木々津克久
「ヘレンesp@」(2009年1月20日初版発行)
「ヘレンespA」(2010年8月20日初版発行)
ヘレン・高原・ラ=グィードは五年前の交通事故で両親を亡くし、自身も視覚・聴覚・言葉を失う。
退院後、彼女は父方の叔父(高橋俊也)に引き取られ、丘の上の家で暮らす。
また、子供の頃にむらった犬のヴィクターは彼女のパートナーで、テレパシーで意思疎通をすることができた。
彼女が遭遇する、不思議な事件の数々とは…。
・「第1話 ヘレンのesp」(単行本@/「週刊少年チャンピオン」2007年26号)
「ある日、叔父が取り寄せたドイツ製の骨振動スピーカー。
このショックでヘレンは寝込むが、夜中、彼女を呼ぶ声で目を覚ます。
彼女はヴィクターと共に外出し、声のする方に向かうと、そこは病院であった。
病院で奇妙な服を着た女がヘレンを出迎え、主人と呼ぶ男性のもとに案内する。
女は人の命を吸って生きており、自分が生きているとご主人様が死ぬので、自分を殺すようヘレンに頼む。
ヘレンが戸惑うと、女はヘレンも親の命を喰って生きていると指摘する。
女の正体は…?」
・「第2話 ヘレンの日常」(単行本@/「週刊少年チャンピオン」2007年27号)
「午後二時に市民会館で開かれるハンディキャップを持つ人たちとの懇親会。
ヘレンは三回参加するが、一つだけ気になることがある。
エレベーターを使うと、彼女以外に乗客はいないのに四階で一度止まるのであった。
帰る時、彼女は四階でエレベーターの外に出てみる。
すると、廊下の向こうから何ものかが近づいてきていた。
四階でエレベーターを乗り降りしているものの正体は…?」
・「第3話 ヘレンの映画鑑賞」(単行本@/「週刊少年チャンピオン」2007年28号)
「映像を点字へと変換する新製品。
と言っても、対応ソフトが少なく、子供向けのアニメばっかりだが、それでもヘレンは大感激。
その夜、ヘレンは奇妙な夢を見る。
夢の中では老人が彼女に背中を向け、アニメの悪口を言いながら、絵コンテをしきりに燃やしていた。
また、アニメを観ている最中でも、同じ光景が彼女の脳裏に流れる。
そのアニメの監督は昔は巨匠と言われたものの、後年は作品が荒れ、今は行方不明になっていた。
彼女は自分の脳の中でその監督と会うのだが…」
・「第4話 ヘレンと魔王」(単行本@/「週刊少年チャンピオン」2007年29号)
「ヘレンの住む町で『魔王』と呼ばれる野良犬がいた。
この町では過去にドッグレースで町おこしを図り、『魔王』はそのチャンピオンであった。
しかし、ドッグレースは結局、成功せず、ほとんどの犬は保健所送りになる中、『魔王』だけは人間の手を逃れ、生き延びる。
犬の間では伝説的な存在であったが、最近、『魔王』は他の犬のテリトリーを荒らし、人間から食べ物を奪うようになる。
ある日、ヘレンは『魔王』に呼ばれ、彼からメッセージを受けるのだが…」
・「第5話 ヘレンの旅」(単行本@/「週刊少年チャンピオン」2007年30号)
「ある日、ヘレンは手紙付きの風船を受け取り、自分も同じように手紙付きの風船を飛ばす。
と言っても、ヘリウムガスを手に入れることはできなかったので、黒いビニール袋を利用する。
ところが、叔父は風船が電線やアンテナに引っかかる可能性があると、風船の回収に出かける。
ヘレンとヴィクターも叔父の車に同乗し、風船を追うが、なかなか追いつけない。
そのうちに、彼らは奇妙な場所に迷い込み…」
・「第6話 ヘレンとライオン」(単行本@/「週刊少年チャンピオン」2008年45号)
「ヘレンと叔父は閉園間近の祭山動物園を訪れる。
檻の中にはほとんど動物はおらず、いても少数だけ。
だが、ヘレンは空っぽの檻の中にライオンの気配を感じる。
彼女がそのライオンとテレパシーで会話をすると…。
