金田君子「十五年目の赤い夜」(220円)

「美しい湖の見える村に伝わる恐ろしい伝説。
 三百年前、ある娘が恋心を寄せていた美剣士を振り向かせるために、湖の女神に美しくしてもらう。
 が、高慢になった娘は愛を失い、代償として湖の女神に心身共に乗っ取られ、吸血魔となる。
 そして、十五年ごとに村に現れては、人の血を吸うと信じられていた。
 その女神が現れると言われる「赤い夜」、ユリとその父親の住む家の門を叩く女性があった。
 女性は湖を見るために立ち寄り、急に産気づいてしまったのであった。
 ユリが何と言っても、伝説を信じる父親は決して戸を開けようとしない。
 どこの家にも断られ、仕方なく、女性は湖のそばで女児を出産する。
 そこへ血に飢えた女神が現れ、女性に襲いかかる。
 女性は赤ん坊を御守りで保護するが、女神にさらわれてしまうのだった。
 翌朝、湖のほとりで赤ん坊だけが発見される。
 迷信深い村人達は赤ん坊を「赤い夜の使者」の生まれ変わりと思い込み、殺そうとするが、昨夜のことに罪悪感を抱くユリの手で育てられることとなる。
 そのために、ユリと父親は村八分となり、まち子と名付けられた赤ん坊も村人から忌み嫌われる。
 そんなつらい境遇にもめげず、まち子はすくすくと心のまっすぐな、美しい少女に育つ。
 そして十五年、再び「赤い夜」が訪れようとしていた。
 自分の寿命が長くはない、湖の女神は、跡取りにするために、まち子をつけ狙う…」

 金田君子は上原きみ子先生の本名らしいです。(上原きみ子先生のマンガ、全くと言っていいほど、読んでおりません…。)
 このマンガは金田君子先生の数少ない貸本怪奇マンガです。(と言うか、怪奇マンガ自体、ほとんど描いていないように思います。)
 私の知る限りでは、貸本怪奇マンガは二冊ありまして、東京漫画出版社からこのマンガと「まぼろしの館」を出しております。
 んで、この「十五年目の赤い夜」なのですが、こんなこと言ってしまっていいのかどうかためらいがあるのですが、ぶっちゃけますと、「ゲテモノ」怪奇マンガなのであります。
 目を血走らせ、妙な犬歯をはやし、口の端から涎を垂らしながら、ヒロインを襲う湖の女神は、う〜ん………(自粛)です。
 もしかしたら、上原きみ子先生にとっては、触れられたくない過去である可能性もありますので、これ以上、とやかく言うのはやめておきましょう。
 にしても、過去に埋没させるには、惜しい作品であります。
 ただし、読めば読むほど、復刻は無理そうです…。

・備考
 ビニールカバー貼り付け、また、それによる歪みや痛みあり。p12、下のコマの一部、剥げあり。pp42・43、下部に何かが挟まったための剥げあり。pp67・68、上隅に欠損あり(コマにはかからず)。前後の遊び紙、袖に貼り付けたテープ痕あり。後ろの遊び紙、貸出票の剥がし痕に加え、書き込みあり。

金田君子「黒コスモスの花言葉」(220円)

 家の納屋の整理をしておりましたら、ひょっこり出てきましたので、併せて紹介いたします。
 wikipediaによりますと、上原きみ子先生のデビュー作とのことです。
 東京漫画出版社に何冊か描かれておりますが、詳細は少女マンガに詳しい方にお任せいたします。
 とりあえずは、粗筋の紹介です。

「夏、東京から、祖母の住む田舎にやって来た少女、八代千砂子。
 千砂子は、祖母に教えられ、丘の上にあるコスモス屋敷を写生に出かける。
 その際に、軽い日射病にかかった千砂子は、休ませてもらおうと、コスモス屋敷を訪ねる。
 その豪華な屋敷には、森崎水也という青年が一人で住んでいた。
 どこか風変わりな水也に、深い悩みの影を見た千砂子は彼に興味を覚える。
 また、千砂子は彼がコスモスつくりに情熱を燃やしていることも知る。
 彼がつくろうとしているのは「この世のどんな汚れもよせつけないまっ黒なコスモス」(p34)であった。
 明日も屋敷を訪れる約束をして、千砂子は屋敷を辞去するが、帰宅途中、水也のいとこを名乗る少女から、水也に関わらないよう、執拗に言われる。
 だが、祖母から、水也が中学生の頃、相次いで両親を亡くし、学校も中退して、屋敷に閉じこもっていることを聞き、千砂子は再び行くことを決意する。
 翌日、千砂子はコスモス屋敷を訪ねるが、寝室で水也が倒れていた。
 千砂子が看病するうちに、水也は気が付くが、丹精込めてつくっていた黒コスモスを目にすると、その植木鉢を床に投げつけてしまう。
 黒コスモスなんかできっこないと悲嘆に暮れる水也に、千砂子がコスモスが咲く季節がまた来ると励ますものの、水也の絶望は深い。
 遂には、千砂子は「弱虫」と言い捨て、部屋を出る。
 しかし、千砂子には知られていない秘密が水也にはあった…」

 少女マンガに関しましては門外漢なので、何とも言えないのですが、「正統派」なのではないでしょうか?
 読後感は「おセンチ」です。

・備考
 読み癖ひどし。ビニールカバー貼り付け。カバーに「35円」のマジックによる書き込みあり(泣けます…)。糸綴じあり。本文、シミや汚れひどし。前後の遊び紙、貸本店のスタンプ、及び、落書きあり。後ろの遊び紙、貸本店の紙、貼りつけ。

2016年5月31日 ページ作成・執筆
2016年6月9日 加筆訂正
2017年4月5日 加筆訂正

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