三田京子「少女の目はざくろ」(220円)



「高島有三・千春夫妻の間に産まれた赤ん坊、まゆみが何者かに殺害される。
 まゆみはざくろの木の下で頭を叩き割られており、警察の懸命な操作にも関わらず、迷宮入りとなる。
 まゆみを亡くし、嘆く千春に、有三はもらい子を提案し、千春の反対を押し切り、美香という名の赤ん坊をもらって来る。
 最初は拒んでいた千春であったが、赤ん坊の可愛さに育てる決心をする。
 明るく楽しい日々が続き、十三年の時が流れた。
 その間、高島家の屋敷はざくろの木が繁茂し、そのざくろが熟す頃、母親は怪異に度々見舞われる。
 美香の眼がざくろのように赤く見えたり、また、その頭がざくろのようにばっくり裂けているように見えたりする。
 また、ざくろの実が弾ける時、死んだまゆみの泣き声が聞こえたりする。
 大嫌いなざくろの木を切ろうとしても、鉈を叩き込む度に、まゆみの泣き声が聞こえ、どうしても果たすことができない。
 追い詰められた千春は、美香が自分の秘密を知っているのではないかと訝り、美香の殺害と企む。
 一方の美香は、母親の様子がおかしいことから、母親が何かを隠しているのではないかと考えるようになる。
 そんな二人の姿を傍から眺めて、一人ほくそ笑む有三。
 そして、母親の恐ろしい所業が明かされる時が来る…」

 三田京子先生と言えば、そのスジでは「聖女もなりざ」や「緑の月に怯える乙女」といった社会派な作品の人気が高いようです。(個人の感想です。)
 が、私としては、初期の妙チクリンなスリラーが最も好みでして、その中で個人的ベストがこの作品であります。
 推測ですが、池川伸治先生や松下哲也先生のアシスタントをしていたため、当初は、この二人の影響を受けた「スリラー」を描いていたように思います。
 とは言え、三田京子先生の個性は、池川・松下両先生の影響を霞ませるほど、強烈でありまして、この作品でもやっぱり「美少年」が出てきますし、内容は「摩訶不思議」ですし、後記では「説教」を垂れております。
 内容が「摩訶不思議」と述べましたが、どう説明したらいいのか言葉が見つかりません。
 強いて形容するならば、当時のマンガの中では珍しく、女性特有(?)の暗い情念が籠っておりまして、その情念に登場人物達が振り回される様が妙にスラップスティックな印象があるのです。
 テーマは重く暗いのに、どこかドタバタしている「チグハグ」感が、オーバーアクションな描写と相まって、当時の他の貸本マンガに較べて、異色さが際立っているように思います。
 更に、この作品ではひどく陰惨な描写がところどころ挿入され、「チグハグ」感に拍車をかけております。(どんな感じかは下の画像を参照のこと。)



 あと、後記では北海道での飢饉による口べらしについて触れ、
「たとえ獣でも母親というものは自分は死んでも子供にはひもじい思いをさせないものなのです。
 そういう恐ろしい母親は人間として生きていく資格が無いと思います。」
 と(アツく)書いております。
 このマンガが描かれて半世紀…相変わらず、子殺しのニュースが定期的に流れ、それに対して、衝撃も驚きもなくなってしまった現代…四年後には二度目の東京オリンピックを控えておりますが、人類とやらの「魂」はどれほど進化したというのでしょうかね?

・備考
 ビニールカバー剥がし痕あり、また、それによるカバー痛み・歪み。糸綴じあり。読み癖あり。後ろの遊び紙に、貸出票の剥がし痕とスタンプ、本の所有者の名前の記入あり。

2016年11月9日 ページ作成・執筆


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