手塚治虫「ユフラテの樹」(1987年10月1日初版発行)

・「第1章 恵法場島上陸」
「恵法場(えほば)島にやって来た百引高校の大矢、鎌剛(かま・つよし)、岡シイ子。
 この島は九州の南の果てにあり、生物相は亜熱帯性で、珍種が多いと言う。
 また、島は、鎌の亡くなったおじ、鎌庄之助の所有物で、学術調査を拒否していたが、学生ならいいだろうと惨さん管理人から許可が出たのであった。
 三人は民生委員の丹波と会い、島のことを聞くと、ここは「異常」だと話す。
 丹波は島のことを調べてはいたが、ノート、写真、標本全て、盗まれていた。
 その泥棒の正体は、鳥や猿といった、島の動物達であった。
 それを聞き、三人は罠を仕掛け、猿と捕らえようと考える。
 だが、あっさり裏をかかれ、猿を追ううちに、大矢は果物の腐った臭いに気付く。
 臭いの方へ向かうと、巨大な樹がそびえ立っていた…」

・「第2章 鎌庄之助の警告」
「財産管理人の滝本の殺人事件。
 そして、森から出てきてから気絶状態のシイ子。
 夜中になっても、彼女は失神した状態から回復せず、鎌と大矢は心配する。
 電気を消すと、彼女の目はピンク色に光っており、また、血のようなシミもピンクに光っていた。
 臭いからすると、あの巨木の実の汁らしく、シイ子はあの実を食べたらしい。
 家の外には、動物達が集まってきており、動物達にシイ子はさらわれる。
 鎌と大矢は大樹の所で全裸のシイ子を見つけ、助けるが、彼女は未来予知ができるようになっていた。
 彼女は、滝本の正体を明かし、海岸で滝本を殺した犯人に襲われると言う。
 とりあえず、海岸に向かおうとすると、彼らの前に、死んだはずの鎌庄之助が現れる…」

・「第3章 ユフラテの実」
「三人は島を去るが、大矢はユフラテの実を二つ持ち帰っていた。
 鎌庄之助のスパイの目を避け、三人は実を分ける。
 そして、実を守ること、実のことは誰にも話さないこと、実を処分する時は残りの二人に相談することを誓う。
 しかし、三人が各様、ピンチに陥った時…」

・「第4章 三匹の超人」
「ユフラテの実で超能力を得た三人。
 鎌は念力がどんどん強くなり、ほんの少しでも願ったり憎んだりすると、念力が発動することに苦悩する。
 だが、この力をうまく使えば、もっと大きなことができると考えるようになり、大矢とシイ子に協力を求めるのだが…」

・「第5章 陰謀からの脱出」
「鎌は世界征服を計画し、大矢に相談する。
 世界中の政治家を念力で操り、また、大矢の発明した物質転送機の破壊力で脅迫しようと話す。
 大矢はその計画を一笑に付し、もしも、念力で大矢達を操るなら、絶交するとはっきり言う。
 大矢は、鎌を危険だと感じ、シイ子と共に遠くに逃げようとするのだが…」

・「第6章 呪縛」
「大矢とシイ子は、宮崎に向かうフェリーに乗り込むが、既に鎌の手がまわっていた。
 乗客達は鎌に操られ、大矢とシイ子は拘束される。
 鎌はフェリーを恵法場島へと向けるが、その目的とは…?」

・「第7章 大逆転」
「鎌は、動物達を殺戮しつつ、ユフラテの樹のある方に向かう。
 だが、ユフラテの樹には…。
 そこに、鎌庄之助が現れる…」
(「高一コース」1973年4月号〜1974年3月号)

 超能力者をテーマにした、SF・ジュブナイルの名作です。
 「高一コース」に連載されたものなので、残酷描写は控えめですが、主人公の一人が超能力で世界征服をもくろみ、従わない他の二人を襲うという展開はなかなかのエグさです。
 超能力者に等身大の少年少女を据えたことで、多くのティーンに強い印象を与えたのではないでしょうか?
 萩尾望都先生の隠れた名作「モザイク・ラセン」にも影響を与えているようです。

2021年10月27日 ページ作成・執筆

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