月宮よしと『呪いの竈(かまど)』(発行年月日不明/200円)
「文明の頃……泉州堺の街で起った奇怪な話………
とある日、一人の侍が、街頭の易者にたわむれに自分の運勢を占うよう言います。
占いの結果を告げるのを渋る易者ですが、侍は易者に強要します。
すると、易者は、侍が「今日」に死ぬと言うのでした。
そして、「子の刻三更に御用心下され」と付け加えます。
その答えに立腹した侍は、易者に殴りかかり、止めに入った町人によって、易者は一命を取り留めるのでした。
さて、今日限りの寿命と告げられた侍は、泉州堺にて郡代の別官を勤める茅原官平というもの。
まさかとは思うものの、易者の卦が気になって仕方がありません。
何でもないふうをして、妻にこのことを話します。
妻は、易者の戯言と知りつつも、それが気にかかって仕方ない夫の様子を見て、酒を飲ませて、気を紛らわせます。
すっかり酔って、寝床に就く茅原官平。
用心のために、妻と女中のお安は寝ずの番をすることにします。
三更も過ぎ、安心した二人も寝ることにしますが、その時、官平の寝室から妙な叫び声が聞こえます。
妻とお安が駆けつけると、障子を突き破り、髪を振り乱して、裸足で駆けていく官平の後姿が…。
慌てて、後を追いかけますが、川の方から「ドブーン」という音が聞こえます。
官平の姿はどこにもなく、折からの雨で増水した川に飛び込んだとあれば、絶望的。
官平の死体は結局、見つからず、官平の死は狂気の沙汰故となったのでありました。
官平の死後から百日が経った頃。
未亡人となった小瀬に、官平の父が訪ねてきます。
用件は、小瀬の今後の身の振り方でありました。
が、小瀬は茅原の家を捨てるができず、この家に婿を迎えたいと言います。
婿の心当たりを問われた小瀬は、亡き官平の友人、権藤太の名を出します。
官平の父は早速、先方に話をして、話はとんとん拍子に決まりました。
権藤太は茅原家に婿入りして、官平の名とその要職も継ぎます。
そして、権藤太と小瀬の夫婦仲もむつまじく、近隣に知られたのでありました。
しかし、一ヵ月後のとある夜。
女中のお安は晩酌の用を言いつけられます。
そこで酒を燗にしようと、お釜を竈にかけ、火吹き竹で火を起こそうとしていたところ、竈がなにやらぐらぐら動き出します。
すると、火の中から、死んだはずの茅原官平が竈を持ち上げ、お安の名を呼ぶのでした。
あまりのことに卒倒するお安。
お安の悲鳴を聞きつけて、権藤太と小瀬はかけつけて、介抱します。
正気づいたお安は、起こった事を話しますが、つくり話だろうと、全く信じてもらえません。
それどころか、小瀬は無精者になったと言って、お安を段平という商人に嫁がせて、厄介払いしてしまうのでした。
お安の嫁いだ段平というのが、根っからの怠け者で、嫁いでから三ヶ月もしないうちに、お安は茅原家に金の無心に通う破目になります。
仏の顔も三度まで…三度目に金を借りに行った時には、小瀬にもう二度と貸さないときつく言い渡されます。
こそこそと逃げるように立ち去るお安。
小瀬は権藤太に事情を説明し、権藤太の酒が冷めていたので、燗をしなおすことにします。
小瀬が、台所で竈に火を起こし、火吹き竹で火勢を強めていた、その時…燃えさかる火の中から竈を持ち上げる、茅原官平の姿が!!
