三田京子「怪談十五夜の花嫁」(220円)

「福島県の山中(注1)に住む、養蚕家の息子、秀樹。
 亡くなった父の友人は病院の院長をしており、その娘、春美は彼にベタ惚れしていた。
 息子を医師にしたい母親の思惑もあり、秀樹と春美は半年間の「契約結婚」をする。
 だが、秀樹は彼女に恋愛感情を全く感じず、寝床も別のままであった。
 また、春美は理想的な妻を演じ続けてきたものの、残り一月半となり、焦りを感じる。
 ある満月の夜、飼い猫を探しに出た秀樹は、水車小屋で美しい乙女と出会う。
 琴音という名の娘は、家出してきたような様子であったが、自身のことに関して一切口にしない。
 秀樹に家に招かれ、家で一週間、療養した後、小間使いとして家にいつく。
 収まらないのが、秀樹に執心の春美と、息子を医師にしたい母親。
 二人は結託して、琴音をいびりまくるが、秀樹は彼女をかばう。
 契約結婚の期限を過ぎても、春美は一向に家には戻らず、時は流れる。
 そして、迎えた春、秀樹は琴音が近所の神社に願掛けに出かけていることを知る。
 秀樹は琴音も彼のことを想っていることを知ると、周囲の反対を押し切り、彼女と二人だけで結婚式を挙げる。
 しかし、一層、琴音への風当たりは強くなる。
 また、秀樹と春美の仲への疑いもあり、琴音は秀樹には何も告げずに、家を出る。
 秀樹はひたすら彼女を待つ続け、月日が流れる。
 八月十五日、満月の夜、秀樹は安楽院(ソノママ)を訪ね、琴音の面影を慕う。
 その時、彼の目の前に、琴音が再び姿を現わす…」

 昨日、ご紹介した「怪談泣くな妹よ」でも書きましたが、これまたちっとも「怪談」ではありません。
 一応、ヒロインは神秘的な雰囲気をまとっておりますが、ネタばれいたしますと、父親は「猫の皮を剥いでそれを三味線に貼る」仕事をしており、村の男と結婚するのが嫌で家出した娘というのが、その正体なのです。
 う〜ん、もっと他に設定はなかったものなのでしょうか?(しかも、職業差別をしているような…。)
 というワケで、一応、テーマは「悲恋」であるものの、何を訴えたいのかが判然としない作品となっております。
 とりあえず、後記では、三田京子先生が「契約結婚」(今風に言うと「同棲」?)について厳しく非難しておりますので、この作品の根本には「契約結婚」の対する憤りがあったのでありましょう。
 でも、こういうものは状況や時代、また、人により様々でして、「同棲」にしろ「お見合い」にしろ「出会い系サイト」にしろ、一概に善悪を決めつけることのできるものではないと思います。
 「結婚」というものを神聖視して、絶対的なものと考えるあたり、三田先生の古風かつ潔癖なところが窺えます。(注2)

・注1
 作中に舞台は福島県とは書かれておりませんが、「福島の山口の安楽院」が登場しますので、福島県と判断しました。
 ただし、ネットで調べたら、正しくは「安洞院」(あんとういん)で、作中に出てくる「文字ずり石」も「文知摺石」でした。(注3)
 恐らくは、福島県に旅行か何かで出かけて、それを作品に取り入れたように思います。
 ただ、福島県が養蚕の盛んな地域かどうかが、よくわからないのでありますが…。

・注2
 結婚というものについて考えさせるものとして、ニール・ドナルド・ウォルシュ「神との対話B」(サンマーク出版/1999年6月1日初版発行)の「pp271〜279」を参照のこと。
 この手の本というのは、読んでいるうちは感心するが、読んだ後、ムカムカしてくることが多い。
 原因は、今頃になって、人のすることをあれが正しくない、これが正しくないと、ウダウダぬかしているせいだが、でも、まあ、結局、神様とやら、あんたが正しいんだろうよ。

・注3
 源融「みちのくの しのぶもじずり 誰ゆえに 乱れそめにし われならなくに」の句で有名な悲恋物語を小島剛夕先生が作品化したものがあります。
 「みだれ初めにし」(「怪談・64」収録)
 内容を確認しようと思ったのですが、このメチャクチャ寒い時に、納屋に捜すのが億劫だったので、すんません…。

・備考
 ビニールカバー貼り付け。糸綴じあり。小口周辺、全体的にシミ。後ろの遊び紙に貸出票の貼り付けあり。

2018年1月10日 ページ作成・執筆

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