さがみゆき「人形の骨」(230円)

「ある秋の満月の夜、浜辺を散歩していた青年は少女と出会う。その少女の語る話…。
 少女の名は上山由加。
 由加は幼い頃にある医者の家に引き取られ、そこの一人息子のたけしと本物の兄妹のように育った。
 由加はたけしを心から愛し、将来的に二人は結婚する仲であった。
 夏、たけしが京都の大学病院から休暇を取って、海辺の別荘に来るという。
 待ち切れずに門前でたけしを待つ由加だが、久々に会うたけしはどこか変わっていた。
 自分の荷物を蔵に運び入れ、人が入れないように鍵までかける始末。
 特に、由加が気にかかったのは、標本が入っているという話の大きな箱であった。
 その翌日、たけしの留守に、京都弁の女が訪ねてくる。
 その女は千代菊を出すよう要求する。
 千代菊とは、たけしと恋仲だった舞妓で、三日前から行方不明とのこと。
 そのことを聞いた由加はひどいショックを受け、たけしが蔵の中に千代菊を匿っていると考える。
 蔵の中を探ろうとする由加の企みに感づいた、たけしは蔵の中を見せるが、そこには人の隠れるスペースなどない。
 由加は大きな箱の中も見せてもらうが、その中には標本用の骸骨が入っていた。
 しかし、由加は不信感を拭い去ることができない。
 そして、人形師を名乗る、怪しい男が蔵に出入りするようになる。
 たけしの秘密とは…?」

 恐らく、後日、ひばり書房黒枠で発表された「怪談恋人形」のオリジナルと思います。
 本編後の「みゆきのひとりごと」が、黒枠版「怪談恋人形」の袖の文章とちょっぴりかぶります。
 あと、元ネタは江戸川乱歩「人でなしの恋」(注1)でありましょう。
 それに、往年の怪奇映画「肉の蝋人形」(未見)をミックスした感じだと思います。
「人でなしの恋」は人形に対する異常愛を描いたものですが、この作品から「性愛」の要素を抜き取って、一応、「純愛」ものに仕上げております。
 これぞ、さがみゆき作品なのであります。

・注1
「サンデー毎日」に大正十五年七月に発表された作品とのこと。(90年も前!!)
 変態性欲を描いた作品の多い江戸川乱歩ですが、この作品はそこまで過激ではありません。
 でも、「エクスタシイ」なんて単語が文中に出ていて、やはり期待を裏切らないのでありました。
 それにしても、この語り口、魅了されます。息づくような文章です。

・備考
 状態悪し。ビニールカバー貼り付け、また、それによる本体の歪みあり。小口にマジックで「94」の書き込みあり。読み癖あり。目立つシミ、汚れ、裂け多数。pp59、108〜111、鉛筆によるグルグルの落書きあり。

2015年11月12日 ページ作成・執筆
2016年1月11日 加筆訂正

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