古賀新一「エコエコアザラクR」
(1979年7月20日初版・1981年7月20日4版発行)
・「鏡よ鏡」
「ある夜、ミサが出会った中年男性。
彼は、資産家で、妻子にも恵まれているにも関わらず、信用できるのは、部屋の鏡に映る自分だけ。
ある日、彼の部屋が荒らされ、金庫から大金が持ち去られる。
妻子を疑うも、彼の部屋には鍵がかかっており、彼以外に出入りはできない。
不安で夜も眠れずにいたところ、今度は金庫から有り金全てが消えていた。
彼は妻子をとっちめようとするが…」
・「また工事中です」
「二十年ぶりに東京を訪れた男。
彼には、ある秘密があった。
彼が東京で働き始めた二十年前、初めて給料をもらった夜、彼は酒をたくさん飲む。
酔って帰宅する途中、夜間工事の騒音に腹を立て、近くにいた工事作業員を棒で滅多打ちにして、死なせてしまったのであった。
男は現場から逃走し、更に、目撃者はおらず、事件は迷宮入り。
しかし、どうにも気になって、犯行現場に戻るのだが…」
・「チャボの墓」
「ミサは空き地の草むらでチャボを見つける。
家で飼おうとするも、チャボにとっては草むらが一番落ち着く場所のよう。
それでも、ミサは、チャボのために、家の門の前に、エサを出しておく。
そのうち、チャボは、門のところで卵を孵そうとするのだが…」
・「霊が呼んでいる」
「新堀という青年は、ミサの父親(名前は臣夫)の紹介で、貿易会社に勤めることになる。
早速、塩川エミ子という社員と共に、銀行に金を引き出しに行くことになるが、その帰り、煙草を吸った新堀はめまいがして、昏倒。
目を覚ますと、金は消え、塩川エミ子は水死体となっていた。
このままでは自分が疑われると、彼はその場から逃げる。
飲み屋でヤケ酒を煽っている時、彼は黒井ミサと出会う。
どうも、犯人は、銀行に出かける前、彼に煙草をせびった中井という男らしいのだが…」
・「追われる獅子舞」
「正月の情緒ある風習の一つ、獅子舞を復活させようと頑張る男。
しかし、どこに行っても、興味を示さないばかりか、不審者扱い。
更に、獅子舞に乗じて、泥棒をしているという疑いまでかけられ、警察に連行される。
翌日、町に再び獅子舞が現れるのだが…」
・「ものいう人形」
「落目は売れない漫画家。
無口なおとなしい彼に、ミサは、腹話術の人形を渡す。
この人形を使って、彼は心の内をどんどんぶちまけて、気分は爽快。
ある夜、彼は人形に、今まで誰にも打ち明けなかった秘密を明かす。
彼が子供の頃、近所の女の子と洞穴に入ったことがあった。
奥まで行った時、落盤が起き、少女は穴の奥に閉じ込められる。
だが、彼はそれを誰にも言わず、少女を見殺しにしてしまう。
彼の話を聞き、人形が彼に放った言葉とは…?」
・「幻の客人」
「怪奇小説家の笠妖作(りゅう・ようさく)はスランプに苦しんでいた。
もともと陰湿な質で、妻子からも敬遠されていたが、ある夜を境に、明るく陽気になる。
その理由は、彼が、公園のトイレで、彼のファンを名乗る人物と出会い、すっかり意気投合したからであった。
彼の家には毎晩、その人物が訪問し、妖作は彼と飲み明かす。
しかし、彼以外に、その人物の姿は見えず…」
・「強欲の代償」
「免許を取ったばかりのミサの父親は、交通事故を起こし、被害者の左腕に大怪我を負わしてしまう。
働けなくなった代わりに、多額の賠償金を払っただけでなく、ミサは魔法手術で、彼の左腕を別の人物のものと取り換えようと申し出る。
その腕の提供を申し出たのは、交通事故で両足が不自由になった青年であった。
彼は、腕の代わりに、田舎の祖母を養ってくれるよう条件を出す。
一方、事故の被害者は実は当たり屋で、腕の怪我も大したことはなかった。
彼は、もっと金を要求しようと、魔法手術を渋るのだが…」
・「雪ふる夜の終電車」
「雪の降る夜。
ミサが駆け込んだ最終電車は恐ろしく、人気がない。
人がいる車両に移るも、乗客たちは皆、人生に疲れ、物憂げであった。
暗い雰囲気に耐えきれず、どんどん車両を移ると、中学生の少年に出会う。
彼は、最終電車で行方不明になった弟を捜しているらしいのだが…」
・「人くい一族」(1972年「別冊少年チャンピオン」夏季号掲載)
「正巳の父親は、海外旅行で、神殿の彫刻を持ち帰る。
その彫刻はサイズの割に、恐ろしく精密にできていた。
詳しいことはわからないが、人くい一族がいまだ存在すると言われているダイデス諸島で発見されたという。
父親はその彫刻に夢中になり、日がな一日、部屋に閉じこもり、その彫刻を飽かず見つめる。
ある時、正巳は、父親が身体中に包帯を巻いていることに気付く。
正巳はあの彫刻が気になり、父親の部屋に忍び込むが、あの彫刻が大きくなっていた…」
ちょびっと考察。
・「ものいう人形」→腹話術の人形がテーマの作品は多いので、これと断定はできませんが、アンソニー・ホプキンス主演「マジック」の影響があるかも…?
・「強欲の代償」→古賀しんさく・名義「憎悪」(「オール怪談・39」)がベース。
怪奇マンガの世界でのトップクラスの漫画家の方々(水木しげる先生、楳図かずお先生、諸星大二郎先生、日野日出志先生、伊藤潤二先生、永井豪先生、山岸凉子先生、美内すずえ先生、etc...)は、常人には想像もつかない、圧倒的な「ビジョン」の持ち主であると、私は考えております。
ですが、同じく、怪奇マンガの第一人者である古賀新一先生には(残念ながら)それは当てはまらないでしょう。
と書くと、低く見ているようですが、ちょっと待ってください、違います!!
古賀新一先生は「天才」でありました…ただし、天賦の想像力に恵まれた「天才」ではなく、徹底して努力型の「天才」であったと。
古賀新一先生は漫画家になるため、並々ならぬ苦労をし、漫画家になった後は、怪奇漫画にかじりついて生きてきました。
怪奇マンガを描くため、それに関することはどんなものでも取り入れ、作品として形作ろうと申吟し続けてきました。
そして、その血の滴るような努力の集大成が「エコエコアザラク」であります。
また、ここには、古賀先生が受けた影響が(黒井ミサの影に隠れてはおりますが)生々しく刻まれ、怪奇マンガの歴史に触れることも可能だと私は思います。
単なる「オカルト」「黒魔術」の漫画というだけでなく、もっと大きな視点から「エコエコアザラク」が語られ、研究されるべきではないでしょうか。
2021年5月20日・6月22日 ページ作成・執筆