谷ゆきお「死体あげます」(220円)

「斧田実は狡賢い青年。
 ろくに働きもせず、米屋を受け継ぐ、愚鈍な兄にたかったり、だましたりして、小金をせしめる毎日。
 このたびも、義姉に、百円玉をひり出す犬を一万円で売りつけることに成功。
 だまし続けるために、犬の尻に硬貨を捩じ込もうと(セコ〜)、夜中、弟の家に塀を越えて侵入しようとしたところを、通りがかりの人に見つかる。
 実を泥棒と間違えた(まあ、似たようなものだが…)男ともみ合ううちに、実はその男性を殴り殺してしまう。
 とりあえず、自分の家に死体を運び、どうするか考えているところに、騙されたと知った義姉が家に殴りこんでくる。
 腹いせに家の中をメチャクチャにしたところで、義姉は死体を発見。
 その場にうまく姿を現した実は、死体を義姉のせいにして、焦った義姉は実にどうにかしてと頼み込む。
 まずは、考える時間を稼ぐために、実と弟は、死体を米俵に押し込み、米屋の倉庫に隠すことにする。
 が、うっかり者の弟が、死体の詰まった米俵をお客に配達してしまう。
 その配達先は、悪徳議員として評判の悪い原松のところであった。
 実はその米俵を回収するべく、米の品質調査官を装って、原松の屋敷を訪れる。
 実の読み通り、米俵から死体が出て、原松は大慌て。
 警察沙汰になって、これ以上、スキャンダルの火種を増やさないように、原松は実に大金を渡し、極秘に死体を処理するように依頼する。
 実は死体に病人の格好をさせ、リヤカーに乗せて、運び出す。
 夜更け、飲み屋の前に、死体を乗せたリヤカーを置きっぱなしにして、チャンスを待つ。
 酔っ払いが死体に話しかけ、死体がひっくり返った時、実は飛び出して、死因を酔っ払いのせいにして、酔っ払いに死体を押し付ける。
 これで厄介払いができたと思ったのも束の間、実の兄が見知らぬ人から預かったカバンから例の死体が転がり出てくるのであった。
 仕方なく自分の家の天井裏に死体を隠すのだが…」

 貸本漫画全盛時、「奇想」炸裂のマンガを多数描いた、池川伸治先生と並ぶ奇才、谷ゆきお先生。
 この作品はタイトルから想像つくように、アルフレッド・ヒッチコック「ハリーの災難」(1955年)が元ネタのようです。
 しかし、それだけでは終わらせません。
 どうも、ヒッチコックの映画に、日本の昔話を絡めた節があります。
 柳田国男「日本の昔話」(注1)収録の「旦九郎と田九郎」「分別八十八」(pp158〜161)に類似した部分がありまして、ストーリーをつくる際に参考にしたように思います。
 「旦九郎と田九郎」には「金ひり馬」が出てきますし、「分別八十八」は「死体」をめぐってえっちらおっちらする話(面白い!!)です。(注2)
 また、この作品のラストは「二十三夜」という話とそっくりです。(注3)
 「分別八十八」の方がこの作品の手触りに似ていますので、もしかすると、谷ゆきお先生は「ハリーの災難」を観ていなかった可能性もありますが、このブラック・ユーモアの充溢した雰囲気はやはり影響ありと推測します。(ただし、観たのは、今から20年も前の話ですので、私の勘違いかもしれません。)
 ヒッチコックの映画と日本の昔話をごちゃ混ぜにしたものに、「悪徳議員」「殺し屋(「オペラ座の怪人」風)」「不倫」といった要素を振りかけて、「現代怪談」に仕立て上げた、この作品…はっきり言って、ヘンです。ほとほとヘンです。
 その代わりに、今現在読んでも、「新鮮」です!!
 あの時代に「死体」を扱った、ブラック・ユーモア風のマンガを描いたって、実は先駆的だったとか?…より詳しい方の検証を待つばかりであります。

・注1
 私が持っているのは「新潮文庫/昭和五十八年六月二十五日 発行・平成十八年三月三十日 三十九刷」の本。
 谷ゆきお先生がどの出版社の本を持っていたのかは不明です。
 ちなみに、「日本の昔話」、なかなか面白いです。私でも読んで、理解できました。(そりゃあ、昔話だから…。)
 個人的に最も怖かったのは「水蜘蛛」の話です。1ページほどの単純な話ですが、背筋が冷たくなりました。

・注2
 落語にも、死体を扱った「らくだ」がありました。
 落語好きであった故・星新一先生も「死体ばんざい」という、バカバカしさ満載の短編があります。
 この作品が収録されている、豊田有恒・編「ユーモアSF傑作選」(集英社/コバルト文庫/昭和52年8月20日第一刷発行・昭和56年4月15日第11刷発行)には、同じ「死体」テーマの作品として、これまたいい塩梅でバカバカしい、かんべむさし先生の「通夜旅行」も収録されております。
 ただ、どちらも「SF」ではないなあ…。

・注3
 「二十三夜」は、武田明・編著「続日本笑話集」(教養文庫/1982年9月30日発行)に収録。
 ストーリーは、二十三夜からの帰り、馬から自分の影を見ると、自分の首がない。そこへ白装束の老人が現れ、「家に帰ったら、一番大切なものを殺す」よう告げる。男にとって一番大切なのは馬であったが、帰宅後、妻の姿を見ると、妻が一番大切だと思い、妻を弓で射殺そうとする。だが、矢は妻に当たらず、後ろの長持に当たると、中から悲鳴が上がる。長持の中には間男の死体があり、妻は間男と共謀して、男を殺そうとしていたのであった…というもの。
 また、「分別八十八」は「死人を持ちまわった話」のタイトルで収録されております。

・備考
 カバー痛み、背表紙下部あたり、裏にセロテープによる補修あり。本に反りがあり、ベッコンベッコンする。読み癖あり(大きな痛みはないものの、シミ・汚れ・切れ・折れはたくさんあり)。前の遊び紙、痛み。pp132〜pp136、それから、遊び紙にかけて、セロテープの変色が染みて、ページの奥が、細長く茶色になっている。後ろの遊び紙、ボロボロかつ貸出票の剥がし痕あり。

2016年1月25・27日 ページ作成・執筆
2018年6月5日 加筆訂正

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