いけうち誠一「劇画・死の世界」(1980年4月13日発行)

「肝臓癌で余命幾ばくもない、元・マラソンランナーの石神明を見舞う水島。
 石神は「死」を目前にして、怯えながらも、「死」とは何かを知ろうとする。
 人間なら誰でも一度は対面しなければならない「死」…「死」とは一体どういうものなのだろうか?」

 濃いです。内容としては「大陸謎シリーズ」でトップ・クラスだろうと思います。(全部、揃えていませんが…。)
 一読すると、つのだじろう先生のオカルトマンガ以上に、いけうち誠一先生からの「メメント・モリ(死を忘れるな)」(注1)というメッセージがガンガン読者に届いてきます。
 実際、人間にとって「死」というものは不可避かつ最重要な問題なのでありまして、古今東西あらゆる宗教が「死の解決」を究極的な目標としているのも当然であります。(「死の解決」なくして、「よく生きろ」もクソもありゃしません。まあ、「よく生き」るに越したことはないのですが。)
 その切実な問題をテーマにしておりますので、どうしてもシリアスにならざるを得ません。いけうち誠一先生もそのあたりのことはしっかり承知して、ベテランらしい、ストロング・スタイルな作品に仕上げております。
 ただ、ラストの検体された死体の解剖シーンがバッド・テイストの極み。(これってわざわざ描く必要があったのでしょうか?)
「人間、死ねばゴミになる」を地に行っておりまして、下手に子供が読めば、深いトラウマを抱いたことでしょう。
 これを読んで、「検体」しようという気になる人間は皆無だろうと思います。
 とにもかくにも、「死」というものを考えさせられる一冊であります。

・注1
 ミシェル・スパークというイギリスの作家の「死を忘れるな」(原題『Remember you must die』)というブラックな小説もありました。
 かなり前に読んだので、ほとんど忘れちゃっておりますが、老人達にかかってくる「死を忘れるな」という電話をめぐる騒動を描いた作品だったように記憶しております。

平成27年1月23日 ページ作成・執筆

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