「怪談・62」(190円)



 収録作品

・浜慎二「北へ行った男」
「北海道の稚内(わっかない)。  15年前に失踪した映画スター三上哲也を、かつて映画スタッフだった日暮が尋ねてくる。
 三上哲也は、船着き場の倉庫同然の所に住んでおり、そこに住んでいた絵描きの老人が手紙をよこしたのであった。
 日暮は三上哲也に面会しようとするが、三上哲也はドアを決して開けようとはしない。
 ドア越しに日暮は失踪の理由を問いただすと、プロダクションの社長が起こした殺人事件を目撃して、命を狙われたためだと答える。
 日暮は、今雑誌の編集長をしていると話し、社長の過去の犯罪を暴くために、三上哲也に証言を求める。
 そして、夜の十時に波止場でじかに会う約束を取り付けるのだが…」
 「怪談・99」にて再録。
 菊地秀行氏・編「貸本怪奇まんが傑作選 怪の巻」(立風書房)にて復刻されております。

・「二人静」
「承安四年(1174年)晩秋。
 鞍馬山から奥州平泉に向かう義経が、三河の国矢作(やはぎ)の里に差しかかった時の話。
 馬上の義経は、寺から流れる、妙なる琴の音を耳にする。
 その琴に合わせて、義経は笛を吹くが、琴を弾いていた姫は音についていこうとして、琴の糸が切れてしまう。
 弾けて飛んでいった琴柱(ことじ)を取りに姫が表に出ると、そこで義経と出会う。
 言葉も交わさずに姫はその場を去るが、矢作の長者、兼高の館で義経と再開する。
 姫は、矢作の里の長者、兼高の娘、浄瑠璃というものであった。
 酒宴の最中、酔い覚ましに河原をそぞろ歩いていた義経は、川辺に佇む浄瑠璃に出会う。
 義経は浄瑠璃に拾った琴柱をもらってもよいかと尋ね、お互いが「奇しき縁(えにし)」で結ばれたと浄瑠璃に語る。
 翌日、義経は源氏復興のために心を後に残しながらも、旅立つ。
 浄瑠璃は義経を想いを心に抱いたまま、彼の帰還を待つ。
 しかし、平家全盛の世、源氏の嫡流に想いを寄せるなど、もっての外。
 姫は乳母と家を出て、鳳来山の奥深くの粗末な草庵で暮らすようになる。
 浄瑠璃は義経の思慕だけを頼りに、幾年も待ち続ける。
 十年経ち、寿永二年、平家の権勢は衰え、源氏の世が到来しようとする頃…」
 小島剛夕「怪談真珠の墓」にて再録。タイトル・ページをご覧になりたい方はそちらへどうぞ。

・サツキ貫太「母さん幽霊」
「子供の頃に、両親を亡くした次郎。
 飲んだくれの叔父に引き取られるものの、放置され、ボロ同然の身なりで、他の子にもバカにされてばかり。
 そんなある日、夕方、腹をすかして、一人でさまよう次郎はある女性と出会う。
 その女性は夫と子供を亡くしており、次郎を自分の家に案内すると、心ゆくまで御馳走し、一緒に歌を歌って過ごす。
 次郎はその女性を母親と思い、安らかな眠りにつく。
 しかし、翌朝、その屋敷は幽霊屋敷であり、その女性が幽霊であることを次郎は知る。
 その夜、女性の幽霊が次郎のアパートを訪ねてくるが、次郎は憑り殺されると怯え、「ゆうれいの母さんなんていらない」と追い返してしまう。
 女性の幽霊はすすり泣きながら、立ち去り、以来、次郎の前に現れることはなかった。
 時は流れ、成人した次郎は、太平洋戦争で兵役に就く。
 そして、地獄のようなビルマ前線で彼が生死の境をさまよっている時、目の前に女性の幽霊が再び現れる…」
 タイトルの絵を一目見て、何かつまらなそうと皆さん、お思いになるかもしれません。
 私も、恥ずかしながら、侮っておりました。
 んで、読んだら、泣けます…こいつぁ、(私だけかもしれませんが)かなり泣けます…。
(壺井栄「母のない子と子のない母と」の影響があるのかもしれませんが、未読なので、不明です。)
 小島剛夕先生、浜慎二先生、古賀新一(しんさく)先生といった綺羅星のような先生方を差し置いて、こういうことを書くのは何ですが、この本の中で一番心に響いた作品です。

・古賀しんさく「ノイローゼ」
「三度も火事に遭い、アパート暮らしになった兄弟。
 そのために兄は火事を常軌を逸した恐怖を抱くようになる。
 ある日、兄が彼らが田舎の両親のもとで撮った写真を見ると、田舎の家に火が燃えていた。
 弟には何の変哲もない写真であったが、兄は日が経つごとに火が広がっていると話す。
 遂に、兄はアパートをとび出し、田舎の両親のもとに向かう。
 そのうちに、弟に兄が大火傷を負ったという連絡が弟のもとに届く。
 入院している兄は、家は全焼し、両親は焼死したと弟に告げるが、田舎の家が火事になったという記事は新聞に載ってなく、どうも話がおかしい。
 弟は真偽を確かめるために、田舎の両親のもとを訪ねるのだが…」

・備考
 背表紙若干色褪せ。糸綴じの穴あり。小口とカバーの袖、巻末、後ろの遊び紙に貸本店のスタンプ。p2(目次のページ)、目立つ汚れあり。浜作品、目立つシミ多し。

2016年8月17日 ページ作成・執筆

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