瀬川乃里子
「幻影都市@」(1992年3月20日初版発行)
「幻影都市A」(1992年6月30日初版発行)
彩子ハートマン(14歳)は弁護士ジョン・ハートマンの養女。
彼女は〈サイコメトリー〉の能力を持ち、「人や物に触れるだけで互いの中にある情報を交換」することができる。
彼女は養父と共にフォートワースからニューヨークに移り、そこで彼女は家政婦アダ・エルナンデスの弟、ミゲルと出会う。
ミゲルは実はキューバン・マフィアの大物、エンゼルの手下であった。
この出会いが二人の運命を大きく変えることとなる…。
・「第1話 幻影都市」
「ニューヨークに引っ越してきた最初の日。
彩子は男性が手紙を落とすのを目にする。
手紙を落とした男性はタイラーという名前で、家族に宛てたものであった。
彼女は男性を追ううちに、人気のない町に入り込み、タイラーが刺殺される場面に遭遇する。
犯人はゴメスという中年男で、彼女はミゲルに捕らえら、地下室に監禁される。
超能力を使って、拘束を解き、上階の様子を見ると、地上階にはエンゼル、ゴメスの姿があった。
ゴメスが運び屋のタイラーが麻薬を持ち逃げしたと主張していると、その場にミゲルが現れる。
ゴメスとエンゼルがいない間に、彩子は彼に実際は自分がタイラーを殺して横取りしたことを教えるが、ゴメスにそれを知られてしまう。
二人はビルの屋上から非常階段で逃げようとするのだが…」
・「第2話 悪魔を呼び出した少年」
「ミゲルが彩子に相談を持ち掛ける。
彼は露店で麻薬の取引をしていたが、ある時、誤って麻薬の入ったテディベアを女性に売ってしまう。
後で女性に交換を申し出たところ、彼女は既にそれを小包で送っていた。
ミゲルは送り先の家に侵入するも、テディベアは見つからず、彩子に捜してくれるよう頼む。
しかも、ミゲルは家にいたジョーイという少年に顔を見られていた。
少年は悪魔を呼び出すことに凝っており、ミゲルを悪魔だと信じていた。
ジョーイの願い事とは…?」
・「第3話 袋小路の男」
「養父のハートマンの友人、ファーバー弁護士は心配事を抱えていた。
ある依頼を受けたものの、訴訟相手のバックにはキューバン・マフィアがいたからである。
一方、彩子は麻薬中毒の浮浪者と知り合いになる。
彼の過去を視ると、彼は過去にリンチを受け、妻はレイプされていた。
ある時、浮浪者は麻薬の過剰摂取をして、病院に運ばれるも、昏睡状態となる。
彩子は彼の心の中に入り、彼を「みんなのいるところ」へ連れていこうとする…」
・「第4話 ピットブルの反逆」
「キューバン・マフィアの大物、エンゼルはハートマン親子を調べ始める。
このままでは彩子との関係が知られてしまうとミゲルは単身でエンゼルと話をしに行く。
彩子は彼の身を案じ、超能力を使い、エンゼルの屋敷を突き止め、侵入。
そこで彼女はエンゼルの飼い犬、ラッシュと会い、心を通じ合わせる。
ラッシュがエンゼルの子分たちの気を惹いている間に、彼女は屋敷内に潜り込むが、エンゼルがロサンジェルスから戻ってきて、彼女はクローゼットに身を隠す。
エンゼルの片腕、エドムンドは、ジョン・ハートマンという男は既に死亡しており、顔だちも彩子の養父とは全く違うとエンゼルに報告する。
しかも、ニューヨークの前に住んでいたフォートワースではハートマン親子を捜す数人のグループがいた。
エンゼルは彩子をさらうことを決めるが、その直後、彼女はクローゼットで見つかり、ラッシュと共に一室に監禁される。
ミゲルはエンゼルに彩子のことを打ち明け、彼女を助けようとするのだが…」
・「第5話 ガラスの獣たち」
「彩子とミゲルはエンゼルの屋敷から脱走し、ブロンクスのソレダー伯母宅に身を寄せる。
彩子が家に電話すると、アダが応対し、ジョンから彩子をアダのアパートに連れて行くよう頼まれたと話す。
どうやらジョンの身に何かが起こったらしい。
手掛かりを得るため、彩子はアダに父親の所持品を一つ、ソレダー叔母宅へ持ってきてくれるよう頼む。
しかし、アダはなかなか来ず、ミゲルは様子を見に外出する。
その際、彼はいとこのダリオとペドロに彩子の監視を依頼する。
一方、いとこのフェリシタは恋人のマルセルからミゲルがエンゼルとつながりがあることを知らされ、金儲けのチャンスと考える…」
・「第6話 闇に棲む者」
「窮地を脱したものの、エンゼルから離れようとしないミゲルに愛想を尽かし、彩子は一人で養父を捜しに行くことにする。
ミゲルのいとこのダリオは彼女に想いを寄せ、協力を申し出るが、その時、一台の車が彼女の横に停まる。
運転手の男は彩子の養父がいる病院に案内するので、車に乗るよう言うが、彼女は彼の心が読めず、不審に思う。
