日野日出志「餓鬼地獄」(1987年6月15日初版発行)

 収録作品 ・「花ざかりの森」(「ホラーハウス創刊号」86年9月発行)
「今は昔、ある村の近くに、春になると、狂ったように花が咲き乱れる桜の森があった。
 その桜の森には、桜姫という花の精が潜んでおり、近づく者は殺されたり、気が狂ったりすると言うので、村人は決して近付かなかった。
 ある春の日、村の少年、太郎は薪を取りに行った帰り、狂い桜の森に入り込んでしまう。
 花の美しさに魅了され、森の奥深くに行くと、一人の少女が泉で水浴びをしている場面に遭遇する。
 少女は、この森に住むと言われる桜姫であった。
 太郎は顔が美しいという理由で命を助けてもらうが、急に胸の痛みを訴える。
 そこで、桜姫は太郎に桜の花の蜜を飲ませる。
 それを飲むと、胸の痛みが取れるだけでなく、途方もなく気持ちが良くなり、太郎は白馬になったような気分で、桜姫を追って、走り続けるのであった。
 桜姫に会ったことを秘密にするよう厳命されて、太郎は家に戻ってくるが、また胸の痛みがぶり返してくる。
 桜の花の蜜を得るために、太郎は…」

・「餓鬼地獄」(「ホラーハウス創刊号2号」86年11月発行)
「今は昔、三年前に音信を絶った恋人を探すために、京の都に向かう、旅の女性がいた。
 京にほど近い山中で女性は、飢饉の餓死者の魂が変化した餓鬼の群れに襲われる。
 近くの寺の僧侶に助けられたものの、身体中を餓鬼にかじられて、女性は重傷を負い、寺で療養することとなる。
 しかし、全身に餓鬼の毒が回り、傷はどんどん悪化していく…」

・「原色の海」(「ヤングジャンプ増刊」86年8月発行)
「ある所に、美しい海辺の町があった。
 原子力発電所や石油コンビナートが立ち並び、空には虹色の雲が渦巻き、海は七色に輝き、浜辺には極彩色の奇形魚が打ち上げられていた。
 そんな町で生まれ育った少女は、秘密の遊び場で、極彩色の奇形魚を集めては、それに夢と憧れの世界を見出していた…」

・「マンホールの中の人魚」(「スーパーアクション」86年9月号)
「マンホールの中で廃物や汚物を見つけては、それを絵の題材にする絵師。
 彼はある時、マンホールの中で、美しい人魚と出会う。
 人魚の美しさに心打たれた絵師は、自宅に大きな水槽を用意して、そこに人魚を住まわせ、絵を描くことにするのだが…」
 この作品は、1988年に「ギニーピッグ」の中の一編として日野日出志先生自らが映像化しております。
 映画の方では、人魚はマンホールの中で病を得て、徐々に腐り、膿み爛れていくのですが、原作はそんなことは全くありません。
 マンガの方の人魚は至って健康、ピチピチしております。
 個人的にはこちらの人魚の方が好みです。(トップレスですし…。)
 それにしても、人魚って、下半身(魚の方)を足のように折り曲げることができるものなんでしょうか…?

・「おとなりさん」(「女性自身」1972年8月発行)
「ある団地暮らしの平凡なサラリーマン。
 彼の苦労をよそに、妻は隣の家庭と同じものを望む。
 大島紬、ダイヤの指輪、カラーテレビ、クーラー、車…妻の欲望はキリがなく…」
 妻の面(つら)の歪み方がいい味出してます。

・「人形の家」(「少年マガジン増刊」1980年4月発行)
「私立日の出学園の男子生徒、花村と女友達のマリ(通称「マリっぺ」…ちょっと恥ずかしいかも…)は、雨宿りをしている時に、ある屋敷に招き入れられる。
 この屋敷は初老の男性が一人で住んでおり、彼の仕事は人形師であった。
 彼の仕事柄、屋敷には世界中の人形が集められており、雨が止むまで、二人は人形を見て、部屋を回る。
 地下室への階段を見つけたマリは好奇心から階段を降りていくが、そこでマリの見たものは…」

・「おしゃべりな口」(「少年マガジン増刊」1980年11月発行)
「内気なため、言いたいことをはっきり口にすることができず、もやもやしまくりの少年。
 ある朝、目覚めると、身体中に口が幾つもできていた。
 それは「心の口」で、心にためて積もり積もったものが原因でできたと言う。
 「心の口」をなくすためには、積極的になって、胸の内を明らかにしないといけない。
 「心の口」の手助けを借りながらも、少年は今までとは一転、自分の意見を言うようになる…」

 時代物に幻想的なもの、少年向けなものとバラエティーに富んだ内容の、粒よりの短編集だと思います。
 個人的なベストは、ほんのりとエロチックな「花ざかりの森」です。
 また、少年雑誌に描かれた「人形の家」「おしゃべりな口」のちょっぴり気恥ずかしいようなところも新鮮かも。

・備考
 表紙色褪せ。

2016年4月4・5日 ページ作成・執筆

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