望月みさお「死霊の愛」(220円)
「焼津にてあった話。
遠洋漁船の船主、相馬伸介は、血も涙もない守銭奴であった。
船員達を借金で身動き取れないようにして、遠洋漁船でこき使い、巨大な財を成す。
桂木さなえの父親は船長であったが、病気の身であった。
さなえの母親は夫を休ませてくれるよう相馬に頼み込むが、全く相手にされず、船は出港してしまう。
幾日か経ち、ある台風の日、桂木家に誰か訪ねてきた気配がある。
すると、外洋にいるはずの父親が家におり、妻と少しばかり言葉を交わすと、またどこかに消えてしまう。
実は、さなえの父親の乗った船は、マリアナ海域で台風に遭い、沈没してしまったのであった。
強欲な相馬は、船の保険金が出ているにも関わらず、借金のかたに、さなえの父親の保険金のみならず、国からの補償金までも桂木母子から取り上げる。
相馬のあんまりなやり方に、さなえの母親が涙ながらに慈悲を請う。
だが、逆上した相馬に暴力を振るわれ、さなえの母親はあっさり死亡。
母親を死に追いやった負い目から、相馬は屋敷にさなえを引き取る。
だが、相馬の妻も、その娘、美保も、さなえに対しては冷たい。
さなえが一人ぼっちになったことを嘆いていると、彼女の前に、母親の幽霊が現れる。
母親の幽霊は、さなえに強く生きるよう励ますのであった…」
粗筋からして、手垢のついた、ストレートな内容です。
ですが、それだけにとどまらず、「幽霊の母親が、散らかった部屋が片付いた部屋に見える幻覚を見せようとバタバタする描写」といった、妙チクリンな描写が挿入されていたりして、シビアなストーリーとのチグハグ感がなかなかに絶妙です。
そこが読後に「なんか変…」という感想しか残らない理由の一つなのかもしれません。
・備考
ビニールカバー剥がし痕あり。糸綴じがあり。p2、剥がれあり。pp13・14、上部にコマにかかる裂けあり。後ろの遊び紙に貸本店の管理の紙貼り付け。
2017年3月27日 ページ作成・執筆