山田ミネコ「金の波 銀の魚」(1986年6月25日初版・1987年2月28日第4版発行)

 収録作品

・「山神日記」(「ふふふの闇」のスピンオフ作品)
「黄金丸は長生族という古い種族の人間であったが、長生きで物知りのため、山神として崇められていた。
 ある日、彼はカレンダーを見て、親友の影小路紫期音麿(かげこうじしきねまろ)の誕生日だと気づく。
 早速、横浜に向かい、買い物を済ませてから、紫期音麿の下宿先を訪れる。
 そこで、紫期音麿の他、兄で役の行者の小角、鬼丸大介、二人の娘が集まり、誕生パーティーが開かれる。
 だが、小角が大食感のため…」

・「金の波 銀の魚」
「1984年。イギリス。
 パメラは破産宣告を受けた直後に、両親を事故で亡くす。
 引き取ってくれる親戚はおらず、スコットランドの貿易商から住み込みの家庭教師の話があったため、それを受ける。
 貿易商の名はアネロエスタで、その名を冠した島に住んでいた。
 彼女を車で迎えに来た青年はデヴィディ・ヴィクター・サニー・アネロエスタという名で、当主の息子であった。
 当主には他にも子供がおり、姉のメーゲ、双子のブリックとアリル、末っ子はクー・ホランの計五人。
 彼らの母親はいつの間にかいなくなったらしく、小さな子供達は、母親と同じく長髪のパメラを母親のように慕う。
   だが、当主は彼女を「イフェ」と呼び、攻撃的な態度をとる。
 ある日、パメラと子供達が海岸で遊んでいると、クー・ホランが海に落ちる。
 パメラが助けようとすると、海の中から幾人ものマーメイドが現れる。
 マーメイド達もパメラをイフェと呼ぶが、イフェは彼女達の妹であった。
 パメラは子供達の母親について調べるうちに、アルバムで彼女の写真を見る。
 イフェはパメラとそっくりであった。
 イフェは殺されたのであろうか…?
 そして、島に閉じ込められたパメラの運命は…?」

・「ヒーヴァー小人」
「魔の山の地下に住む小人族と人間の間に生まれた、美しくも残酷な魔物、ヒーヴァー小人(ブラウニー)。
 月の夜に、彼の姿を見た娘は一目で彼に恋をする。
 しかし、彼に惹かれた娘達は皆、山の地下の冷たい牢獄へと連れ去られる。
 そこで娘達に語られる話とは…?」

・「幽霊達の季節」
「ある夜、戸羽という青年が少女の幽霊と出会う。
 彼女は、一年半前、もうすぐ高校生となろうという時にトラックに轢き逃げされ、遺体は川に投げ込まれたのであった。
 彼女にはやりたいことがたくさんあり、また、加害者がいまだに罰を受けていないことが未練となり、成仏できない。
 だが、それ以上に悲しいのは、事故現場にずっといたのに、誰にも気づいてもらえないことであった。
 彼女の話を聞いて、戸羽は涙を流す。
 実は、彼もずっと孤独であった。
 彼は中学生の時に、川べりで花をつんでいた女の子を押して、川に突き落として以来、ずっと罪の意識に苛まされていた。
 その殺人は別に殺意があったわけでなく、彼自身にもどうしてそういうことをしたのかわからない。
 しかし、その出来事はずっと彼の人生に影を落としていた。
 二人がそんな話をしていると、少女の幽霊が自分をはねた軽トラを見つける。
 二人がその持ち主の男性のところに行くと…。
 彼が、そして、少女が救われる時は来るのであろうか…?」

・「うさぎ高原日記」
 山田ミネコ先生の身辺についてのエッセイ・コミック。

・「どんどん橋渡れ」
「市川螢は気弱な小学生の女の子。
 今日も村瀬という男児にいじめられ、理科室の掃除当番を押し付けられる。
 一人ぼっちで帰宅中、向こうから近藤三四郎という青年が歩いてくる。
 彼は最近、引っ越したばかりで、虎山荘の場所を聞き、螢は彼を案内する。
 だが、二人が向かった先には、三四郎の言う通り、あるはずのない橋がかかっていた。
 しかも、橋には大きな竜がおり、二人は橋をむりやり渡らされる。
 実は、この橋は「心に悩みを持った者」にしか見えない橋であった。
 橋の向こうの広場では魑魅魍魎や動物達が集まって、夏祭りで大賑わい。
 そして、祭りのメインイベントは森を治める大王の一人娘による踊り。
 この踊りは心の悩みが一時消えて、幸せな気分になれるという。
 しかし、お姫さまが北の鬼にさらわれてしまい…」

・「舟形の石」
「深夜。
 ゆずるという青年が家に向かって歩いていた。
 彼の家の近くの原っぱには大きな石が舟形に並んでいたが、その石に着物姿の女の子が座っている。
 少女に話を聞くと、母のところに帰りたいが、川があって帰れないと話す。
 ふと見ると、いつの間にか町の中に川が流れていた。
 少女の家は川の向こうで、見える灯りは父親が少女のために炊いている火だという。
 そして、母親が泣いているのは、少女が死んだからであった。
 まさか放っておくわけにもいかず、ゆずるは少女を背負って、家に連れ帰るのだが…」

 山田ミネコ先生の幻想的な作品を集めた単行本です。
 と言っても、基本は甘めの「ファンタジー」で、作者の資質のせいか、「ホラー」の要素があっても、全く怖くはありません。
 個人的なベストは人魚を扱った「金の波 銀の魚」、幻想的な幽霊譚「舟形の石」です。

2023年3月3・4・8日 ページ作成・執筆

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