いばら美喜「捨てばち」(220円)



「渚妙子の場合。
 バスガールを勤める渚妙子の彼氏は、中華料理屋のコックである田代啓二。
 お互いに貧しいながらも、愛を育む二人の仲に暗い影が差す。
 ビルの守衛を勤める、妙子の父が、強盗に殺害されたのだ。妙子の父は目が破裂して、亡くなっていた。
 生活の重荷が一気に妙子の双肩にのしかかり、二人は以前のように会えなくなる。
 二十日後にようやく、妙子は啓二と会うことができるが、その場に現れたのは別の男であった。
 その男は、妙子ともう付き合いたくないという啓二からの伝言を告げる。
 真相を確かめようと、男に従い、喫茶店に向かうが、そこには他の女性と仲睦まじく語り合う啓二の姿があった…。

 田代啓二の場合。
 妙子が生活苦に喘ぐのを尻目に、どうにもしてやることのできない、自身の無力感に苛まされる啓二。
 そんなある日、啓二は、日中の町中、ヤクザのボスが突如、目が飛び出て、即死する場面に遭遇する。
 関わり合いにならないよう急いで、その場から離れるが、ふとしたことからチンピラに絡まれ、ピンチに陥る。
 彼の窮地を救ったのが、サングラスをかけた美しい女性であった。
 女性は立花さゆりという名で、土地を売った金で独り、悠々自適の生活をしていると言う。
 最初はさゆりの孤独に胸打たれた啓二だが、やはりお金持ちというのが最大の魅力、二人は急速に親しくなる。
 そして、ある喫茶店で二人仲睦まじく話し合っていると…。

 立花さゆりの場合。
 モダンな住宅に独りで住むさゆり。孤独を好み、人と交わることのない彼女の過去を知る人はいない。
 また、人と会う時に決してサングラスを外さない、その理由も。
 さゆりは、恋する啓二のために、最後の仕事をする決心をする…。」

 傑作です。
 ネタバレですが、いばら美喜先生の「邪眼」ものの一つであります。
「邪眼」というのは、「その持ち主の目を見たら、見た人間の目が潰れる」というものでして、同じテーマで幾度も描いております。(注1)
 ストーリーは面白いのですが、父を失い、彼氏にも捨てられる渚妙子が、実はストーリーにちっとも絡まず、構成に難ありかも…。(そんな可哀想な妙子さんの絵を上中央の画像でどうぞ。)
 しかし、そんな欠点など、「邪眼でヤクザの一味を一瞬で壊滅」描写で帳消し!!(上右側の画像を参照のこと。)
 この二ページだけでも、この作品は傑作と呼んても構わないと、私は考えております。
 一部のマニアの間でのみ楽しむのは勿体ない作品です。復刻が望まれます。

・注1
 怪奇マンガ・ファンに最も馴染みがあるのは、「悪魔の招待状」(立風書房)でしょうか。
 ラストでは『「邪眼」少女vs悪魔』という、なかなか血沸き肉躍る展開となっております。
 ただ、立風書房の作品は、貸本マンガ時代の作品や東考社の作品に慣れてしまうと、イマイチ物足りなく感じてしまいます。
 やはり「短編」作家だったのではないか…と考えております。

・備考
 ビニールカバー貼り付け。糸綴じあり。pp29・30、35・36、ページに折れあり。pp46・47、何かがひっついて剥げたような、小さい痕あり。巻末に貸本店のスタンプあり。

平成27年10月23日 ページ作成・執筆
 

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