度肝を抜かれる小瀬に、茅原官平は「ガッハハハ…」と高笑いすると、「ギリャーーッ」と、小瀬に竈を投げつけます。
お釜の熱湯を全身に浴び、悶え苦しむ小瀬。
悲鳴を聞き、駆けつける権藤太ですが、どうして竈が動いたのか、さっぱり訳がわかりません。
小瀬は全身を火傷し、特に顔は包帯でぐるぐる巻です。
小瀬は、自分の顔の傷を気にしますが、権藤太は医者の指示に従うよう諭します。
が、小瀬は言うことを聞かず、権藤太は、予定より早いものの、顔の包帯を外します。
そこには、火傷跡がケロイドとなった、二目と見られぬ姿。権藤太は震え上がります。
「私を見捨てないでおくれ」という小瀬を見捨て、屋敷より走り去る権藤太。
その足で、酒屋に駆け込み、酒で気持ちを落ち着かせようとしますが、酒を注いだ杯には、死んだ茅原官平の血まみれの顔。そして、気配を感じ、振り向くと、捨てられた小瀬の姿があります。
錯乱し、酒屋の下女を切り殺し、酒屋をとび出したまま、権藤太の行方はわからなくなったのでありました。
一方、飲んべえの段平の家。
段平は先日、無心した金を酒ですっかり使い果たし、お安をまた、官平の家に金を借りてくるよう向かわせます。
さすがにお安には茅原家は敷居が高く、玄関前で躊躇していると、安の名を呼ぶ声がします。
振り向くと、そこに茅原官平の幽霊が立っておりました。
そして、お安に金子を与え、辞世の句を書いた短冊を渡すのでありました。
翌日、市門に国守のお布施が立てられます。
「要知三更時 可開火下水」を解いたものに賞金を与えるというものですが、誰もが首をひねるばかり。
それを見た段平はお安が官平の幽霊からもらった短冊と同じことが書かれていることに気づき、届け出るのでありました。
国守の館に上がった段平とお安は事の次第を説明します。
話を聞き、国守はだんだんとわかりかけてきた、と言います。
実は、前の晩に、官平が頭に井桁をいだき、この句を差し出した夢を、国守は見たのでした。
ここまで来ると、官平の死に疑問がわいてきます。
国守は官平の屋敷を調査のため、三人の役人を向かわせます。
屋敷は無人のようでしたが、庭で倒れ伏せたまま、亡くなっている小瀬が発見されます。
そして、役人達が竈を調べていると、竈の下に井戸がありました。
その井戸の中には、一年前に川に飛び込んで死んだはずの官平の姿が、腐りもせず、あったのでありました。
となると、怪しいのは、行方不明な権藤太。
国守は権藤太を探させますが、権藤太の行方はようとして知れませんでした。
半年後、摂津、枚方の町に権藤太は身を隠していました。
ある日、道端の占い師(冒頭に出たのと同じ人)に、今夜初更までに人を殺めると占われます。
ビクビクしながら、初更間近まで待ってみたものの、結局、そういうこともなく、気晴らしに酒を飲みに出かけます。
と、そこに出会った占い師、「人を殺さなかったぞ」と言い争いになり、ついつい逆上して、占い師を絞殺してしまいます。
慌てて、逃げようとする権藤太ですが、この騒ぎで人が集まり、お縄となってしまうのでした。
手配人として、泉州に権藤太は送られます。
そこで、国守に事の真相を告げるのでした。
権藤太と小瀬は以前より不倫の仲でありまして、官平の財産・地位を奪うために、計画殺人を小瀬と共謀します。
まず、官平を酔わせ寝ているうちに、押入れに隠れていた権藤太が金鎚で官平の頭を叩き割ります。
そして、官平の格好をした権藤太が川まで走って行き、川には石を投げ込み、身投げであるよう見せかけたのでした。
あまりに卑劣な犯行に、国守は激怒、権藤太は釜ゆでの刑となり、「まさに竈にかけられた生魚のようにのたうち、ゆで死んでいったので」ありました。
おしまい」
とにもかくにも、死んだ官平が、火中より竈を持ち上げてくるシーンが最高なのであります!!
「何で竈を持ち上げてんの?」なんて疑問が吹っ飛ぶぐらい、勢いがあって、素晴らしい。
まあ、結局、このインパクトだけのマンガなんですが…。
ちなみに、このマンガには原作となった話があるとは思うのですが、浅学故、確認が取れませんでした。
元の話でも、わざわざ竈を持ち上げているのかどうか謎であります。
平成26年4月下旬 執筆
平成26年4月28日 ページ作成