ダリオは彩子と共に逃げようとするも、彼女は力を発揮することを拒否し、二人とも車で連れ去られてしまう。
この現場を目撃したペドロはソレダー叔母宅に戻ると、ミゲルが帰ってきていた。
その時、ドクター・レヴィンという人物から電話がかかって来る。
ミゲルがドクターの診療所に向かうと、銃で傷を負ったジョン・ハートマンガいた。
ミゲルは彼に彩子を誘拐した相手に心当たりがあるか問う。
彩子を誘拐したのは顔に血管の浮き出た、灰色のレインコートを着た女なのだが…。
ある目撃情報から、ミゲルはグランド・セントラル駅の地下に向かう。
一方、誘拐された彩子は心を閉ざし、サイコメトリー能力を失っていた…」
・「第7話 開かずの扉」
「彩子とミゲルはグランド・セントラル駅の地下から脱出する。
しかし、彩子はサイコメトリー能力を失い、何に触れても何もわからず、暗闇の中にいるように感じる。
更に、養父のいる診療所に向かうも、彼は血管女の仲間に連れ去られていた。
彼女は養父について肝心なことは何も知らず、また、「壁を壊せなかった」ことで多くの仲間を危険にさらしたことに苦しむ。
一方、エンゼルはジョン・ハートマンの雇い主、ディッカー・ウィリアムズをさらい、ハートマンについて本当のことを聞き出す。
ジョン・ハートマンの正体とは…?
そして、彼と血管女、そして、彩子の関係とは…?」
・「第8話 夢の終焉」
「彩子は血管女と養父の居場所を突き止め、ミゲルと共に向かう。
血管女の仲間たちは彼女が来るのを待ち望んでいた。
その頃、エンゼルもハートマン親子を追って、血管女の隠れ場に来ていた。
彼は彩子を人質に取るのだが…。
そして、明らかになる恐ろしい真実…。
彩子の決断とは…?」
・「第9話 エンゼルの後継人」
「彩子は三年ぶりに昏睡から目覚める。
彼女のもとに真っ先に訪れたのはミゲルであった。
二人は以前のように付き合うが、サイコメトリー能力を失った彼女は、ミゲルがマフィアと関わっているのかどうか不安に思う。
また、ミゲルもはっきりしたことを言おうとしない。
しかも、ミゲルとダリオの仲が非常に悪いことを知る。
ダリオはミゲルに対して劣等感が激しく、更に、彩子のとの件がそれに拍車をかけていた。
彼はファロンという男と共に野良犬の世話に取り組んでいたが、ファロンには恐ろしい秘密があった…」
・「第10話 現実都市」
「ある日、彩子は41分署のグレイという警官に声をかけられる。
グレイによると、一月前、キューバン・マフィアのドン、カーマイン・コスタが一人の少女に銃撃された。
未遂に終わり、逃げる少女をコスタの取り巻きの一人が追うが、それがどうやらミゲルらしい。
これにより、彩子の心にミゲルに対する疑心暗鬼が強まる。
彼女はしばらくミゲルから距離を取ることにし、ダリオのもとを訪れる。
ダリオは保護した野犬を廃工場で世話していた。
そこで彼はディディというティーンと出会う。
ディディは「死神」を待っているというのだが…。
ディディの「死神」とは…?」
「超能力もの」の隠れた良作です。
この手の作品は派手さが身上ですが、この作品では触れることで気持ちを交換する〈サイコメトリー〉能力がテーマで、ハート・ウォーミングかつ静謐感溢れる人間ドラマが展開します。
また、ラスト付近では、超能力を失い、人の気持ちを知ることのできなくなったヒロインが人間を「信頼」することができるようになるまでが描かれ、こういう内容を扱った作品は少ないのではないでしょうか?
あと、舞台がニューヨークというのは目新しくありませんが、登場人物の大半がヒスパニック系というのは当時としては斬新だったように思います。(注1)
恐らく、瀬川乃里子先生はアメリカ映画をたくさん観て(ギャング映画の比率高め?)、作品の設定に採り入れているようですが、なかなか雰囲気を出しております。(アメリカ合衆国に住んでたこと、あるんでしょうか?)
また、スラム街やホームレス、キューバン・マフィアと裏社会が扱われることで、作品に厚みを持たせております。(その代わり、エグい描写も多いです。)
まあ、単行本で二冊しかなく、ボリューム不足は否めませんが、興味のある方は読まれて損はないと断言いたします。
単行本はちょっと手に入れにくいのですが、電子書籍で簡単に読むことができます。
・注1
先日観たミュージカル映画の「フェーム」にもプエルトリコ出身の登場人物がいました。
私にヒスパニック系についての知識がさほどなく、大して理解できなかったのが残念…。
2024年7月17〜19日 ページ作成・執筆