楳図かずお「おろちA」(1971年6月10日初版・1980年12月20日29版発行)

 時を超えて、さまよい続ける少女、おろち。
 彼女が目撃する、あまりに奇怪な人間ドラマの数々とは…

・「かぎ」
「幼稚園児のひろゆきは「うそつき」と呼ばれ、皆から鼻つまみ者。
 両親が共働きのため、彼は鍵っ子で、幼稚園から帰っても、団地の部屋で一人、過ごさねばならない。
 幼い彼は、周囲の感心を惹こうと嘘をつくものの、ますます敬遠されるようになり、更に嘘をつくという悪循環になっていた。
 ある日、彼は、ベランダを伝って、隣の部屋を覗く。
 そこで彼は、隣部屋の母親が足の悪い娘を扼殺するところを目撃する。
 ひろゆきはすぐに自分の部屋に戻るが、その際、植木鉢ををひっくり返し、更に、部屋の鍵を隣のベランダに落としてしまう。
 彼は自分の母親にこのことを訴えるが、全く信じてくれないばかりか、隣部屋の母親にこのことを話してしまう。
 翌日、幼稚園が休みで、彼は一人で留守番をしなければならない。
 隣部屋の母親が自分を殺しに来ると考え、彼は団地から逃げ出すのだが…」

・「ふるさと」
「杉山正一は中瀬村で産まれ育った。
 中学卒業後、都会に出るが、悪い友人にだまされ、転落の一途をたどる。
 時が経ち、東京で一端のヤクザになった彼は、縄張り争いに巻き込まれ、重傷を負って、病院に運び込まれる。
 症状は悪化する中、意識の奥底で、彼は「ふるさと」に帰りたいと強く願う。
 願いが叶ったのか、早々に傷の癒えた彼は、故郷の中瀬村に向かう。
 両親や友人達も彼の帰郷を心から喜んでくれるが、どこか村の様子はおかしい。
 そして、奇怪な出来事の中心には、新次という少年の姿があった。
 新次は、正一の幼なじみである良子の一人息子であったが、彼には不思議な力が備わっており、村人は誰も彼に逆らうことはできない。
 ある夜、新次は村を外部から遮断して、村の子供達を操り始める。
 彼の目的は…?
 そして、中瀬神社に祀られていた、空から落ちてきたと言われる「光る石」の秘密とは…?」

 「かぎ」は、楳図かずお版「嘘つき少年」です。
 後半の追跡劇がスリリングで、サスペンスとしては上出来ではないでしょうか。
 また、「ふるさと」も興味深いです。
 ポイントは、スーパー・チャイルドものの代表的傑作、ジェローム・ビクスビィ「きょうも上天気」と、映画「光る眼」(原作はジョン・ウィンダム「呪われた村」)の影響がダイレクトに出ているところ。(ちょっぴり「ゾンビ」も入っております。)
 当時の怪奇漫画家さん達は、欧米の怪奇小説や怪奇映画に多大な影響を受けておりますが、楳図かずお先生や水木しげる先生も例外ではありません。
 ただし、そこに絶妙な「アレンジ」を加え、恐怖の新たな側面を描き出していることが、、両先生が「巨匠」と呼ばれる所以だと私は考えております。
 とは言え、たまに、影響が露骨に表れて、「どっかで見た(読んだ)ような…」という作品があったりします。
 でも、それはそれで、映画や小説への作者の「熱狂」や「愛」が溢れ出ているような気がして、味わい深く思います。

・備考
 巻末に「足立蔵書」印。

2019年10月3日 ページ作成・執筆

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