小山田いく「あの悪魔」(1996年9月1日初版発行)

 収録作品

・「大年の客」(1996年「サスペリア」2月号)
「12月31日。 
 萌黄(もえぎ)は、田舎の祖父母の家を一人で訪れる。
 一面、雪景色の中、昔話に出てくるような六地蔵があったりして、彼女は大はしゃぎ。
 十年ぶりに会う祖父母も彼女を温かく迎えてくれて、素敵な大晦日を迎えていた。
 そこに、一人の男が、一晩泊めてくれるよう、頼みに来る。
 彼は隣町に行く途中、車が故障してしまったと話す。
 萌黄は、男を不審に思うも、この地方には「大年(大晦日)の客」という言い伝えがあり、無下に断ることもできない。
 その夜、萌黄はラジオで社長一家殺人事件のニュースを聞き、犯人の特徴がその男にことごとく一致する。
 彼女は祖父母が心配になり、様子を見に行くと…」

・「あの悪魔」(1996年「サスペリア」6月号)
「つぐみは、交通事故を目の当たりにして以来、元気がない。
 親友の朝子が理由を聞くと、つぐみは、交通事故の際に流れ出た血を見て、子供の頃の思い出がよみがえったと打ち明ける。
 彼女が小学二年生の時、隣のアパートに、優しい、タロットカード専門の占い師の青年が住んでいた。
 ある日、つぐみは、いつも遊んでいた野良犬が殺され、嘆き悲しむ。
 占い師の青年は子犬を埋め、彼女についた血を洗おうと、橋の下へと連れて行く。
 すると、橋下の陰で、青年は、奇怪な悪魔へと変化し、怯えた彼女は、悪魔に傘を突き刺したのであった。
 以来、青年の姿を彼女は見ることはなく、両親に聞いても、そんなことはなかったと言う。
 彼女は実際にあったことではなく、夢だったと思おうとするが、交通事故を目撃してから、その悪魔の夢に悩まされるようになる。
 朝子は、つぐみのために、その青年について調べると、つぐみの話したことは実際にあった出来事であった。
 しかも、その青年はまだ生きているというのだが…」

・「幽かな花」(1996年「サスペリア」5月号)
「倉坂朋と畑日名子は、ハイキングコースから外れ、遭難する。
 二人が雨宿りするところを探していると、目の前に一面のお花畑が広がる場所に出る。
 その花を監視する老人、花邑に二人は助けられるが、この花はトコヨネムという希少植物であった。
 一般には知られず、この地域にしか自生していない花で、雨の夜でも花を開くという奇妙な習性がある。
 花邑老人によると、その習性の理由は「この世の花」ではないからで、この花と関わって怪死した人は多いらしい。
 その夜、朋と日名子は、山小屋を訪ねていた沢井理沙という女性から、花邑老人について聞かされる。
 彼は記憶喪失で、町の人が、花邑という名前と、トコヨネムを保護する仕事を与えたのだという。
 以来、彼にとっては、トコヨネムが全てなのであった。
 その話を聞いた後、朋と日名子は寝床に入るのだが…」

・「妖雨つづり」(1996年「サスペリア」7月号)
「梅雨の日の放課後。
 少女達は、雨に関連した怪談話を次々と語る。
 雨の日、南校舎にある階段の踊り場から下を覗き込んではいけない話。
 雨の日に轢き逃げされた少年の復讐の話。
 男にふられ、雨の中、嘆き悲しんでいた女性が出会った「雨女」の話。
 そして…」

・「約束の死」(1996年「サスペリア」4月号)
「亜紀は、教室の窓拭きの際、転落し、一時呼吸も止まるが、奇跡的に蘇生する。
 これをきっかけに、想いを寄せていた井沢とも接近するが、あることが彼女に影を落とす。
 彼女が死んでいた間、人を殺す夢を見たのだが、その人物が実際に死んでいくのであった。
 彼女が夢の中で殺したのは三人。
 二人ほど殺せなかったのだが、それは、見知らぬ中年女性と井沢であった。
 亜紀は、夢の中の自分が、井沢を殺すのではないかと危惧するのだが…」

 青春漫画で知られる(けど、全く読んでない…)ベテラン、故・小山田いく先生は、1990年代には、活動の場を徐々にホラー漫画にシフトさせていきます。
 絵柄はホラー漫画とあまり相性はよくないと思いますが、そこはベテラン、きっちりとした内容と、青春漫画で培った繊細さで、独自の作品を生み出していきました。
 「あの悪魔」の単行本は、「サスペリア」での掲載作品を集めたものですが、時代柄でしょうか、大胆なグロ描写がスパークしております。
 恐らく、青春漫画しか知らない人が読んだら、あまりのギャップにひっくり返るでしょう。
 新ジャンルでいろいろと試行錯誤されていた小山田先生の苦労と、それでも良質な作品を作りだそうとした誠実さを作品から私は感じます。

2020年7月10日 ページ作成・執筆

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