フクイタクミ「僕と悪夢とおねえさんA」(2021年3月25日初版発行)
七瀬慎は小学五年生の男の子(10歳)。
彼の住む泰祭町はどこにでもあるようなありふれた普通の町。
ただ、この町では、人が心のうちに「魔」を宿した時、奇妙かつ無惨、奇怪でありながらも美しい奇跡の起こる場所であった。
彼が発作を起こし、「夢」を見る時、その「魔」が現実世界に姿を現わす…。
・「第八話 小鬼の円舞曲」
「真鈴は慎が小学一年生の頃に小学六年生で、よく彼の面倒見てくれた。
中学に入る前に彼女は引っ越すも、高校進学を機にこの町に戻ってくる。
彼女は小学生高学年の女の子を引き連れ、彼女たちのボスであった。
慎は真鈴のグループと面識を持ち、入るよう誘われるが、どことなく気が進まない。
ある日、彼は真鈴が駄菓子屋でお菓子を万引きするのを目撃する。
真鈴たちのグループは万引きしたものを持ち寄っているようであった。
夜の公園で慎は真鈴に万引きをやめ、他の子にも禁じるようお願いするのだが…」
・「第九話 遠吠えの夜」
「夜中、慎が寒さで目を覚ますと、外では雪が降っていた。
雪の積もった夜道を一人の女性が「ペロ太」という犬を探しながら歩いている。
次の夜もまた彼女は犬を探しており、慎は彼女に犬を探す手伝いを申し出る。
彼女は浦川律香(19歳)という名であった。
以来、二人は毎夜、犬を探して歩く。
だが、いつまで経ってもペロ太は見つからず、慎は探し犬のポスターを作るのだが…」
・「第十話 本の少年」
「小学校の図書館。
司書の女性は慎という少年が気になる。
彼はいつも黒い本を胸に抱いており、図書館に来ると、その本を脇に置き、別の本を読む。
司書の女性が興味を持って黒い本について尋ねると、どうやらお守り代わりであるらしい。
ある時、彼女はその本を見せてもらうのだが…」
・「第十一話 3月のウサギ」
「慎は風邪をひいて寝込む。
母親はパートに出て、彼の看病のために母のバイト仲間である碧(19歳の専門学生)がやって来る。
碧はガングロの軽薄そうなギャルであった。
だが、彼女は親身になって慎の世話を焼く。
放課後、瑞乃が慎の家を訪れ、碧と慎を巡って火花を散らす。
実は、碧にとって慎は将来を決めてくれた人で…」
・「第十二話 人形の巣」
「慎のクラスでは社会科の校外学習で町の地図作成をする。
その最中、彼らは立派な洋館の近くに来る。
この洋館の窓には人形がびっしりと並べられていた。
噂によると、ここには魔女が住んでおり、魔女は人間を人形に変えてしまうと言う。
放課後、慎は、クラスメートたちが屋敷の前で騒いだことを謝るため、洋館を訪れる。
洋館には宝子(21歳)という引きこもりの娘が一人で暮らしていた。(吉岡という通いの家政婦さんあり)
宝子が慎に自分の手作りの人形を見せると、彼は素直に感心する。
それがたまらなく嬉しくて、宝子が人形をあれこれ見せているうちに、慎は居眠りを始める。
彼女は彼を「外の世界」から守るため、自分の「人形」にしようとするのだが…」
・「第十三話 机上の支配者 〜前編〜」
「篠崎朝実(24歳/独身)は小学校の図書館の司書。
彼女は子供たちに本の魅力を伝えるという夢を持っていたが、現実は落胆の連続であった。
仕事を辞めようと思った時、彼女は慎と出会う。
慎は彼女が中高生の時から書いていた自作小説(中二病炸裂のファンタジー)の主人公とそっくりであった。
彼女は自分の描いた物語や願望が現実世界に写し出されたと感じ、慎と毎日会うことが彼女にとって「新しい物語」となる。
ただ、そのためには、「脇役(モブ)」が邪魔であった。
彼女は図書館から生徒たちを排除し、慎と二人きりになるよう図るのだが…」
・「第十四話 机上の支配者 〜後編〜」
「篠崎朝実が学校を休んで三日目、図書館はすっかり荒れていた。
そこに私服の朝実が突然、現れる。
彼女はやつれ、手には自作小説「闇の姫と光の勇者」を持っていた。
彼女は慎にこの小説を読むよう勧めるが、ある男子生徒がノートをひったくり、勝手に読む。
男子生徒は小説の幼稚さにあきれ、その場にいた生徒たちは大笑いする。
朝実は激怒し、ノートを返すよう怒鳴るが、その時…」
・「第十五話 虚ろの慈愛」
「六年生の丘浜愛奈は小学生とは思えない「肝っ玉母さん」ぶりであった。
その大きな体で悪ガキどもも彼女に逆らえず、皆から「おかーさん」と頼られる。
だが、ある日、彼女が「お母さんキャラ」に疲れていることを慎は知る。
翌日、悪ガキたちは愛奈を苦手な蛇のおもちゃで脅し、掃除用具入れに慎と共に閉じ込める。
彼女はショックで失禁し、悪ガキどもはそれをはやし立てる。
愛奈が本音を吐き出した時…」
・「最終話 木漏れ日の家族 〜前編〜」
「慎は宗谷サリィに突然、友達になってくれるよう頼まれる。
彼女は一か月前、このクラスに転入してきたが、クラスメートとは全くと言っていいほど、関係を築こうとしなかった。
その日、慎は彼女の家に招待される。
彼女の家はアメリカ風で、家族はダディ、マミィのカレン、グランマ、それにサリィの四人。
この家族は父親が理想とする「美しき家族」という映画に出てくる家族を模していた。
彼は映画の家族を再現して幸せになることが夢であったが…」
・「最終話 木漏れ日の家族 〜後編〜」
「父親は慎を理想を毒する害虫と罵り、暴力を振るおうとする。
カレンは身を挺して彼をかばい、サリィも父親を止めようとする。
慎は祖母にダディを止めるよう頼むのだが…。
この狂った一家の行く末は…?」
・「エピローグ」
「慎は黒い本がまた厚くなっていることに気付く。
学校に出かける慎の後姿を見つめながら、母親は十年前の「契約」について回想する。
黒い本の正体とは…?」
(「月刊チャンピオンRED」2020年1月号〜2021年2月号)
残念ながら、最終巻です。
でも、後書きにてフクイタクミ先生は「念願の怪奇漫画」をやりたいように描いて「ただただ楽しい連載」だったと述べておりますので、とりあえずはオーライです。
作者の才気は衰えることなく、最後まで持続し、最終話の「木漏れ日の家族」はダークなサイコ・ホラーでキメてくれます。
んで、気が付けば、七瀬慎少年はすっかりハーレム状態(女性は皆、爆乳)で、収拾がつかなくなる前に終わって、まあ、良かったのかも。
最後に、もしも機会がありましたなら、フクイタクミ先生にはまた怪奇漫画に挑戦していただけると、心より嬉しく思います。
2024年11月27日 ページ作成・執筆