いばら美喜「忍法破れ」(200円)

「天正九年(1581年)、織田信長の軍は伊賀に攻め込んだ。
 一度は大敗北を喫したものの、再度、猛攻を仕掛ける。
 物量にものを言わせ、伊賀の里のものを女子供を問わず、虐殺したのであった。
 辺り一面、灰燼に帰すが、その中から十人の忍びの者が立ち上がる。
 彼らは織田信長への復讐を胸に誓い、まず、伊賀攻めで指揮を執った、黒影城城主、羽鳥刑部を血祭りにあげるべく旅立つのだった。

 黒影城。
 見張りに立っていた、葉桜一平は城外へ去っていく忍者の影を見る。
 殿の身を案じて、茶室に向かうと、警護の者は皆殺され、羽鳥刑部は惨殺されていた。
 葉桜一平は復讐を決意するが、家老は追っ手を出すことはしないと言う。
 しかし、葉桜一平の決意は固く、家老は十名の共の者を率いて、伊賀者を追うことを許すのだった。

 夜明け、葉桜一平と部下十名は敵討ちに旅立つ。
 一平は、伊賀者が次に狙うのは織田信長と考え、織田信長の居城への通り道となる宿場で待ち伏せすることにする。
 ここは右が断崖、左は海になっており、伊賀者は必ずここを通るはずだった。
 また、集団では目立つため、一人ずつやって来るに違いない。

 その夜、葉桜一平はこの付近の地理を知るため、出かける。
 夜の浜辺で、彼は妙という武家の娘と出会う。
 妙はもとは城の姫君だったが、戦により落城、両親も亡くし、里の乳母のもとで暮らす身だと言う。
 妙と一平はすぐに打ち解け、明晩、再会することを約束するのだった。

 翌日、一平は部下の一人と道路を見張る。
 すると、街道をやって来る一人の法師の姿。一平は彼の歩き方が忍び特有のものであることを見抜く。
 彼は部下に法師の後をつけさせるが、浜辺で法師は正体を現す。
 忍者は砂の中に潜り、あちこちに盛り上がった跡を残し、一平の部下を翻弄。背後から飛んできた手裏剣で部下は絶命。
 これぞ「伊賀忍法モグラ」!!
 その様子を物陰から見ていた、一平は、忍者に戦いを挑む。
 相手の手のうちを知った一平は、海の中に入り、息が続かず、姿を現したところを斬殺するのだった。

 残る相手はあと九人。しかし、相手は伊賀攻めを生き延びた強敵揃い。
 一平は部下と相談して、部下が一人ずつ伊賀者の相手をして、相手が術を見せた後で、一平が伊賀者を討つということに決まる。

 翌日、巡礼姿の女性が現われる。
 一平の部下が女性のもとに行くと、彼女は木の高いところにある枝に座っていた。
 戦いを挑む部下にくの一は地面に降り、長い髪を振り回し始める。
 長い髪は針のような鋭さで部下目がけて飛び、部下を刺し貫く。
 これぞ「伊賀忍法錐髪」!!
 部下がやられた直後、一平は出てゆき、くの一の髪の毛針を身を伏せて避け、両腕もろとも胴を一刀両断、これを倒す。

 三人目。
 廃寺にて、修験道者に扮した伊賀者と、一平の部下の対決。
 この忍者は空中を「ロケッティア」の如く、自在に飛び回り、振り回された部下はいつの間にか手裏剣で殺害。
 これぞ「伊賀忍法飛燕」!!
 次に立ち向かう一平は、目を閉じ、飛び回る相手の気配だけを頼りにし、見事、忍者を一刀両断、左右半身真っ二つにする。

 四人目。
 廃寺で、貴人に扮した伊賀者と、一平の部下の対決。  今度の忍者は両手に高温を発し、刀さえ溶かしてしまう。顔を掴まれた部下は、顔を高温で溶かされ、絶命。
 これぞ「伊賀忍法焼けぼっ杭」!!
 しかし、急に現われた一平に海に突き落とされ、水の中では忍法も役に立たず、一平に殺られる。

