小山田いく「空っぽの命」(1998年6月15日初版発行)
収録作品
・「宝石箱」(1998年「サスペリア」3月号)
「新潟に住む八代園(やしろ・その)と直之は恋人同士。
直之は一年前、父親の仕事の都合で四国に引っ越すが、遠距離でも二人の仲は続いていた。
冬のある日、宝石箱のオルゴールが突然に鳴り出す。
その宝石箱は、直之が引っ越しの時にくれたプレゼントであった。
虫の知らせを感じ、園が直之に電話をすると、彼は三日前から行方不明と聞かされる。
更に、宝石箱の裏蓋の鏡に、時計台のある建物の風景が映る。
園は直之の行方を突き止めるために、四国へ向かい、時計台のある風景を捜す。
ようやくその風景に辿り着いたものの、園を待っていたのは、残酷な結果であった。
更に、宝石箱の鏡が、行方不明者の居所を映し出すと周囲に知られてしまい…」
・「夏の終わり」(1997年「サスペリア」10月号)
「秋の海。
波打ち際で、一人の娘が回想に浸る。
彼女はこの夏、この海で溺れた。
溺死者の霊のせいなのか、それとも、幻だったのかわからないが、とりあえず、彼女は助かる。
そして、もう二度と来ないつもりだったのに、何か大事なことを忘れているような気がして、また海に来た。
浜辺には溺死者の霊が集まっており、沖から亡者舟が現れる。
亡者舟は、秋の終わりに出て来て、その年に海で死んだ亡者を海に連れて行くという、土地の言い伝えがあった。
彼女は民宿の主人に助けられ、一晩、そこで過ごすことになるが…」
・「十年地獄」(1997年「サスペリア」12月号)
「妙子は家庭でも学校でも地獄の日々であった。
彼女は自殺を決意し、バスで山奥に向かう。
夜、偶然見つけた山小屋に入ると、そこには彼女と同じ年代の娘が先客としていた。
彼女も、妙子と同じ、自殺志望者で、家庭環境も似て、また、泥酔して凍死という自殺方法まで一緒。
すっかり意気投合したところで、先客の娘は妙子に「十年鬼」という悪鬼について話す。
これは「哀しみに満ちた魂が大好物で、人に取り憑いて不幸を呼び込んで…十年のうちに自殺に追い込んで その魂を食べる」らしいのだが…」
・「幻の舞う道」(1998年「サスペリア」2月号)
「七海と郁子は中学校以来の付き合いで、高校・短大・勤め先までずっと一緒。
頼りない郁子を、しっかり者の七海がサポートするという仲であった。
スキーからの帰り道、林道を近道したところ、途中で車が故障する。
道なりに行けば、何とかなると、二人は歩き始めるが、雪降る中で、迷ってしまう。
幻覚に襲われながら、二人はお互いへの本音を吐露し合うのだが…」
・「落葉の下」(1997年「サスペリア」11月号)
「小学生の円子は枯葉が苦手であった。
と言うのも、幼い頃、枯葉の下に、気味の悪い目を見たためであった。
彼女がこの話をクラスメートにして以来、クラスメート達が次々と枯葉の積もった道で何かに襲われる。
この噂はクラスに広がり、担任の女教師は、道の落葉を掃除しようとするのだが…。
円子が見た「何か怖いもの」の秘密とは…?」
・「空っぽの命」
「高校二年のみどりは、父親の仕事の都合で、兄貴夫婦の家に同居する。
仲の良かった兄が結婚し、更に子供ができたことで、みどりは孤独を深め、家にあまり帰らなくなる。
ある時、一人夜の町をさまよっていると、奇妙なおっさんが話しかけてくる。
彼は「人は自分を必要とする場所を必要とするものだ」、そして、「おまえを必要とするものが待っ」ているから、早く帰るよう言う。
みどりが帰宅すると、彼女宛てに、送り主不明の荷物が届いていた。
荷物の中には、精密な人体部品の模型が大量に入っていて、組み立てると、五歳ぐらいの女の子になるらしい。
彼女は夢中になって模型を組み立て、人間に近づいて行くにつれ、愛情がわき、「若葉」と名付ける。
しかし、妊娠中の義姉に妙なトラブルが起きるようになり…」
巧みなストーリー・テリングで読ませる作品ばかりですが、「幻の舞う道」と「空っぽの命」が白眉でしょう。
「幻の舞う道」は、雪山で遭難者が見る幻覚の描写がなかなかに冴えてます。現実と幻覚との境目がはっきりしないところの見せ方も上手いと思います。
「空っぽの命」は、奇想炸裂の傑作でしょう。不気味なオチも切れ味鋭く、余韻を残します。
怪奇マンガ好きには、充分にお勧めできる内容です。
2020年12月3日 ページ作成・執筆