小山田いく「臨死界より」(1997年3月31日初版発行)

 収録作品

・「魂七夕」(1996年「サスペリア」8月号)
「純(すみ)は星座に憧れを持つ少女。
 中学に入った時、天文部に入るつもりだったが、去年、廃部になっていた。
 と言うのも、夏の夜、屋上にある天体観測ドーム内で、天文部の三年生男子が不審死を遂げたからである。
 更に、夏休み前の大掃除にて、そこでまた、元・天文部員の二年生女子、河本百合子の死体が発見される。
 彼女は七夕の日から行方不明になっていたが、その死体は、風船が割れるようにはじけて、周囲の壁には内臓が飛び散っていた。
 純は、図書館で、星座の本の間から、河本百合子のノートを見つける。
 このノートには、以前、顧問の先生が地方で見つけた、七夕の晩に死者の魂と出会う呪法について書かれていた。
 変死した三年生男子や、河本百合子はこの呪法を試したらしい。
 亡くなった二人が犯した過ちとは…?」

・「送り火ゆれて」(1996年「サスペリア」9月号)
「由芽は頼りない少女。
 夏休み、一人旅をする予定を、家族に反対され、家をとび出す。
 適当な電車に乗って、適当な無人駅で降り、開放感を満喫するが、いつの間にか、道に迷う。
 森の中を駅を探して歩くうちに日が暮れると、彼女の目の前に、亡者達の群れが現れる。
 そこを通りがかった老婆に助けられ、由芽は、老婆の家に一晩、厄介になる。  老婆によると、この地では、死者の魂は霊山に向かい、盆にはその霊が下ってくるという。
 老婆の村はその通り道になっており、無縁仏や妖怪が現れるため、村人達は留守にするか、家から出ない。
 老婆とその家族と過ごすうちに、由芽は家族というものについて考えることとなる…」

・「臨死界より」(1996年「サスペリア」10月号)
「果菜は、風呂がまのガス爆発により、病院に運ばれ、手術を受ける。
 手術の最中、彼女は、生と死の狭間にある世界で、白い仮面を付けたモンスターに襲われる。
 モンスターは執拗に果菜をつけ狙うが、彼女のピンチには、巨大な昆虫が現れ、果菜を助ける。
 巨大な昆虫は、モンスターは生霊で、冥界の自分には倒せないと果菜に話すのだが…。
 モンスター、そして、巨大な昆虫の正体とは…?」

・「渡り鳥たち」(1996年「サスペリア」11月号)
「冬の到来を目前に控えた、北海道の森。
 その中の一軒家に、女性が一人で暮らしていた。
 彼女は、毎冬、ここで冬を過ごす鳥たちのために、準備をしておかなくてはならない。
 ある夜、少女をつれた誘拐犯がこの家にやって来る。
 女性は少女にいろいろな鳥の話をして、少女を慰める。
 女性は自分は「渡り鳥」で、冬の間は南に行くと話すのだが…。
 この家で冬を過ごす鳥の正体とは…?」

・「雪降る夜に」(1997年「サスペリア」1月号)
「大雪警報の出た東京。
 公美は、征江は幼なじみであったが、男友達の件で口論しているうちに、征江を刺殺する。
 途方に暮れた公美は、親友の雪会のマンションに向かい、彼女に相談。
 雪会は、雪を利用して、征江の死体を隠すよう提案し、二人で死体を袋に詰め、川へと遺棄する。
 その後、公美は雪会のマンションに泊まる。
 睡眠薬でぼやけた意識の中、公美は、雪会の部屋に征江が訪れる物音を聞く。
 征江と雪絵の会話では、どうも、公美の死体を遺棄しに行ったようなのだが…」

 コズミック・ホラー「魂七夕」、泣ける「送り火ゆれて」、悪夢的な「臨死界より」「渡り鳥たち」「雪降る夜に」とバラエティ豊かな単行本で、小山田いく先生の実力と魅力を堪能できます。
 個人的なお気に入りは、ヒューマンな「送り火ゆれて」と「雪降る夜に」。
 バッド・トリップな作品も悪くはないですが、やはり、ヒューマンな要素が入っていた方がしっくりきます。

2020年12月2日 ページ作成・執筆

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