ライオンの望みとは…?」
・「第7話 ヘレン、学校へ行く」(単行本@/「週刊少年チャンピオン」2008年46号)
「叔父の判断で、ヘレンは私立不二学園に編入する。
クラスメートたちは三重苦のヘレンとどう接していいかわからず、遠巻きに眺めるばかり。
その中で小栗操という女子生徒がヘレンとコミュニケートを試みると…」
・「第8話 ヘレンの花畑」(単行本@/「週刊少年チャンピオン」2008年47号)
「ヘレンの家の敷地には花畑がある。
彼女は花が大好きで、丹精込めて世話をしていた。
ある時、ヘレンとヴィクターはチューリップの中に妖精の姿を見る。
この妖精はオリンピアという名で、「チューリップの女王にしてその象徴」であった。
ヘレンはオリンピアに指図され、ますます甲斐甲斐しくチューリップを世話をする。
だが、台風が町にやって来て…」
・「第9話 ヘレンと人形」(単行本@/「週刊少年チャンピオン」2008年48号)
「学校の昼食時、ヘレンは小栗操から人形の話を聞く(正確には、掌に字を書いて教えてもらう)。
この人形は美術教師の持田がコンテストに出すために作ったもので、ハンス・ベルメール風の女の人形であった。
ヘレンと操はそれを見に行き、ヘレンは人形に触ってみる。
その時、持田がその場に現れ、二人は追い出されるが、ヘレンは人形のある感情に気付いていた。
その夜、ヘレンは胸騒ぎを感じ、夜の学校へ向かうが…」
・「巻末オマケ漫画」(単行本@/描きおろし)
「学校への登校途中、ヘレンは「見なれない生物」を見つける。
お昼のパンをあげると、お腹を空かしていたのか、生物はバリバリ食べる。
その日の晩、ヘレンをフランケン・ふらんが訪ねてくる。
あの生物はふらんの友人であった。
ふらんはヘレンの願いを何でも一つ叶えると言うのだが…」
・「第10話 ヘレンの電話番号」(単行本A/「週刊少年チャンピオン」2009年4+5号)
「叔父のもとにかかってくる老婦人からの電話。
彼女は夫の三回忌の際、寂しさのあまり、連れ合いの命日と年齢、記念日の数字を混ぜた電話番号にかけたところ、叔父につながったのが二人の関係の始まりであった。
以来、叔父は老婦人と何度も電話で話をしており、ヘレンはその話を聞いて、感動する。
ある日、叔父の留守の間に電話がかかってくる。
ヘレンは電話に出るものの、自分では相手にすることはできない。
彼女は何とか相手にできるよう念じると…」
・「第11話 ヘレンと間宮さん」(単行本A/「週刊少年チャンピオン」2009年6号)
「ヘレンが学校に行く前のお話。
ヘレンの恩人に間宮という看護婦がいた。
間宮は障害者になった彼女を時に厳しく接しながらも、ずっとそばにいて支え励まし続けてくれたのであった。
退院後もちょくちょくは会っていたものの、間宮は忙しく、なかなか会えなくなり、一年に一度は会う約束をする。
そして、その約束の日。
ヘレンは約束場所の公園でずっと待っているが、なかなかやって来ない。
間宮が約束を忘れたのかと考えていると、一人の青年が彼女のそばに現れ…」
・「第12話 ヘレンと夜空」(単行本A/「週刊少年チャンピオン」2009年7号)
「ヘレンは空を飛べる方法を発見する。
やり方は簡単、息を止め、お腹に力を入れ、思いっきり浮かぶことを想像するだけ。
その夜、ヘレンはヴィクターと共に空中浮遊の練習をする。
彼女たちがどんどん夜空に上っていくと、雲の上に人がおり…」
・「第13話 ヘレンとヴィクター」(単行本A/「週刊少年チャンピオン」2009年8号)
「ヘレンが小学生の頃、近所に大きな日本家屋があり、そこでは犬のブリーダーをやっていた。
ある日、ヘレンの一家は子犬をもらいにいく。
ヘレンは白い子犬を指さすが、その腕に噛みついたのがヴィクターであった。
