井出知香恵「怨霊の棲む島」(1988年9月3日初版・1990年3月6日2版発行)

 収録作品

・「朱水の秋」(「Collet ミステリー」1987年11月10日号)
「大原香澄(24歳)は売り出し中のイラストレーター。
 彼女は物心つく前に親に捨てられたらしく、施設で育つが、周囲に恵まれ、今は私生活でも仕事の面でも順調であった。
 ただ、彼女の心の片隅には幼い頃の記憶が絶えずつきまとっていた。
 晩秋の温泉宿、母らしき人と泊まっていた彼女は森の中で不思議な光景を目にする。
 あたり一面、紅葉の朱に染まった光景の中、一人の男の後姿がある。
 男は川に向かってしゃがみ、赤い紅葉の葉を川に流している。
 その景色の中に一つ、「異質な色」があったはずなのだが、それが何なのかどうしても思い出せない。
 彼女は恋人で推理小説家の多木祥広にだけ、その記憶について話すが、彼は女性のペンネームでそれを小説として発表する。
 彼は彼女の記憶を多くの人の目に触れさせることで、手掛かりを掴もうと考えていた。
 数日後、彼は「手がかりがつかめた」とメモを残して旅行に出るが、そこで死体になって発見される。
 場所はT県F温泉の裏山で、死因は転落死であった。
 香澄は自分の記憶のために彼が殺されたと確信し、F温泉郷を訪ねる。
 彼が最初に泊まった旅館こそが彼女の記憶にある旅館で会った。
 彼女は多木祥広の足取りを追って、聞き込みを続けるうちに、自分の素性について知ることとなる…」

・「パルファムの魔女」(「Collet ミステリー」1987年4月10日号)
「速水若菜は福音出版社で働くOL。
 彼女の姉は人気レポーターであったが、k温泉地獄谷で自殺する。
 失恋による自殺と報道されるものの、彼女の遺品には彼女の使っていない麝香の香水の香りがついていたことから若菜は疑問を抱く。
 最も疑わしいのは姉の恋人だった浅倉晃次で、彼に接近するために、若菜は彼の勤める会社に入ったのであった。
 その浅倉がヨーロッパでの取材から帰って来たと知り、若菜は早速、彼の尾行を開始する。
 彼の向かった先はk温泉であったが、姉の死体が見つかった地獄谷でなく、ロータリーテニスクラブを訪れる。
 そこで若菜は見覚えのある男を目にする。
 調べてみると、記者だった姉が三年前に取材した小池博高という医者であった。
 彼女は何故、浅倉が小池のいるテニスクラブを訪れたのか疑問に思うが、その時既に彼女の身に危険が迫りつつあった。
 姉の死の真相とは…?
 そして、本当の姉の姿とは…?」

・「怨霊の棲む島」(「Collet ミステリー」1987年7月10日号)
「プレイボーイの実業家、神頭裕介が夢幻島でヨット遊びの最中、溺死する。
 夢幻島は神頭家の屋敷があり、裕介はその資産目当てに五歳年上のかおり夫人に婿入りして、神頭家の財力をバックに大実業家へとのし上がる。
 しかし、義父の死後、彼は妻のいる島には寄り付かず、東京で暮らすようになる。
 彼には愛人がおり、新進女優の圭なつき、デザイナーの有川真由美、バードショップの店員、宮崎園子の三人。
 彼女たちは遺言状公開に立ち会うために、夢幻島に招かれる。
 かおり夫人が彼女たちを出迎えるが、想像と違い、非常に優雅な女性であった。
 夕食の席、かおり夫人は意外なことを打ち明ける。
 弁護士からの手紙は嘘で、本当は夫を殺した犯人を明らかにするのが目的だと話す。
 夕食には毒が入れてあり、かおりは真犯人が自白しないと解毒剤を渡さないと三人に迫る。
 三人が皆、自分が犯人でないと主張していると、かおり夫人が苦しみ出し、死んでしまう。
 三人は、裕介を殺した真犯人が夫人を毒殺したと考え、疑心暗鬼に陥る。
 そして、島に閉じ込められた三人を謎の殺人者が襲う…」

・「魔のアースカラー」(「Feel」1988年3月19日号)
「亜美子の人生を変えたのは一つのチャイム音であった。
 夫と思い、ドアを開けるが、ドアの向こうには仮面を付けた男がおり、彼女はレイプされ、帰宅した夫は撲殺される。
 心に深い傷を負った彼女は学生時代の友人、片岡英美・夫婦の勧めで、夫婦の住むマンションの隣部屋へ引っ越す。
 英美は二年前に一人息子を事故で亡くしており、亜美子に親身になってくれる。
 だが、新しい生活を始めるも、彼女は再びレイプ犯に襲われる。
 レイプ犯は屋上からベランダに降りてきて部屋に侵入し、去り際に彼女をいつでも見張っていると警告する。
 彼女は不安に苛まされるが、あるきっかけから、レイプ犯の正体に気付き…」

 井出知香恵先生お得意のレディース・ミステリーです。(ホラー色は薄いです。)
 純粋なミステリーとしてはボロは多めですが、そこは語り口でカバー。
 個人的には、「怨霊の棲む島」が一番面白いと思います。
 犯人はすぐにわかっちゃいますが、「孤島もの」だけあって、なかなか雰囲気があります。
 また、ラストの意外さには感心しました。

2024年2月8・9日 ページ作成・執筆

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