小山田いく「合歓レポート」(1992年1月15日初版発行)

・「Page.1 熱い霧」
「小春日合歓(こはるび・ねむ)は臆病な女の子。
 小学五年の夏の暑い日、彼女は親友の本田、千香、省二と、元・神社にあった池の畔で遊んでいた。
 突然、にわか雨に襲われ、合歓、本田、千香は帰宅するが、省二は一人、池に残る。
 その晩、池の畔で、省二の遺体が発見されるが、その死体は塩酸か硫酸をかけたかのように焼け焦げていた。
 三年後、中学二年生になった合歓(14歳)は、省二の命日に池の畔を訪れる。
 その場所には省二の両親がお地蔵さんを立てていたが、お地蔵さんは何故かボロボロに朽ち、その顔は苦しみに歪んでいるように見える。
 前と同じように雨が降り出し、合歓は怯えてその場から逃げ出す。
 道路に出ると、単車の女性にぶつかりそうになるが、その直後、女性の悲鳴が聞こえる。
 振り返ると、単車の女性が、省二と同じ死に方をしていた。
 合歓は、省二がまだ成仏していないと考えて、本田と千香をお地蔵さんの場所に連れて行くのだが…。
 省二を殺した犯人の正体は…?」

・「Page.2 死水母」
「夏。
 小春日合歓は、いとこの早苗と共に、二泊三日の海水浴に出かける。
 早苗は「岸田屋」という小さな旅館に毎夏泊っており、旅館の息子の宣くんとは馴染みであった。
 だが、今年は少し様子が違う。
 主人のおじさんは姿を見せず、おばさんも宣くんもどこかよそよそしい。
 特に、刺身からビニール片が出てきた時のおばさんの態度は露骨におかしかった。
 その夜、宣くんが岬の上に行くのを目にして、二人はその後をつける。
 そこでは幾人もの男達が集まり、焚火をしているように見えたが、実際は魚や鳥の死骸を持ち寄っていた。
 二人は逃げ出すが、合歓は奇怪な夢を見た後、あることに思い当たる。
 翌朝、合歓が浜辺へ行くと、宣くんや近所の旅館の人達が清掃をしていた。
 そして、昨夜、焼いていたのは、海に捨てられたビニール袋等を飲み込んで、死んだ動物の死骸だと明らかになる。
 このゴミは、岬を一つへだてた海水浴場に建つリゾートホテルから出ていたが、何も効果的な手は打てない。
 夜、合歓は窓の外に宣くんの姿を目にして、彼の後を追うと…」

・「Page.3 枯れた地平を見ぬように」
「合歓は、本田に肝試しに誘われる。
 肝試しをする場所は、廃墟となった「地球と未来の未来博」の展示場。
 そこには「地球の未来館」だけが残っていたが、ここでは作業員が変な人影を見たり物音を聞いたりして、解体が進んでいなかった。
 二人一組になって、パビリオン内を進むこととなり、合歓の相方は千香。
 二人が通路を進むと、本田が「地球の未来像」のパネルをいじっていた。
 これは、何年後とか世界人口の増加率等、様々なデータを入力すると、その条件の未来の地球像が立体映像で浮かび上がるという機械であった。
 これに夢中になっているうちに、最後尾となり、三人は出口に向かおうとする。
 その時、地震が発生。
 何とか無事だったものの、既に朝になっていた。
 慌てて彼らはパビリオンから出るが、どうも街並みがいつもと違う。
 合歓が帰宅すると、そこには…」

・「Page.4 空の創世記」
「まだ残暑の厳しい九月。
 合歓は町から鳥の姿が見えないことに気付く。
 更に、虫の類も姿を消していた。
 ある暑い夜、合歓は、奇妙な唸り音のようなものを耳にして、上空に「なにか大きなもの」が動いているのを目撃する。
 翌日、彼女は、周囲から変人扱いされている老人と話をする。
 老人は元・気象台員であった。
 彼は、太古の海の淀みで生命が誕生したことを引き合いに出し、大気の淀みの中で今、新たな生命が生まれたと話す。
 その生命を生み出したものとは…」

・「Page.5 フォメ(飢餓)」
「合歓のクラスメートである下倉弓子。
 彼女は、好きなタレントが細い子が好きと言うのを聞いて、無理なダイエットに励む。
 だが、ある日、彼女は急に行方不明になる。
 数日経った頃、校舎裏の倉庫のあたりで、痩せた小さな人間の幽霊がうずくまっているのが目撃される。
 その倉庫に、合歓と千香が折りたたみ椅子を取りに行くと、機銃弾の空薬莢のペンダントが落ちていた。
 用務員のおじさんによると、それは太平洋戦争中、空襲で両親を亡くした子供達が形見として身に付けていたもので、このあたりでは戦後、四人の戦災孤児が防空壕に住み、助け合って暮らしていたという。
 だが、入り口が崩れ、三日後に掘り出された時には、先に死んだ一人に三人が噛みついた状態で死んでいたのであった。
 その話を聞いた後、合歓が空薬莢のペンダントを見つめていると、あることを思い出す。
 放課後、下倉弓子の親友、諏訪部と共に、合歓は倉庫を訪れるのだが…」

・「Page.6 現在」
「ある朝、合歓は町の上空を朱鷺(トキ)が飛んでいるのを目にする。
 学校でクラスメートに話すも、誰も信用してくれない。
 すると、生物部に所属している男子生徒が、四組の辺見に話を聞くよう勧める。
 辺見は病気がちの男子生徒で、絶滅した動物や絶滅危惧種に興味を持っていた。
 放課後、合歓は辺見に話しかけるが、トキの話になると、彼は逃げ出す。
 以来、合歓は何度も彼と話をしようとするも、いつも同じ場所で、彼は姿を消す。
 そのうちに、彼は体調を崩し、学校を休んでしまう。
 ある日、合歓が、辺見が姿を消す場所に行くと、トキが飛んでいる。
 トキを追った先に、辺見の姿があった。
 辺見は彼女を塀のドアの中に誘う。
 その中は、自然で満ち溢れた森になっていた。
 動植物が豊富で、絶滅した種や絶滅危惧種でさえ、ここには棲んでいる。
 辺見はここを理想郷と呼ぶが、この「理想郷」の秘密とは…?」

 小山田いく先生が、地球の環境破壊への怒りと警告を込めて、「週刊少年チャンピオン」」に掲載した力作です。
 多少、ヒステリックな感も否めませんが、この漫画が描かれてから三十年間、環境問題を放置していたつけがどれほど、私達の生活を脅かしているのか考えると、あながち過剰反応だったとも言えません。
 とは言え、目の前の欲望と将来を天秤にかけ、人類はいつも目の前の欲望を選んできました。
 ここまで来てしまっているので、近い将来、滅びるなら、滅びるで致し方のないことでしょう…。
 それから、この作品、グロ描写は予想以上に激しいです。
 小山田いく先生は後年、怪奇マンガのジャンルに進みますが、既にその芽は出ていた模様です。

2022年1月2・3日 ページ作成・執筆

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