気配りのできる人。
神木(祖母)〜昔はとても気丈であったが、今は認知症が入っている。しかし、家族が危機に陥ると…。本作のもう一人の主人公。
父親はマイホームを持ったことで心機一転、新しい生活を夢見るのだが…。
・「第2話」
父親は心筋梗塞で突然死する。
そのショックから立ち直る暇もなく、家族は何かに蝕まれていく…。
・「第3話」
姉の径子の不調。
母親の憂鬱。
俊の不安。
この家に来てから、神木家はろくなことがない。
ただ一人元気なのは祖母で、彼女は昭雄を捜していた。
彼女は昭雄の気配がすると言うのだが…。
そして、父親亡き後、一家を支えていた祖父が急に倒れ…。
・「第4話」
ある雨の日、学校で則雄に元・クラスメートだった女子が会いに来る。
彼女は住田奈緒という名前で口数の少ない大人しい女子生徒であった。
彼女は彼に家族で不幸が起こってないか聞き、「女の人」が視えると話す。
ご近所のおばさんが言うのは、ここは「不幸の家」らしいのだが…。
・「第5話」
則雄は家族の不幸に「原因」があることを知る。
彼はこの家を離れるよう母親に提案するも、ここは父親の念願のマイホームだからと断られる。
となると、住田奈緒の言う「女の人」について考えなけらばならない。
しかし、家族は加速度的に破滅に導かれていた…。
・「第6話」
欠席の続く則雄を心配し、住田奈緒は彼の家を訪ねる。
則雄の家はたった一月の間に崩壊寸前であった。
奈緒は彼に家を見せてもらう。
彼女の目に視えたものは…?
・「第7話」
姉、母親も囚われてしまい、則雄は一人になる。
絶望する彼のそばで一人の女が高笑いしていた…。
単行本A
・「第8話」
則雄は家で家族の亡霊に翻弄される。
しかし、彼は一人ぼっちではなかった。
彼が不安に押し潰されようとする寸前、祖母が復活する…。
・「第9話」
祖母は則雄に朝にマラソン、日中には家の掃除をさせ、食事を三食きっちりとらせる。
家には女の幽霊がいるが、それに対抗するために必要なのは…?
更に、祖母は幽霊を「祓って済ます」つもりは毛頭なく…。
・「第10話」
祖母の夢に祖父が現れ、庭のあるところを掘るよう指示する。
則雄がそこを掘ると、白骨死体が出てくる。
私物も一緒に埋めており、生徒手帳には「九城小百合(16歳)」とあった。
これが幽霊の正体と知り、祖母が次に打つ手は…。
・「第11話」
則雄は数週間ぶりに学校に出てくる。
住田奈緒とも再会し、則雄は気分が紛れるが、帰宅後、祖母が一日だけ外出すると彼に告げる。
今夜一晩、彼は留守番をすることとなるが、小百合の霊はここぞとばかり彼に攻撃をしかけてくる。
そんな時、住田奈緒が彼を心配し、家を訪ねてくる…。
・「第12話」
則雄は心を強く持つ自信がなく、奈緒を家に入れるが、やはり、一人で耐えるべきだと考えを改める。
彼は彼女を帰そうとするが、その時、家の奥から人の悲鳴や怒号が聞こえてくる。
見ると、そこに小百合が殺された時の情景が再現されていた…。
その頃、祖母は夜の雨の中、バンをぶっ飛ばし、家へと向かう…。
・「第13話」
家の中には誰もいない。
しかし、祖母には切り札があった。
それは拉致してきた九城家の家族(父:夏彦/母:美里/次女:佳奈)。
祖母は彼らに「償い」を求める…。
・「第14話」
祖母は小百合に姿を現わすように求める。
祖母の凶行を止めるには、ただ一つ、贖罪しかない。
家族を前に、小百合が見せた本当の姿とは…?
しかし、家族を奪われた則雄の怒りは収まらず…。
・「最終話」
則雄は別の高校に移り、祖母と二人暮らしをする。
祖母はまたもとに戻ってしまったが、彼は「生きる術」を身につけていた。
そして、隣にいてくれる人も…。
「怨霊もの・幽霊屋敷もの」の傑作、かつ、押切蓮介先生の代表作の一つです。
この作品で斬新だったのは、怨霊に対し「逆襲」するという点。
@巻は家族が次々と祟り殺されていくJホラー風の展開ですが、A巻になると、認知症だったオババが突如、復活し、家族の無念を晴らそうとします。
こういう発想って、今まであまりなかったはずで、しかも、その復讐方法が実にアナーキー!!
クライマックスに向かい、テンションはだだ上がりで、こういう高揚感のあるホラーって珍しいように思います。
ですが、迎えるラストは感動的で、「家族ドラマ」としてしんみりさせるところがまたにくいです。
ちなみに、私はこの作品を原作より先に映画版(2024年)で観て、衝撃を受けました!!
映画版は原作よりも遥かにアナーキーです。
原作では「生命力」は体力と食欲だけですが、映画版ではこれに「性欲」が加わって、それのために子供には見せられない内容になっております。(テレビ放映も恐らく、無理です。)
更には、サユリの家庭環境が猛烈にヤバく、生臭さは満点。
しかし、祖母役の根岸季衣さんがそんなどろどろした内容をスカッとさせるほどの大怪演を見せ、ラストに向けて尻すぼみになる作品の多いJホラーの中ではずば抜けた面白さだと思います。
とりあえず、映画版はかなり濃い口ですので、原作を読まれてから、映画を観ることをお勧めいたします。
2025年6月16・22・23日 ページ作成・執筆