池上りょう一「白い液体」(1967年頃/220円)



 収録作品

・池上りょう一「白い液体」(1967年1月に完成)
「受験勉強に飽き飽きして、一人旅に出かけた青年。
 彼は当てもなく「はぬけびと」という駅で降りる。
 駅員が一人いただけで、荒涼とした町には人っ子一人見当たらない。
 ようやく見つけた宿には部屋が一つ、しかも、先客がいて、一年前から逗留しているという。
 その客は一日中、布団の中で、目には意思というものが全く窺えない。
 それは客だけでなく、宿の老夫婦も同様だった。
 彼らは、どこからか流れてくる白い液体だけを飲んで、生きているのだが…」

・池上りょう一「髪」
「若禿げに楽しい青春を打ち砕かれた男。
 彼は製薬会社に勤め、毛生え薬の研究に没頭する。
 遂に、男の悲願が叶う時が来るが…」

・滝田ゆう「宝石」
「あるデパートに新人の夜警が入ってくる。
 ズレたところのある新人に、ベテラン夜警は困惑するばかり。
 そこへ緊急の電話が入り、ベテラン夜警のうちの一人が帰宅してしまう。
 新人とベテランの夜警は二人きりでデパートを見回ることになるのだが、ベテランの夜警にはある思惑があった…」
 滝田ゆう「おこつ狂騒曲」に再録されております。

・つげ忠男「むし」
「ある不動産会社に勤める青年。
 青年は祖父と二人暮し。その祖父は130歳にもなるという。
 青年は祖父を恐れているらしく、段々と様子のおかしくなっていく。
 彼を心配して、同僚は青年の家に食事をしに訪れるのだが…」

 最初に一言、表紙が素晴らしい!!
 恐らく、いばら美喜先生によるものだと思います。(違ってたら、ごめんなさい…。)
 いばら美喜先生は貸本の表紙をいくつも描いておりますが、ベストワークの一つです。
 見れば見るほど、惚れ惚れとする表紙です。

 んで、本題です。
「新鋭シリーズA」と銘打って、池上遼一先生(「池上りょう一」名義)、滝田ゆう先生、つげ忠男先生の作品が収録されております。
 う〜ん、豪華と言うよりも、激渋な面子であります。
 目玉は、何と言っても、初期の池上遼一先生の作品でありましょう。
 池上遼一先生は、過去、水木しげる先生のアシスタントをしていたらしく、この作品でも脇役や背景が非常に似通っております。
 初期の池上遼一キャラが「水木しげる」ワールドをうろうろする様は、現在の作品からは絶対に見出すことのできない「泥臭さ」を醸し出して、ギャップの大きさに身悶えしてしまいます。
 また、「髪」に出てくる男ではどう見ても、「墓場の鬼太郎」に出てくる妖怪「夜叉」でありまして、元・自称妖怪博士だったオヤジには心を打つものがあります。
 水木しげる先生が池上遼一先生に与えた影響ってどんなものなんでしょうかね。

 と、池上遼一先生ばかりヨイショしましたが、滝田ゆう先生とつげ忠男先生の作品も悪くはありません。
 どちらも不条理なブラック・コメディーといった感じですが、つげ忠男先生の「むし」はどことなく薄気味悪い話であります。
 130歳も生きて「化物じみ」た老人を描いたこの作品、最後の最後まで内容はよくわかりません。
 が、ヘタウマな絵と、異様な雰囲気が妙にマッチして、「奇妙な味」と呼ぶに相応しい作品であります。
 個人的には、この作品がこの単行本でのベストです。

・備考
 カバー表紙の隅、カバー裏表紙、カバー裏表紙の折り返し等、剥げあり。カバー折り返しと見返しにビニールテープの跡、表にも裏にもあり。ビニールカバー貼り付けでないのはいいけど、表紙に幾つも擦り傷、引っかき傷あり。(いばら美喜先生の表紙が…)

2015年6月30日・7月1日 ページ作成・執筆
2019年4月26日 加筆訂正

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