はざまもり「蜉蝣の森」(1991年8月15日第1刷発行)
収録作品
・「蜉蝣の森」(1990年「セリエミステリー」12月号掲載)
「庶務課の山口圭子が連続殺人事件の犠牲者となり、彼女の恋人だった影山秋生が行方不明になる。
OLの香澄は、三か月前までは秋生と恋人同士で、とても彼がやったとは思えない。
ことの真相を調べるため、彼女は、彼の生まれ故郷、蜉蝣村に向かう。
そこは山奥の辺鄙な村で、よその村人達からは忌み嫌われていた。
日が暮れる頃になって、ようやく村に到着するが、秋生の実家では「村の娘と結婚する」とほとんど門前払い。
同じく、門前払いされた、民俗学者の桜田久作に案内され、二人は村はずれの古寺で一夜を過ごす。
桜田久作によると、江戸時代、この村に金髪碧眼の美しい女性が現れ、「白雪様」と呼ばれ、村の男達と交わった。
その子孫が、外部からの血は入れず、近親婚を重ね、今に至るという。
また、「白雪様」は老いて亡くなると、村娘の中から選ばれ、その言葉は「お告げ」とされ、絶対であった。
だが、近親婚を重ねたため、子供は育たず、村は存亡の危機に瀕しているらしい。
初めて知る事実に戸惑いながらも、香澄は横になるが、物音で目を覚ます。
見ると、壁の羽目板が外れ、その向こうに通路が続いていた。
久作と共に奥に進むと、秋生が牢屋に閉じ込められていた。
彼は、彼女を守るために、山口圭子を隠れ蓑にして、別れたと話す。
そして、明日、彼は「結婚式」をすると言うのだが…。
また、代々、この村で受け継がれる習慣とは…?」
・「この男」(1990年「セリエミステリー」3月号掲載)
「仕事帰りの電車で、OLの原明日美と及川いずみは、会社の噂話で大盛り上がり。
あまりの姦しさに酔っ払いの眼鏡の男に絡んでくるが、いずみは大声で男を罵って、電車を降りる。
翌日の通勤ラッシュ、明日美は痴漢にあうが、それは昨日の酔っ払い男性であった。
更に、いずみがマンションの自室で殺害される。
現場には、その男のものらしき眼鏡が落ちていた。
警察の取り調べが終わり、帰宅する途中、明日美は、公園で眼鏡の男に襲われ、あやうくレイプされそうになる。
些細なことから、彼女につきまとう、眼鏡の男の正体とは…?」
・「悪夢の花嫁」(1990年「セリエミステリー」7月号掲載)
「鳴海曜子は、もうすぐ二十歳の娘。
彼女の父親は、孤児から一代で鳴海物産グループを築き上げていた。
彼は娘を代議士の息子とお見合いさせようとしていたが、彼女には洸一という駆け出しのカメラマンの恋人がいて、猛反対。
ある日、彼女宛てに荷物が届く。
差出人は「桜木明彦」という人物からで、中身はウェディング・ドレスであった。
それを見て、父親は顔色を変える。
曜子が、父親の態度を怪しみ、彼の机を探ると、桜木明彦からの手紙が沢山あった。
手紙には「曜子は俺のもの」で、彼女が「20歳になったら結婚する」と書かれていた。
父親は「桜木明彦」について何も教えてくれなかったが、曜子には心当たりがあり、洸一と共に別荘に向かう。
彼女の記憶通り、別荘の木には、「あきひこ」「ようこ」と相合傘が刻まれていた。
別荘の管理人の加藤友代に話を聞くと、「桜木明彦」は、父親の共同経営者だった桜木章太郎の息子だという。
曜子の父親と桜木章太郎は、今の会社の前身となる関東商事を二人で創立し、この別荘はもとは桜木章太郎の持ち物であった。
その頃、二人は自分達の子供を結婚させようと約束したらしいのだが、十五年前、桜木一家は、この近くの海に車で落ちて亡くなる。
そして、明彦の死体だけはいまだに見つかっていなかった。
結局、友代の話を聞いても、手紙の差出人は誰か、全く見当がつかない。
不安の渦巻く中、翌日、曜子の二十歳の誕生パーティーが開かれるのだが…」
・「真夜中の子供」(1991年「セリエミステリー」5月号掲載)
「山本遥は、田崎清司というステキな恋人がいながら、結婚に意欲の持てないOL。
ある日曜日、清司が急に彼女のマンションを訪れ、梨香という女の子を預かってくれるよう頼む。
梨香は、五年前に亡くなった兄の子供で、義姉が一人で育てていたが、最近、義姉の様子がおかしいらしい。
彼が義姉を訪ねた時、義姉は梨香の首を絞めようとしていたらしく、彼は心配になって、こっそり梨香を連れ出してきたのであった。
そういう家庭環境のせいか、梨香は心を閉ざし、表情も反応もない。
清司は、自分が戻るまで梨香を義姉に渡さないよう念を押して、どこかに行く。
だが、気が付くと、テレビでは梨香が誘拐されたとニュースになり、また、肝心の清司は轢き逃げにあい、意識不明の重体。
仕方なく、彼女は、清司の義姉について独自に調査を始める。
梨香と義姉は血がつながっていないようなのだが…。
その一方で、梨香を通じて、彼女は、自分の過去と向き合うこととなる…」
はざまもり先生の作品はハズレが非常に少なく(これって凄いこと!!)、安心して読めますが、この単行本に収録された作品も水準以上だと思います。
その中でも、「蜉蝣の森」は基本、ミステリーのはざまもり作品の中では珍しく、若干、グロの入ったホラーです。
折角、面白くなりそうなテーマなんだから、グロ描写を盛り込んで、中編にしたら…と思うのですが、やはり、はざまもり先生の趣味ではないんでしょうね…。
2021年9月13日 ページ作成・執筆