好美のぼる「死神の血しぶき」(1986年9月20日初版発行)

「花田京子と曾祖母と大の仲良し。
 学校から帰ってから、京子は曾祖母に新聞を読むのが日課であったが、最近、中学生の自殺の記事が多い。
 京子が心を痛めていると、曾祖母は、それは死神の仕業と指摘する。
 死神は曾祖母のもとに何度も訪れていたが、曾祖母が頑固なため、あの世に連れて行けず、そのうちに、仲良くなったのであった。
 曾祖母は京子に、死神にとり憑かれた人物の見分け方を教える。
 その方法とは、ビール瓶のカケラでその人を覗くと、自殺方法によって、身体の部位に、かげろうらしきものが見えるのであった。(首吊りだったら首に、焼身自殺だったら全身に、といった具合)
 早速、京子は、この方法で、死神に狙われた生徒達を見抜き、曾祖母の指示を仰いでは、彼らの自殺を思いとどまらせる。
 だが、仕事の邪魔をされた死神は京子に狙いを定め、まだ若い彼女の精神を痛めつけようとする…」

 ホラー・コミックスでの描きおろし単行本の中では、かなり面白い部類に入るのではないでしょうか。
 内容的には「死神との対決」を扱っており、そこまで新奇なものではありませんが、この作品の死神、とにもかくにも、セコ過ぎ!
 登場人物の老婆には「体も心も定まらぬ子どもしかねらわぬ あんたは死神の中でも最低の死神」(p108)と罵られる始末で、実際、言行はチンピラもどきです。
 でも、ヒロインを、失恋の痛手につけ込んで、自殺に追い込もうとするシーンは、器の小ささが逆に、新鮮でした。(めちゃくちゃ嫌らしいです。)
 ラストは、そんな小物の死神と、92歳の老婆の直接対決で、盛り上がるのかと思いきや、実にあっさりしており、ここをもうちょっと練り込んだら、傑作になったのでは…と残念です。
 あと、この作品の根底には、若者の自殺に対する、作者のやりきれなさがあるように思います。
 若者や老人といった弱者しか狙わない死神に、現代社会を重ね合わせていたのかもしれません。(注1)

・注1
 私の個人的な印象ですが、若者を「食い物」にできなくなったために、今度は外国人を「食い物」にしようとしている気がします。
 でも、いくら搾取して富を築いても、あの世に持っていけるのは、薄汚い魂だけだよ。
 魂に付いた汚れを落とすのは、マクベス夫人の比ではなかろうね。

2019年9月29日 ページ作成・執筆

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