フクイタクミ「僕と悪夢とおねえさん@」(2020年5月1日初版発行)

 七瀬慎は小学五年生の男の子(10歳)。
 彼の住む泰祭町はどこにでもあるようなありふれた普通の町。
 ただ、この町では、人が心のうちに「魔」を宿した時、奇妙かつ無惨、奇怪でありながらも美しい奇跡の起こる場所であった。
 彼が発作を起こし、「夢」を見る時、その「魔」が現実世界に姿を現わす…。

・「第一話 グリフォンの孤高」(「月刊チャンピオンRED」2019年5月号)
「美樹(17歳)は高校二年生の少女。
 彼女は慎の母親の友人の娘で、今年から慎の家庭教師をしていた。
 美樹は非常に包容力のある優しい娘であったが、唯一、「バカな人間」には激しい敵意を抱いていた。
 彼女の夢は将来偉くなって、バカな人間をこの世から消すこと。
 ある日、慎は美樹が三人の女子高生に取り囲まれているのを目にする。
 彼女たちは廃工場へと入り、慎もその後をつける。
 その三人は中学校時代に美樹をいじめていた連中であった。
 彼女たちは慎に美樹の惨めな姿をさらすのだが…」

・「第二話 蠅の女王」(「月刊チャンピオンRED」2019年6月号)
「慎が空き地で一人サッカーをしていると、若い女性から声をかけられる。
 彼女は空き地の横のアパートに住む女子大生で、名前は沙名といった。
 彼女は慎にお菓子をくれ、以来、彼は彼女からお菓子をもらってはベランダ越しに話をするようになる。
 ある日、彼女は彼を部屋に招き、手作りのクッキーを食べさせてくれる。
 それを慎のクラスメートが見ており、彼女の部屋は慎のクラスメートたちのたまり場となる。
 沙名は彼らを食べきれないほどのお菓子で迎え、彼らは遠慮せずたらふく食べる。
 慎は彼らの態度に罪悪感を抱くが、沙名はちっとも気にしていない。
 それどころか、彼女は慎が食事をする姿を見るのを切望していた。
 彼は沙名に異常なものを感じ、それ以来、彼女の部屋に行かなくなる。
 ある日、彼は通りで沙名と偶然に出会う。
 彼女はひどくやつれており、心配した慎はおむすびを持って、彼女の部屋に行くのだが…」

・「第三話 狐の抱擁」(「月刊チャンピオンRED」2019年7月号)
「慎は貧血気味で、体育の時間はしばしば気分が悪くなり、保健室に運ばれる。
 保険医の戸井春紀は優しく、皆に好かれていた。
 彼女は慎の身体が弱いことに同情し、彼に特別な薬を飲ませてくれる。
 この薬を飲むと、元気になるとのことで、毎日、飲みに来るよう言われる。
 ただし、内緒にするよう釘を刺されていた。
 彼は毎日、保健室に行くが、担任の天馬八色は訝しく思う。
 ある日、慎は春紀にその薬が本物かどうか尋ねるのだが…」

・「第四話 プライドの獣」(「月刊チャンピオンRED」2019年8月号)
「慎は体力づくりのため、近所の公園のジョギングコースで毎朝、走ることにする。
 ジョギングコースにはいろいろな人が走っていたが、とりわけ、目立つのは柚衣(ゆい)という娘であった。
 彼女はここでの「支配者(ボス)」で、人が彼女を抜くことを絶対に許さない。
 しかし、このジョギングコースに柚衣のことを知らない女性ランナーが現れる。
 柚衣は敵意剥き出しにいて追うが、彼女はイヤホンで音楽を聴きながらランニングを楽しんでいて、柚衣の存在に全く気付かず…」

・「第五話 怠惰の輪廻」(「月刊チャンピオンRED」2019年9月号)
「ある日曜日、慎は発表会の宿題をするため、クラスの女子たちと共に瑞乃の家を訪れる。
 瑞乃は成績優秀、かつ、いろいろな才能にも恵まれた娘で、慎にひそかな想いを寄せていた。
 彼らが宿題をしている最中、慎はトイレに行く。
 すると、瑞乃の姉の陽乃が彼を自分の部屋に誘う。
 クローゼットの中で陽乃は自分が如何に「ダメな子」で、瑞乃が「自慢の妹」だと話す。
 彼女の理想は瑞乃だというのだが…」

・「第六話 夢魔の楽園」(「月刊チャンピオンRED」2019年11月号)
「夏休み、慎は母親の提案により一人旅をしてみる。
 彼は海の近くの親戚の家を訪ね、真保(22歳)と会う。
 真保は慎が生まれた時から、彼のことを非常に可愛がっていた。
 翌朝、慎と真保は海に出かける。
 真保は相変わらずメルヘンチックな性格であったが、朝の散歩の際、海でのゴミ拾いを欠かさず続けていた。
 彼女は「きれいな海」を願い、そして、「誰もいない平和な島で暮らすこと」を夢見る。
 しかし、現実は残酷で、地元の連中は彼女をバカにし、海にゴミを捨てる。
 その夜…」

・「第七話 眠れる森の、美女」(「月刊チャンピオンRED」2019年12月号)
「慎たち五年生は市の外れにある山へ遠足に出かける。
 自由時間、慎が弁当を食べる場所を探していると、森の中から助けを求める女性の声が聞こえる。
 彼は森の中へと入っていくが、ふと自分が迷ってしまったことに気付く。
 その時、面妖な服装の女性が彼の前に現れる。
 女性は慎の聞いた声は「この山で殺された悲しい魂たちの声」で、自分にはそういう声を聴く力があると話す。
 実は、この山には登山客を狙う殺人鬼の噂があり…」

 ダーク・ファンタジーの傑作です。
 「魔」は神話やメルヘンの怪物や動物の形を取るのですが、これの解説が実に含蓄に富み、これが最大の魅力だと私は思っております。
 また、「魔」は「人間の弱さ」と表裏一体で、いくら怪物となっても、「弱さ」「虚しさ」からは逃れられないところもいろいろと考えさせられます。
 個人的なベストは「夢魔の楽園」。爽やかな読後感が素晴らしいです。
 こんな駄文でも興味を持たれた方は読まれて絶対に損はありません…が、作者は女性の巨乳&豊満な肉体にこだわっているようなので、フェティッシュな描写が苦手な方は注意されてください。

2024年11月26日 ページ作成・執筆

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