犬木加奈子「プレゼントA」(1995年7月10日初版発行)

 クルミはお誕生日にプレゼントをもらえなかった、十歳の女の子。
 その日からずっと、彼女は自分のプレゼントを捜して、さまよい続ける…。

・「第1話 サンタの贈り物」
「その@」
 教育熱心な両親を持つ少年がサンタに願ったものは、野球のバット。
 勉強しろと口うるさい両親から逃れるために、野球部に入るも、練習はきつく、思い通りにはならない。
 野球部をやめたことをきっかけに、彼はどんどんやさぐれていき…。
「そのA」
 両親が借金まみれで、とても貧しい家庭の少女がサンタに願ったものは、かわいい娘の人形。
 少女は人形を通して、夢を膨らませていくが、成長するにつれ、夢は肥大した欲望へとすり替わり…。
「そのB」
 頭の良い少年がサンタに願ったものは、パソコン。
 彼はクラスのまとめ役で、多くの人から信頼を得ていたが、陰では、パソコンを用いて、人をはめ、操る。
 彼は邪魔な人間を消し、思い通りの道を歩んでいくのだが…。

・「第2話 星の贈り物」
「母親を亡くし、父親は出稼ぎに出かけ、二人きりで暮らす兄弟(セイとシンイチ)。
 兄のセイはしっかり者で、朝早くバイトに出かけ、病弱なシンイチの面倒もよく看る。
 シンイチはそんな兄が大好きで、兄の夢を叶えたいといつも願っていた。
 兄は天体観測が大好きで、発見されていない星を見つけることが夢であった。
 そのためには、もっと優れた性能の望遠鏡が必要だが、アルバイトで貯めた金はシンイチが体調を崩すたびに治療費に消えてしまう。
 ある日、シンイチは、天体望遠鏡の店でクルミという少女と出会う。
 彼女はシンイチに、子供の日限定の福引券をプレゼントをして、この福引でシンイチは天体望遠鏡を当てる。
 しかし、それは彼の全ての運と引き換えであった…」

・「第3話 死神のプレゼント」
「クルミは、プレゼントを持った女子生徒達を見かけて、大学病院にやって来る。
 女子生徒達が訪れた病室には、病魔に蝕まれた少女、イノリが臥せっていた。
 イノリには、級友からのお見舞いの贈り物の他に、死神から「安らぎのプレゼント」が差し出される。
 クルミはそれを阻止するのだが…」

・「第4話 あなたの望むプレゼント」
「朝、ハズミは学校の下駄箱に花束と手紙が入っているのを見つける。
 手紙には「あなたの望むものすべてをプレゼントします」と書かれていた。
 以来、彼女が欲しいと思ったものはどんなものでも贈られる。
 だが、学校の机や下駄箱に入るものならともかく、家にまでプレゼントが届くようになると、彼女は次第に気味悪く思い始める。
 誰が贈っているのか、どうして彼女の望むものがわかるのか、どうやってそれを手に入れているのか全く分からない。
 ある日、教室で彼女は、ある変わり者の男子にハンカチを貸したことを思い出す。
 今までのことは全て彼の仕業と思うと、彼女は絶えず彼から見張られているような感じにつきまとわれるようになり…」

・「第5話 贈られた子供」
「タカ子は金持ちの娘。
 彼女はクラスの女子達にプレゼントを配って、いいなりにしていた。
 しかも、わざと一人の女児だけ孤立させ、女子達にいじめさせる。
 ところが、見知らぬ少女だけはタカ子のプレゼントを受け取ることを拒否。
 これをきっかけに、クラスメート達はタカ子に今までもらったプレゼントを突き返す。
 愕然としつつ、彼女が帰宅すると…」

・「第6話 夢の贈り物」
「シン子とサキ子は友人同士。
 二人は両親が離婚して、継母という共通項があった。
 サキ子に誘われ、二人は「デレラ王国のお妃」に応募する。
 条件は以下の四つ。
@美人であること
A15歳から25歳までの独身女性であること
Bまま母がいること
C(展示してある)ドレスがぴったりであること
 二人はコンテストに参加し、まず、ドレスが合うかどうかの審査に通る。
 だが、審査を重ねるにつれ、厳しさを増す。
 シン子は、夢を叶えようと意地になり、耐え続けた結果…」

・「第7話 人形遊び」
「葬儀屋の娘は人形が大好き。
 ある日、葬儀屋は病死した少女の葬儀を受け持つ。
 母親は少女が遂に遊ぶことができなかった人形を一緒に棺に入れるよう頼み、葬儀屋に渡す。
 その人形は非常に高価な人形で、惜しんだ葬儀屋は人形を棺に入れず、娘にプレゼントする。
 娘は大喜びして、マリと名付けた人形と遊ぶのだが…」

・「第8話 鍵」
「マンションのドアの前で、ショウという少年が何かを捜している。
 クルミが声をかけると、彼は両親からの一番大事なプレゼントをなくし、部屋に入れないと話す。
 彼の言うプレゼントとは、家の鍵であった。
 彼は鍵を六歳の時の誕生日に両親からもらい、以来、彼は両親が帰宅するまで「オルスバン」をする。
 だが、クルミはそんなプレゼントなら失くした方がマシと言い放ち、外で自由の方がずっといいと話す。
 ショウはクルミについていき、「ただの子供」になるのだが…」

・「第9話 サンタになりたかった三太」
「三太はサンタクロースに憧れる老人。
 三男故に蔑ろにされた彼は自分のためだけに働いてきたが、妻の死後、子供は離れ、今は一人ぼっち。
 だが、ある日、公園で女の子に風船をあげたことから、人に与える喜びに目覚める。
 彼は子供達にプレゼントし続けるも、もう金は尽き、空っぽの箱しかあげることができない。
 クルミは、ただの箱でもその思いを受け取れる子供がいれば、三太はサンタになると話す。
 老人はサンタになれるのであろうか…?」

・「第10話 形見のプレゼント」
「角田サキ子と丸山マミ子は親友同士。
 でも、最近、マミ子はサキ子と容姿でも成績でも差をつけられて、忌々しく思っていた。
 ある日の下校途中、マミ子はサキ子がブローチを胸に付けているのに気づく。
 そのブローチは外国にいるおじが買ってくれたカメオで、女性の横顔が彫ってあった。
 マミ子は、サキ子が持っているというだけで、そのブローチが欲しくてたまらなくなり、サキ子に自慢しているみたいと嫌味を言う。
 そして、二人がもし親友なら、その証として、そのブローチを譲るよう迫る。
 困ったサキ子はブローチをマミ子への形見にすると約束し、その代わり、二人は一生いつも一緒の親友と誓い合う。
 ところが、サキ子は火事で大火傷を負い、数日後に死亡。
 形見のブローチはサキ子と一緒に火葬にされてしまう。
 その日以来、毎夜、マミ子はサキ子の夢を見るようになるのだが…」

 ダーク系の「あなたの望むプレゼント」、「人形遊び」、「形見のプレゼント」は犬木先生らしい怪奇マンガの良作です。
 その一方で、「星の贈り物」「サンタになりたかった三太」といった心温まる感動系の作品も、犬木先生らしい繊細さが隅々にまで行きわたっていて、実に素晴らしい。
 「泣ける!!犬木加奈子」みたいなアンソロジーを編集してみたら、幅広く受けるのではないか?と私は思っております。

2023年1月17・21日 ページ作成・執筆

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