これが縁となり、ヘレンはヴィクターを飼うこととなる。
ヴィクターのヘレンへの思い、そして、決意とは…?」
・「第14話 ヘレンからまれる」(単行本A/「週刊少年チャンピオン」2010年26号)
「小栗操の友人に御堂という問題児がいた。
彼は格闘マニアで、あちこちで喧嘩をしていたが、ある時、恨みを持った相手にボウガンで撃たれる。
矢は彼のこめかみに刺さり、彼は一命を取り留めるものの、視力を失う。
彼はそのことに絶望し、見舞に来たヘレンと操に助けを求めると…」
・「第15話 ヘレンと少年とesp」(単行本A/「週刊少年チャンピオン」2010年27号)
「ある日、ヘレンは昔、自分が入院していた小児病棟を訪れる。
そこにいるのは生命維持装置につながれた、危篤状態の少年だけであった。
ヘレンは彼から「死にたい」という意識を感じ取り、生きたいと思うようになって…と願いを伝える。
その晩、ヘレンのもとにその少年が現れるのだが…」
・「第16話 ヘレンと夢」(単行本A/「週刊少年チャンピオン」2010年28号)
「家にいると、ヘレンは誰かに呼ばれているような感じがして仕方がない。
その夜、彼女は奇妙な夢を見る。
夢の中では白い甲冑の武士と黒い甲冑の武士が争っており、白い方はボロ負けで、子供たちを黒い方にさらわれてしまったのであった。
彼女は白い甲冑の武士たちに同情し、馬や槍があれば勝てるのに…と考える。
次の夜、白い甲冑の武士たちは馬と槍で武装し、黒い方に圧勝。
ところが、今度は黒い方も同じく馬と槍を装備し、白い方はまた追い詰められる。
そこで航空機、誘導ミサイルとエスカレートしていくのだが…」
・「第17話 ヘレン食べ過ぎる」(単行本A/「週刊少年チャンピオン」2010年29号)
「駅前広場にある斉田幸ノ介という中年男性の頭部の銅像。
この像に関しては、名前しかわからず、どういう由来があるのか全くわからない。
だが、叔父が窮地に陥った時、ヘレンは彼がどのような人物だったのか知ることとなる…」
・「最終話 ヘレンの歌声」(単行本A/「週刊少年チャンピオン」2010年30号)
「ヘレンの町にサーカスがやって来る。
呼び物は巨大猪と少年のアクロバット。
演技は素晴らしかったものの、動物愛護を訴える輩の抗議により、サーカスは営業停止になってしまう。
少年は小学校に通うようになり、猪は貴重な種ということで、動物園で保護されることとなる。
だが、ヘレンは猪のことが気になり、日曜日、その動物園に出かけると…」
・「Extra Story」(描きおろし)
「ヘレンは点字マンガを読む。
どうにか読み終えた後、彼女は自分が話の中の人物ではないかと考え出し…」
単行本Aの裏表紙に「珠玉のハートフルファンタジー」と謳われておりますが、その言葉に偽りはありません。
実に素晴らしいファンタジー作品で、作品の根底には「善意」があり、読むと優しい気持ちになれます。
と言いましても、甘味料ベタベタな内容でなく、ハートフルなストーリーの裏には残酷な現実が潜んでおり、ほろ苦さも併せ持っております。
ちなみに、この作品の単行本は二巻だけです。
断続的に作品は発表されておりますので、打ち切りではなく、「視力・聴力・言葉を失った少女が感じる世界」を描写することがかなり困難だったのではないか?と私は推測しております。
ただ、内容的には残念ながら中途半端と言わざるを得ません。
特に、第一話でヘレンのせいで交通事故を起こしたと少し触れられておりますが、その件については明らかにされることはありませんし、また、「魔の力」についてもうやむやになっております。
これが気にかかっておりますので、いつか続編が描かれるよう心より祈っております。
2024年6月14・16日 ページ作成・執筆