北杜太郎「風盗化粧首」(1963年12月11日発行/190円)


「時は戦国。
 舞台は、織田信長の岐阜城。

 武田信玄に仕える風盗一族は、織田信長の命を狙い、刺客を次々と放つが、全て失敗。
 岐阜城には「忍者破り」と言われる赤口蛇太郎がおり、蛇を自在に操ることができた。
 赤口蛇太郎は城中に蛇を張り巡らしており、忍びの者を発見すると、毒蛇を遣わし、その蛇の毒で忍びを身動きできなくさせる。
 無論、失敗した忍者には無残な運命が待っているのであった。

 今、捕らえられた二人の忍者が赤口蛇太郎によって尋問されていた。  どこの出身で、誰の命令で信長を狙うのかを聞くが、決して口を割ろうとしない。
 一人は両膝頭に杭を打ち込まれ、次に喉仏に杭を叩き込まれて、絶命。
 もう一人は、首に縄の輪をかけられた状態で、両足を切断。首吊りになってところで、今度は首を切断される。(上部の右側の画像を参照のこと)
 そして、惨殺された忍者の首は街道筋に晒されるのであった。

 次々と仲間を失い、焦る風盗の頭領に、部下のセムシの権六がある入れ知恵をする。
 風盗出身の卍丸という者がおり、それが今では信長の配下で足軽大将にまでなっているとのこと。
 その妻子をさらい、卍丸を脅迫して、信長を暗殺させるというものだった。

 早速、風盗の一味は卍丸の住居を襲撃し、卍丸の妻子を誘拐。
 卍丸は残された手紙を読み、風盗一族の縄張りに向かう。
 そこで、卍丸がそこで見たものは、妻お万と娘美乃が木で組んだ箱に開いた穴から首を出している姿であった。
 その上には、その箱に流し込む砂利の入った容器。
 頭領の合図とともに、箱に流し込まれる大量の砂利。
 砂利はすぐに固まり、箱の中の二人は息ができなくなると頭領は説明する。
 二人の命を救う為に、信長の首級を上げる(首をとる)ことを約束する卍丸。

   しかし、赤口蛇太郎の操る毒蛇の前に、信長暗殺は直前で失敗。
 裏切り者として斬首され、その首はさらしものにされてしまう。
 卍丸の失敗を聞き、風盗の頭領は息子と二人で信長を討つことを決心する。
 頭領はセムシの権六に、何かあった時には一族を散らすことができるよう、留守を守るよう言いつけるのであった。
 出発する前、卍丸の妻子は生かしておくことはできぬと、やはり(というか期待通り)砂利詰めの運命となる。
 妻のお万は流し込まれる砂利に早々に力尽き、娘の美乃は今際(いまわ)の際まで頭領を呪い続けるのだった。

 所変わって、砂利詰めになった者の墓場。
 そこに、卍丸妻子の遺骸も砂利詰めにされたまま、捨て置かれていた。
 とある日、にわかに暗雲立ち込めると、驟雨(しゅうう)が立ち、稲光が走る。
 雷が、その墓場に転がる美乃のコンクリートを打ち砕く。
 すると、破砕したコンクリートの中から美乃が立ち上がったのだった。
(マンガでは「なんと怪奇なことであろう。美乃が立ちあがったのだ」の一文で済ましてますが、それって説明になっていませんから…。)
 砂利詰めにされた母の横で一頻り嘆き悲しむと、風盗の頭領一味への復讐の意を固め、母親の首を抱いて、立ち去るのであった。

 手始めに、実乃はせむしの権六のもとを訪ねる。
「まよったか」と、胸に刀を突き通されても、平然と権六の首を絞め続ける美乃。
 権六から頭領たちの居所を聞きだすと、刀を首に突き立て、権六を惨殺する。

