森由岐子「まぼろし草子」(190円)
「年頃の狸(メス)の、おぽんとおたぬ。
人里に降りて、妙真寺のお堂に忍び込んだところを、寺小姓の吉三郎に見つかってしまう。
寺小姓とは思えない吉三郎の男前っぷりに、おぽんはクラクラ。
そうこうしている間に捕まってしまい、狸汁にされようという時、心根の優しい吉三郎はおぽんを逃がす。
このことがあってから、おぽんは吉三郎に夢中になるのであった。
ある夜、和尚から言いつけられたお遣いの途中、吉三郎は湖のほとりで美しい女性と出会う。
美穂と名乗る女性は、妙真寺に母親の墓があり、通ううちに吉三郎のことを慕うようになったと打ち明ける。
二人して楽しく語らうが、夜明けを迎えた時、美穂は逃げるようにその場を去る。
美穂は吉三郎に鮮烈な印象を残し、彼も美穂を想うようになる。
和尚にまたお遣いを頼まれた夜、湖のほとりで、吉三郎は再び美穂に出会う。
時を忘れて、語り合う二人であったが、夜明けとともに美穂は吉三郎の手を振り切って、立ち去る。
二度も朝帰りをした吉三郎は、和尚に問い質され、美穂のことを全て話す。
が、和尚は美穂のことなど全く心当たりがない。
その地には昔、若者の生気を吸い殺した蛇性の伝説があり、和尚は吉三郎に美穂は蛇の化身ではないかと警告する。
その夜、おぽんは寝床の吉三郎を訪れ、二人はまたも湖のほとりで語らうが、吉三郎は和尚の話が心に引っかかって、楽しめない。
吉三郎は美穂に自らの懸念を打ち明け、朝に会おうと頼む。
身に疑いがかかっているため、仕方なく美穂は吉三郎の頼みを飲む。
しかし、美穂は実際はおぽんという狸、そして、狸は朝日の下では変身ができないのであった。
約束の日の朝、結局、美穂は吉三郎のもとに行くことができず、落胆に沈む彼の後ろ姿を見送りながら、美穂は悲嘆に暮れる。
人間になることを望み、美穂が森の女神に懇願すると、美穂の前に森の女神が現れる。
森の女神は、人間になるためには、27日間、一切の飲食をしてはならないと、おぽんに告げる…」
怪奇色は非常に薄く、ファンタジーなのです。
ファンタジーと言いましても、「指輪物語」「ナルニア国物語」といった感じでなく、昔話や民話に近いです。
だって、主人公は「狸」(メス)ですから。
そのため、根底に泥臭いイメージが付いて回りますが、内容は非常に「ほのぼの」しており、個人的にはこういう雰囲気が大好きです。
また、素朴な絵柄もストーリーと意外にマッチしているように思います。
ただ、後半で出てくる「森の女神」様がいろいろと…味わい深いです…。
ストーリーの半ばには「由岐子のページ」というのもありまして、森由岐子先生のオチャメな一面を垣間見ることができます。(冒頭では、赤いベレー帽をかぶって、登場しております。上右の画像を参照のこと。)
・備考
状態悪し。ビニールカバー貼り付け。表紙のカバーが剥げ、本体カバーに痛み。ひどい落書き多し(前の遊び紙、pp1.3.28.134.135.)。pp41・42、切り取りによる欠損。後ろの遊び紙、ボロボロかつ貸本店のスタンプ、また、貸出票の剥がし痕あり。
2016年5月13日 ページ作成・執筆