 五人目。
 岩だらけの道で、市井の女性の格好をしたくの一と、一平の部下の対決。
 くの一は、切りかかる部下に自分の着物を被せかけると、瞬時にその着物は燃え上がり、部下は焼死。
 これぞ「伊賀忍法火炎衣」!!
 その場に躍り出た一平は、相手が着物を脱ぐ暇を与えず、くの一にたいまつを投げつける。
 着物は炎上、くの一は火だるまになって、絶命。

 忍者を片付けた後、一平は部下のもとに戻るが、五人の部下は皆殺しにされていた。
 気が付くと、一平は四人の忍者に取り囲まれていた。
 忍者達は先に着いたはずの仲間の姿が見当たらず、一平達の計画に気付いたのだった。
 一平がいくら強くても、四人の忍者を相手では勝ち目がない。
 そこで、一平は一計を巡らし、忍者達を不安定な岩がそそり立っている場所におびき寄せる。
 忍者達が一斉に一平に襲い掛かった時、一平は岩を支えている石を蹴りとばし、その場を離れる。
 忍者たちは崩れ落ちた岩の下敷きになり、全員死亡。

 何とか難を逃れたものの、後一人、伊賀者が残っている。一平はその伊賀者と対決せねばならない。
 心の重い一平の前に妙が現われる。
 二人は浜辺に座り、一平は今までに伊賀者を九人まで始末したことを妙に話す。
 妙は、一平が何故、羽鳥刑部を殺した伊賀者を絶対に殺すことにそこまで執着するのか、一平に問う。
 妙にせがまれて、一平は秘密を明かす。
 殺された羽鳥刑部は実は影武者で、その影武者は一平の父親だったのだ。
 羽鳥刑部が生きていると聞き、妙は慌ててその場を立ち去ろうとする。
 そう、妙こそ十人目の伊賀者だったのだ。
 一平は、妙に黒影城に行かぬよう言い、両腕を切り落とす。
 妙は、一平と夫婦になるなら、黒影城に行かないつもりだった、と言うが、一平は、妙を自分の出世とは引きかえにできない、と言い捨てる。
 その言葉を聞き、妙は一平に自分の忍法を見せようと言い、対決を決意。
 妙が息を吐くと、手裏剣が風に舞うように、一平の方に向かってくる。
 一平は応戦するものの、背後から首を刺し貫かれ、絶命。
 これぞ「伊賀忍法口車」!!
 両腕がないまま、妙は走り去り、後日、羽鳥刑部は暗殺されたのであった。
 おしまい」

 いやはや、まさしくキテレツ忍法大集合!!
 忍者を扱った時代劇画の中では、残酷度、娯楽度ともにトップ・クラスの快作であろうと思います。
 忍者なんだから「何でもあり」という考えなのでしょうが、ここまでデタラメかましてくれますと、清清しいですね。
 更に、こんなミョ〜チクリンな忍法でも、妙な説得力と迫力を備えて見せる画力の高さ…同じ内容を描いて、これ程見せるマンガを描ける人が今現在どれだけいるでしょうか?(注1)
 いばら美喜先生は、この後も「土曜漫画」という雑誌などで時代劇を多数描いておりますが、どちらかと言うと「エロ」に傾いて、これ程までムチャクチャなマンガは描いていないようです。
 東京トップ社から出版された五冊の時代劇画はどれも「ブッ飛んで」おりますが、その中でも最も破天荒な一冊です。
 もしも復刻されたら、ベスト・セラーになってもおかしくない内容だと思います。

・注1
 大傑作「ゾンビ屋れい子」で知られる三家本礼先生だったら、かなりいい線いくんではないでしょうか?

・備考
 ビニールカバー貼り付け。ビニールカバーの破れたところのカバーの破れあり。後の見返しに貸本屋の伝票貼り付け。

平成27年2月1日 ページ作成・執筆
 

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