わたなべまさこ「天使と挽歌@」
(日向葵・原作/1977年5月15日初版・1981年11月20日5刷発行)

 赤い血が染みついた宝石の指輪。
 それは、中世の頃、悪事の限りを尽くした魔女、ローズバッドの持ち物であった。
 彼女は富、名声、快楽とあらゆるものを手に入れたが、唯一、「真実の愛」だけは得ることはなかった。
 ギロチンにかけられる前、魔女は指輪に、世の中の恋人達への呪いをこめる。
 そして、時は流れ、現在…

・「かたつむり」
「バレエダンサーの森田了は、骨董屋でローズバッドの指輪を手に入れる。
 彼は、この指輪で、日本バレー界のプリマドンナ、深山小百合にプロポーズするつもりであった。
 だが、高慢ちきな深山小百合は彼との約束をあっさり反故にして、南條財閥の御曹司のプロポーズを受ける。
 悲嘆に暮れた彼は指輪を、「かたつむり」とあだ名されるサクラ真紀にあげる。
 真紀は、孤児となって施設を転々としていたところを深山小百合に拾われ、バレエの世界に身を投じたのであった。
 しかし、小百合に濡れ衣を着せられた上に、辱めを受け、真紀は、憎悪のあまり、バレエシューズの滑り止めと潤滑剤の蝋を入れ替える。
 次の公演の際、小百合は転倒して、バレエを踊れない身体になってしまう。
 追い打ちをかけるように、南條財閥の御曹司には捨てられ、小百合は自殺。
 罪の意識から退団を決意する真紀であったが、次のプリマに選ばれたのは彼女であった。
 彼女の才能は華麗に花開き、欲しいものを次々と手に入れていくが…」

・「獅子(シャール)の門(ハーラヨット)」
「アラブのとある国。
 フランス人留学生のクリスチーヌは、露天商の老婆からローズバッドの指輪を手に入れる。
 幸せの星が見えるという占い通り、彼女は、王宮でのパーティーで、皇太子アル・ラシードに見初められる。
 皇太子はクリスチーヌに求婚するが、彼に想いを寄せる従妹、ガーデルは猛反対。
 それでも、彼の愛は揺るがないかに思われたが、イスラム文化を理解しようとしないクリスチーヌとの間に次第に乖離が生じていく。
 一方、二人の結婚を阻止するため、ガーデルは最後の方法を取ろうとしていた…」

・「去りにし君へ…」
「カリフォルニア。
 インディオの血の流れるジェフ・アーチャーは、大農園の令嬢、エヴァ・ストラスバーグと恋仲となる。
 しかし、白人主義者の父親に仲を引き裂かれ、二人は駆け落ちを決意。
 二人の愛の証として、ジェフはエヴァにローズバッドの指輪を贈る。
 しかし、エヴァが待ち合わせの森に向かっている途中、二人のならず者に拉致され、麻薬中毒にされてしまう。
 一方のジェフは、エヴァに裏切られたと思い込み、彼女をいつか見返すことを誓い、一人、ヨーロッパへ飛ぶ。
 三年後、ジェフは、世界的なピアニストとしての第一歩を踏み出していた。
 彼は、アメリカ公演の際、カリフォルニアでのコンサートを望む。
 だが、彼は、意外な場所で、エヴァと再会するのであった…」

・「この愛の終わりに」
「彗星のように現れ、瞬く間にトップへと登りつめた、テニス・プレイヤーのエリック・ぺテル。
 彼のガッツの源は、ローズバッドの指輪であった。
 二年前、新進のテニス・プレイヤーであった彼は、ある伯爵夫人のパーティーに招かれる。
 そこで、伯爵夫人の息子、ロベールの企みにより、伯爵夫人所有の、ローズバッドの指輪を盗んだという濡れ衣を着せられる。
 だが、彼に想いを寄せるメイドのアンナが彼の身代わりとなり、彼は屈辱の記念として、この指輪を貰い受けたのであった。
 成功した彼は、高慢な金持ち連中を見返すため、伯爵夫人・主催の慈善パーティーに出席する。
 そこで、彼は王女カトリーヌと運命の出会いをする。
 身分の壁を越えて、愛し合う二人であったが、二人の仲を妬くロベールは卑劣な方法を用いて、エリックを破滅させようとする…」

 内容は「呪いの指輪をめぐる怪奇ロマン」です。
 ただし、設定に怪奇色があるだけで、ストーリーは(基本的には)「一度は結ばれるものの、引き裂かれたり、破滅したりする男女の愛憎ドラマ」なんです。
 と書くと、がっかりする怪奇マンガ・ファンの方もいるでしょうが、漫画としては、大ベテランの、わたなべまさこ先生が描かれた作品ですので、非常に読み応えがあります。
 また、この作品は、日向葵先生が原作についておりますので、舞台やキャラもバラエティー豊かで、楽しめます。
 普通に、名作でありましょう。

 個人的に、印象に残ったのは「かたつむり」。
 私はバレエについては知識も興味も皆無ですが、女性漫画家がバレエを題材に描くと、どことなく絵に艶と活気に出てくるのが、不思議に味わい深くありました。

2019年5月14日 ページ作成・執筆

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