湧井和夫「巷説法界坊」(200円/1964年10月27日発行)



「永楽屋の手代、要助は実は吉田家の松若丸であった。
 彼が町人が身をやつしているのは、家宝「鯉魚の一軸」を見つけ、家を再興するためであった。
 ようやくそれを手に入れるものの、永楽屋の主人、権左エ門は山崎屋の勘蔵に娘のおくみをやるばかりか、その掛け軸までも送ろうとしていた。
 要助とおくみは相思相愛の仲で、彼はおくみにこの掛け軸を彼に請け戻すよう頼む。
 その話を陰でこっそり聞いていたのが、破戒坊主の法界坊。
 法界坊はおくみに惚れており、「鯉魚の一軸」を偽物とすり替える。
 また、この話を山崎屋の勘蔵も立ち聞きしていて、彼も掛け軸を別のものにすり替える。
 更に、おくみに横恋慕する、永楽屋の番頭、正八や、要助の国の許婚の野分姫も加わり、話がややこしくなる。
 おくみと「鯉魚の一軸」を巡り、要助、法界坊、勘蔵、正八の思惑が入り乱れ、事態は思わぬ方向へ…」

 この表紙から食指が動かない人が多いと思いますが、凝った展開を見せ、なかなか面白いです。
 ネットで調べたところ、歌舞伎の「隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)」が原作ですが、原作との差異等、詳しいことはわかりません。
 読んでると、怪奇的な要素はなく、拍子抜けしますが、ラスト近くになって、突如、幽霊話になります。
 猟奇的な殺人描写やおどろおどろしい(けど、マヌケな)怨霊描写が素晴らしく、このサイトで紹介する価値は十二分にある作品です。

・備考
 ビニールカバーの剥がし痕、ひどし。その上にビニールカバー貼り付け。前後の見返しのノドに紙テープで補強。pp1〜18までページ破れがあり、テープで補修。

2024年2月10日 ページ作成・執筆

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