 そして、頭領たちが潜む岐阜へ向かう途中、美乃は一月以上も晒し者にされている父親の首を発見する。
 美乃は変わり果てた父親の姿を嘆きながらも、父親の首を、母親の首と同様、持ち去る。
 隠れ家を探していた美乃は、山奥に無人の庵を見つけ、ここに落ち着くことにする。
 これで父母と一緒にいられる、と喜ぶ美乃であったが、唐突に(本当に、唐突…)「でも、こんなお顔じゃ美乃はいや」と言い出す。
 そして、どこからか手に入れた化粧品で、父母の生首を化粧するのであった。
(だから、タイトルが「風盗化粧首」なんですね〜。ようやく得心がいきました。)

 さて、ある程度、身辺の整理がついてから、美乃は岐阜に頭領の黒影天鬼とその息子である鬼丸を探しに出かける。
 幾日かして、息子の鬼丸を発見、手裏剣をいくつも身に受けながらも、美乃は鬼丸を追い続ける。
 何とか美乃をまいた鬼丸は、父親の天鬼とばったり出会う。
 美乃のことを言っても、天鬼は全く信じようとしない。
 実際、それどころではなく、信長を討つ絶好の機会がやってきたのであった。

 天鬼と鬼丸は遠乗りから帰る途中の信長の一行を待ち受ける。
 天鬼が信長をまず襲い、警護の人間の注意を引き、その隙に鬼丸が信長を討つという作戦であった。
 しかし、今回も、赤口蛇太郎の活躍で、信長暗殺は失敗。
 黒影天鬼は逃げおおせましたが、鬼丸は捕らえられてしまう。
 遠くからそれを眺めながら、「ウヒヒヒヒ」と嘲笑う美乃。

 一方、逃亡中の天鬼は、無人の庵を発見。そこで一休みすることにする。
 中に入ると、勝手に戸が閉まり、怪しんでいると、笑い声が聞こえてくる。
 振り返るとそこに卍丸とその妻お万の首が待ち構えていたのだった。
 首は宙に浮かび、天鬼の周りを嘲るように飛び回る。
 首を打ち落とさんと、刀を振り回す天鬼が家の外に出ると、美乃と直面する。
 袈裟切りにしても、刺し貫いても、一向にこたえる様子のない美乃。
 美乃が死霊と気づき、何もできぬまま、崖端にまで追い詰められ、天鬼は転落する。
 そこには信長の追っ手が迫っており、天鬼も赤口蛇太郎に捕らえれてしまうのであった。

 後日、惨たらしく処刑された黒影親子の屍骸がさらしものになっていた。
 その様を見て、ほがらかに笑う美乃。
 その両手には、父母の首を差し込んだ、文楽の人形らしきものを持っている。(右側の画像を参照のこと) (注1)
 美乃は、敵(かたき)の仕置きを確認した後、両手に両親の化粧首を抱えたまま、沼の中に身を沈めていくのであった。
 そして、最後に「まさに怪奇というほかにない」(…って、あ〜た、またも説明を放棄していますがな!!)
 おしまい」

 個人的に、北杜太郎先生の三大怪作はこの作品と「江戸断獄記」「入魂譚」と考えておりますが、個人的ベストはこの作品であります。
 残虐極まる拷問シーンに砂利詰め、生首乱舞といった魅力的な要素がたっぷりですが、何といっても、たった一ページぐらいしかない「死体に化粧をする」描写の薄気味悪さをいったら…。
 しかも、化粧された首が、目は座ったまま、微笑んでいる様は、化粧する以前よりも遥かに不気味という有様。(というか、死んで一月以上経っている死体に化粧して、どうにかなるものなのか?…恐らく、季節は腐敗しにくい冬だったのでしょう…でも、烏とは動物がいるのでは?…大人げないので、やめておきましょうね。)
 恐らく、作者は何も計算などはせずにただひたすら描きとばしていただけとは思いますが、偶然とは恐ろしいもので、たまにこういう神懸りなマンガが生まれてしまうということなのでしょう。
 知名度は貸本マンガ・マニアの間でしかないと思いますが、読んだら、喜ぶ人は多いように思います。

・注1
 これが見開きの気味の悪い絵の正体だったのですね。
 首に何かの棒を差して、それに着物をかぶせただけというものですが、こんなものを両手に持ってるだけでも十二分に怪しいですよ、美乃さん。

平成24年12月9日〜12月14日 執筆
平成27年11月1日 作成・改稿

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