さがみゆき「人喰い屋敷」(発行年月日不明/220円)

「主人公は、池上やよいと池上さつきの姉妹。
 二人の先祖は二万石の大名であり、時代が時代ならお姫様なのでありました。

 とある夜、さつきは「ウォーン オオーン」という不気味な唸り声で目を覚まします。
 姉のやよいのもとに行くと、姉も青ざめた顔をして、起きておりました。
 そして、姉はこの声を聞いたことがあると言います。それは五年前に姉妹の父親が行方不明になった時でした。
 二人が母親の寝室を訪ねると、寝床はもぬけの殻。
 二人は訝りながら、家の中を調べます。
 やよいは「この家の者は呪われているんだわ」と言い出します。「この家の者は代々消えてしまうのよ…」
 二人が外へと出て行くと、そこには池上家に代々仕える婆やがおりました。
 婆やは二人にこの奇声は「ご先祖さまのお声じゃ」と説明します。何でも「ご先祖さまが池上家の人間をおむかえにこられる」時に鳴るのだそうです。
 昔、池上家の先祖の殿様は妻を亡くした際に、死骸が醜くなることを悲しみ、以後、池上家の人間は醜い死体を人前にさらさないよう、人知れず死んでいくというしきたりができたのでありました。そして、池上家の人間に死が近づいた時に、お殿様の霊声は鳴るとのこと。
 婆やは母親がもう戻ってこないと告げます。母親は失踪した父親のもとにいったのだと…。
 しかし、さつきは納得しません。母親は病気ではあったが、単なる風邪で命にかかわる病気でなかったからです。
 一方、姉のやよいは、消えていくことが池上家の宿命だと、婆やの話を信じると言うのでした。
 一晩たって、奇妙な声は聞こえなくなります。
 やよいは「今度、あの声が聞こえる時は、私の消える番だわ…」とさつきに話します。
 怯えるさつきに、やよいは池上家の秘密を調べてみる、と決意を述べるのでした。

 母親の死体のないまま、池上家ではひっそりと葬式を済まし、池上家の血をひく、たった二人の姉妹になってしまいました。
 その頃から、姉のやよいは別人のようになり、奇行に走るようになります。
 母の声が聞こえる、と言っては、夢遊病者のように庭をさまようのです。
 そんな姿を見て、胸を痛めるさつき。
 婆やに諌められるものの、さつきは家を出るか、この家の謎を解くか、どちらかしかない、と考えるのでした。

 そんなある日、池上家の屋敷を一人の青年が訪ねます。
 青年は梅木一彦(恐らく、楳図かずおから名を取ってます)。さつきの同級生で、さつきが手紙で呼び出したのでした。
 さつきは一彦に事情を話し、この家の謎をとく手伝いをしてほしいと頼みます。
 その夜は激しい雷雨となりました。
 さつきは「ウォーン」という奇声に目を覚まします。
 窓の外を見ると、土砂降りの中を歩いていく姉の姿が…。
 今度消えていくのは姉だと思い、さつきは姉の後をつけようとします。
 そこへ偶然居合わせた一彦に声をかけられ、姉の姿を見失ってしまうのでした。

 仕方なく、お風呂に入って、身体を温めるさつきですが、そこへ姉もやってきます。(残念ながら、この入浴シーン、ちっとも色気がありません…。)
 やよいは一彦にはこの家から出て行ってもらった、と言います。
 というのも、一彦が婆やの孫で、さつきに好意を持っているから。
(このところの会話のシーンは何度読んでも、いまいち意味が掴めません。)
 さつきは混乱しながらも、他人は当てにならず、自分達姉妹しか、この家の秘密を探ることはできない、と思うのでした。

 その夜、さつきは落ち着かず、どうしても寝付くことができません。
 そのうちに、あの奇妙な霊声が近づいてきます。
 さつきは姉のやよいのもとに駆けつけ、姉妹は二人すがり合って、震えるのでありました。
 ふと戸がドーンドーンと叩かれ、ガリガリとかきむしるような音が聞こえます。
 二人は急いで身を隠すと、戸が乱暴に開かれ、幽霊のような女性が入ってきます。
 その女性は婆やの部屋に向かうと、婆やは頭から布団をかぶって、震えておりました。
 この幽霊のような女性は、やよいとさつきの母親だったのです。

 さつきとやよいの母親は現代的な人でありました。
 先祖が大名だろうが、由緒ある家柄だろうが、古臭い家風には従わず、洋風な家を建て、洋風な生活を目指しておりました。
 そして、失踪した主人の骨を何とかして見つけて、墓を立てたいと望んでいたのです。それが主人の遺志でもありました。
 ある日、婆やから池上家の秘密をご存知ですか?と問いかけられます。
 主人の不審な失踪もあり、その秘密を知るために、その夜、婆やの後を付いていきます。
 すると、草むらの中に入り口があり、地下に降りる階段があったのでした。
 その階段を降りると、屋敷のちょうど地下に迷路のように広がる、池上家の墓がありました。
 婆やの一族は代々池上家の墓守を勤め、池上家の人間を案内していたのであります。失踪した主人もこの洞窟の中で朽ち果てていったのでありました。
 骨の散乱する中、母親は婆やにここを出ようといいますが、「おくさまはもうここからでることはできません」とろうそくが吹き消されます。
 真っ暗闇になり、その中を「ひひ…池上家の人間はここで死ぬのじゃ だれにもしれずに」という婆やの声のみ聞こえるのでありましたが、その声も途絶え、母親は独り、暗黒の洞窟に取り残されます。
 闇の中で方向感覚を失い、助けを求めて泣き叫びながら、彷徨う母親。
 空腹に耐えかね、もはやこれまでと一度は観念しますが、自分の娘達のことを考えると死ぬに死ねません。自分の娘達も、自分と同じような運命を辿らせるわけにはいかないのです。
 母親は気力を振り絞り、生きるためには何でも口に入れ、出口を求めて、彷徨うのでした。
 そして、幾日経ったのか、母親は雷鳴を聞きます。音のする方に向かうと、稲光が出口を示してくれたのでした。
 こうして、母親は生きて、池上家の地下墓場を脱出することができたのです。

 母親は、何百年も前の気違いじみた遺言を今まで守ってきた婆やを扼殺。
 様子を見に来た娘達に向かって、母親は「すべてはおわってしまったわ……なにもかも…」と語り出します。
「もうこの家を人喰い屋敷なんてよばせない。わたしは子供の前で死んでゆけるんだ…この家では…はじめてね…お葬式ので…でるのは、わたしがは、はじめて」
 と、気力が尽きたのか、母親は倒れ、絶命するのでありました。

 最後に、姉の不思議な行動の説明がされております。
 姉は母親の助けを求める声を敏感にも察し、その声の出所を探ろうと、無我夢中になっていたのでありました。

「でもこれからはあのいまあしい声を聞くことはないでしょう……」
 おしまい」

平成26年4月6日 とりあえずページ作成
平成26年5月12日 執筆

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