好美のぼる「呪いの蛇笛」(発行年月日不明)
「関東平野の一角にある城下町。
その城下町には、旧藩主斎藤氏の子孫の屋敷があった。
現当主、斎藤宗近は殿様の子孫だけあって、おっとり構え過ぎたために、次々とだまされ、遂には屋敷も人手に渡る。
屋敷を出るその日、斎藤宗近は脳卒中を起こし、急逝。
宗近の妻、良子と娘の君子は、屋敷の物置に住まわしてもらうが、良子はショックから病に伏せるようになる。
そこまで落ちぶれても、使用人、内藤安吉とその息子、兵吉は、良子と君子に甲斐甲斐しく世話をする。
次々と悲惨な目に遭いながら、君子はそのお姫様らしさから、いまだ町の人々から愛されていた。
そんな君子を目の敵にする、黒岩花代という女生徒。
花代は、自分がお姫様扱いされたくて、悪徳業者の父親に、裏から手を回して、斎藤家の財産をだまし取るよう頼んだのであった。
君子達は、屋敷の物置を出て、安吉が山に建てた丸太小屋に引っ越すが、間もなく、良子が死亡。
次いで、今までの苦労がたたり、安吉も病に倒れる。
今わの際の安吉は、君子に小さな笛を渡す。
そして、苦しい時、困った時、悲しい時、この笛を吹けば、必ず助けてくれると言う。
安吉もこの世を去り、兵吉と二人きりになった君子であったが、彼女がこの笛を吹く時、奇蹟が起こる…」
この稿を書くにあたり、久々に読み返してみたら、もの凄く面白かったです。
好美のぼる先生の作品にはあまりの安直さに辟易させられるものも多いのですが、個人的には「人情もの」「因果応報もの」に泣ける作品が幾つかあります。
この作品は「逆境にめげない少女」という王道を行くものでして、他の作品と変わらず、主人公の転落ぶりは情け容赦ありません。
後半は、悪者達が報いを受けまくるのですが、ツラからして「根性悪」そのものの黒岩花代がひたすら蛇の幻覚(注1)にテンパりまくり、なかなか痛快です。(作品の後半は、ほとんどこの描写に割かれております。う〜ん、ページ稼ぎですか…。)
私として、お姫様然とするばかりで、大して役に立たないヒロインよりも、どんなひどい目に遭おうと最後の最後まで少しも改心しようとしない黒岩花代の方が印象的でありました。
まあ、改心しちゃったら、そこでストーリーが終わってしまいますので、当然ですが…。(「呪いの学園」と一緒ですね。)
あと、この作品に出てくる使用人の内藤安吉は、露骨に「セムシ男」です。
今のマンガでは絶対に見ることのない、背中に大きなコブというキャラでして、いやあ、どうコメントしたらいいのやら…。
というワケで、もっと詳しいことが知りたい方は「岩井の本棚「マンガけもの道」第26回」に「呪いの盲猫」と共にレビューされております。ご参考までに。
・注1
蛇の幻覚と言えば、中川信夫「東海道四谷怪談」に、「足を突っ込んでいる桶の中に蛇がウジャウジャ」というシーンがありました。
何気なく観ていたら、急に出てきたから、びっくりしたぞ!!
・備考
カバー欠。小口に持ち主だったチビっ子の名前の書き込みあり。
2016年7月17日 ページ作成・執筆