「怪談・53」(170円)
収録作品
・浜慎二「野望」
「成功するために、犯罪を繰り返す男とその弟分。
男の方は自分の野望のためには手段を問わないが、弟分の方は他人を思いやって、被害者を気の毒がり、最後にはかばい立てするという有様。
ある夜、裕福そうな家に押し入ったところ、家の子供をかばい、弟分は被弾、死んでしまう。
その夜から、男に弟分の幽霊がつきまとい、男に優しい人になってくれと諭し続けるのだった…」
オチの利いた、ブラックユーモア風な佳作。
浜慎二先生の短編の凄さは、構成に無駄なところがほとんど感じられないところ。
この完成度は現在でも十分に通用します。
「オール怪談・79」にて再録。
・小島剛夕「恋ヶ窪」
「治承四年(1180年)、武蔵野原の中の紫窪という宿場。
畠山次郎重忠と、知己の熊谷の住人次郎直実は、源頼朝の本陣に向かう途中、紫窪で一泊した。
次郎直実は、そこの女郎宿で、今は水汲み女に身を落とした千依姫(ちよりひめ)と再会する。
千依姫とは相思相愛の仲であったものの、敵同士であった故、その親を討ち滅ぼしてしまったのだった。
今や賤しめの女と逃げようとする千依姫を次郎直実は、落ちぶれようとも清く美しいままと心情を打ち明ける。
出立(しゅったつ)の時まで共にいようとするものの、千依姫には水汲みの仕事があった。
しかも、その日に限り、山際の滴り水が少なく、水が溜まる間に、次郎直実は出発してしまう…」
冒頭、作家らしいのが出てきますが、これって国木田独歩(くにきだどっぽ)ですか?
ちなみに、国木田独歩「武蔵野」(1898年)を一読しましたところ、このような話は載っておりませんでした。(注1)
それにいたしましても、参考のために見ていた日本文学史年表に出ていた、山田美妙「武蔵野」(1887年)ってどんなものなのでしょうか?
文学史に残る名作である樋口一葉「たけくらべ」や幸田露伴「五重塔」がちんぷんかんぷんな私ごときが読んでも、歯が立たないとは思いますが…。
・北風三平「少年」
「とある自動車会社に勤める平凡な青年。
ライバルの自動車会社が新車を発売するというので、上層部は設計書を盗み出す計画を立てる。
青年はライバル社の警備員をしていたという理由で抜擢されるが、うわべの理由はライバル会社が汚職を働いているので、その証拠を手に入れるために刑事とともに忍び込むというものだった。
青年は偽刑事と共にライバル社に忍び込むが、偽刑事の目にだけ少年の姿が見える。
その少年は、青年が近所で親しくしていた、病弱な少年だった…。」
・落合二郎&サツキ貫太「天国と地獄」
「とある暴力団の二代目は、若大将と呼ばれるが、暴力沙汰の大嫌いなひ弱な坊ちゃん。
若大将は組を解散して、皆をカタギにしようとしていた。
それに我慢がならないのが、組でナンバーワンのケン。
ケンは部下に唆され、若大将を射殺する。
が、組に帰った時、ケンの目の前に、幽霊となった若大将の姿があった…。」
唐沢俊一氏・編『カルトホラー漫画秘宝館 みみずの巻』に復刻されております。興味ある方はどうぞ。
・注1
個人的な感想ですが、「武蔵野」は退屈でした。
が、「置土産」という10ページ足らずの短編は非常に心に染み入りました。
あれほど、心に余韻を響かせる小説を私は久々に読んだ気がします。私には「生きた」作品でありました。
・備考
カバー貼り付け。つじ糸あり。背表紙下部小破れ。
平成26年9月26・29日 ページ作成・執筆
平成26年12月16日 訂正及び推敲