湧井和夫「生者死者」(150円/1961年8月15日発行)
「高所恐怖症のせいで、部下を死なせ、犯人も逃してしまった岡っ引き、半次。
十手を返した彼のもとを、近江屋の主人、長吉が訪れる。
長吉は半次に妻のおくみを見張るよう依頼。
どうも、おくみはたびたび、妻の祖母の霊魂が憑りついたように行動しているらしい。
依頼を受け、半次はおくみを尾行すると、墓場で祖母の墓によりかかったり、無意識のまま、川に身投げをしたりと、尋常ではない。
半次に助けられた、おくみは、彼に、「別の人間になったような気が」し、「この世とあの世と両方に生きているんじゃないかしら」と考えていると話す。
半次はおくみの命を危ぶむようになるが、ある日、彼女は、墓場へ向かい、荒れ果てた仏塔に登り始める。
半次は彼女を追おうとするが、足がすくんで、どうしようもできない。
その間に、おくみは、彼女の祖母が自殺したのと同様に、塔上から身投げをして死んでしまう…」
冒頭を少し読むだけで、アルフレッド・ヒッチコックの名作「めまい」が元ネタであることがわかります。
ストーリーの概要は映画通りですが、湧井和夫先生はそこに独特のアレンジを付け加えました。
それは、主人公である、元・岡っ引きの半次が「霊魂の不死性を突き止めようとするあまりに、パラノイアになる」という設定で、後半、ブラック・ユーモアな雰囲気を醸し出しております。
皮肉なラストは「めまい」よりも良いと私は思っております。
・備考
ビニールカバー貼り付け。糸綴じあり。見開きに補修あり。前の遊び紙、貼りつき。前後の遊び紙に貸本店のスタンプ押印。pp1・2、pp15・16、コマにかかる欠損。
2019年5月30日 ページ作成・執筆