「怪談・100」(1968年2月頃と推測/300円)



 収録作品

・浜慎二「人間蒸発」
「東京都内とは思えないほど、静かな場所にある住宅。
 それはある不動産屋の持ち物だったが、住人の原因不明の失踪が連続して起こる。
 不動産屋の社員は、家賃を安くして、どんどん人を入れて、敷金と権利金で一儲けしようと不動産屋に入れ知恵する。
 その思惑通り、住人は「失踪」していく。
 だが、不動産屋の社員がその住宅を訪れた時に、「失踪」の原因を知るのだった…」
 菊地秀行氏・編「貸本怪奇まんが傑作選 妖の巻」(立風書房)にて復刻。
 個人的には、ホラー映画「家」(米/1976年/原題「Burnt Offerings」)を連想しました。
 菊地秀行氏はオスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」云々と書いていましたが、私、ワイルド「ドリアン・グレイの肖像」を未読なのです…。

・小島剛夕「炎上」
「二十代以上も続く、古い家柄。
 慶応四年(1868年)、大政奉還がなされ、明治時代も目前な頃。
 家長となった長男は、家名を重んじ、弟が幕府側につく事にあくまでも反対する。
 忠義のためと、五稜郭の戦いに行くという弟を、兄は勘当。
 このことがきっかけとなり、家門の名の下に何百年と蓄積された歪(ひずみ)が噴出するのだった…」
 「怪談・59」からの再録。

・いばら美喜「くたびれ儲け」
「二人組の男が、帰宅途中の看守を拳銃で脅して、拘束する。
 彼らは、死刑執行を目前とした、ギャングのボスの子分たちであった。
 看守から、ボスの死刑が明日であることを聞きだし、子分たちはボスの脱獄作戦を実行に移す。
 子分たちは、十日かけて、ボスが収監されている部屋の下まで、トンネルを掘っていたのであった。
 脱走作戦は成功し、看守も射殺して、ギャング達は逃亡する。
 しかし、予想以上に早く手が回り、切羽詰まった彼らの前に一人の男が現れる…」
 ぶっとんだ話を、最後のコマのセリフでさらりとまとめるのは、いばら美喜先生の得意技ですが、この作品も非常に上手いです!!
 粗筋だけを読んだら、単にヘンな話にしか感じないでしょうが、マンガで読むと、妙な感心をしてしまうぐらい、うまくまとまっております。
 でも、やっぱりヘンな話なんですがね…今だったら、ブラックなギャグマンガとしても充分、通用するかもしれません。そのくらい、幅のある作品であります。
 「怪談・42」からの再録であります。

・池川伸治「餓鬼」
「公園で遊んでいた少年が、突如、男に襲われ、食い殺される。そして、その男も、女性に襲われ、骨と成り果てる。その女性も…」
 文字通り『弱肉強食』をマンガにした短編。
 カニバリズム描写が炸裂しております。スプラッター映画のブームより遥かに前の作品であるにも関わらず、かなり残虐であります。
 でも、テーマは「愛」。
 20ページ程度の作品なので、冗漫なところがなく、池川伸治先生の精髄を知ることができます。

・古賀しんさく「ついに殺った」
「やくざから足を洗い、ふるさとに帰って来た青年。
 彼は、年老いた母の面倒を見ながら、荒れた畑や枯れかけた梨の木の世話に精を出す。
 そんなある日、家の裏に、見知らぬ老人が倒れていた。
 彼は老人を家で介抱するが、自分の身の上は一切語ろうとしない。
 ただ、自分には莫大な財産があり、死んだ時には、それを譲ろうと言う。
 堅気になった青年だが、莫大な遺産に目が眩んでしまい、畑仕事はおろそかになって、老人の死を待つようになる。
 しかし、ちっとも死にそうもないことにしびれを切らし、老人の食事に毎日少しずつ農薬をもるのだが…」
 タイトルでは、拳銃を片手に格好つけてますが、マンガの中では畑仕事ばかりやっておりまして……うん、ヘンな話です。
 元ネタは、ヘンリイ・スレッサー「親切なウェイトレス」(「ヒッチコック劇場」にて映像化された)でしょうが、アレンジ具合によって、他に似たものを挙げようのない、古賀新一ワールドになっております。
 「怪談・47」からの再録であります。

・古谷あきら「坊やと殺し屋」
「博打で人生崖っぷちの男。
 彼は、とある男から、殺しの依頼を持ちかけられる。
 金のために、殺人をするのだが、ひょんなことから、子供が彼に付いて来てしまう。
 殺人犯かつ誘拐犯として追われる身となった男は、子供と共に逃亡するが、徐々に子供に情が移っていき…」
 怪奇マンガではなく、どちらかと言えば、サスペンスに近いでしょう。
 このタイプの話は結構見かけるのですが、元話はなんなんでしょうかね?

・楳図かずお「深山(みやま)ざくら」
「吹雪の中、多勢の追っ手に追われる、若き武士。
 彼は雪山の奥深くへと入り込み、そこで力尽きる。
 だが、美しい娘に介抱されて、一命をとりとめる。
 彼は娘を見るなり、その美しさに目を瞠る(みは・る)。
 娘は、自分の美しさを愛でてくれる人を何百年も待っていた、と話す。
 そして、追手の迫ってきた彼に、女性は武士に桜の枝を一本手渡し、逃げるよう勧める。
 娘は、武士の着物をまとい、身代わりとなるのだが…」
 「怪談・72」からの再録です。(タイトル表紙をご覧になりたい方はそちらへどうぞ。)
 非常に美しい、幻想譚であります。
 楳図かずお先生は「特別参加」となっております。もし、楳図かずお先生が、ひばり書房でもっと活動されていたら、怪奇マンガの歴史は若干違ったものとなっていたかもしれません。
 ただ、当時のひばり書房には、小島剛夕先生がおられましたので、「両雄並び立たず」ということなのでありましょうか。

 つばめ出版(実は、ひばり書房)の大ヒット・シリーズ「怪談」の100号記念である本作は、執筆陣・内容ともに豪華です。
 看板作家であった、小島剛夕・浜慎二・いばら美喜・古賀しんさく・池川伸治(敬称略)に加え、楳図かずおの作品も収録されていて、かなり読み応えがあります。
 ただ、古谷あきら先生だけが古色蒼然とした絵柄で、ちと浮いておりますのが、残念というか、気の毒というか…。

2014年8月11日・15日 ページ作成・執筆
2016年8月16日 加筆訂正
2018年5月23日 加筆訂正
2020年4月8日 加筆訂正
2021年5月12日 加筆訂正

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